第17話 ふわふわふわふわフラッフルン
「ウルド、死者操作をしていた体の生前の記憶ってどこかに残ってるものなの?」
《それは無いじゃろうて、生き物が死ねば『宿る力』が抜けるでな。残っているとすればこの世とどこかで繋がっているということじゃ》
「
ガチャ━━
「バーバラ来なさい。お母様がお呼びよ」
呼びに来たのは姉のリンナ、1階の奥まった場所にある部屋に連れられた。扉には『ハプーン家の女性以外入室厳禁』と書かれた板が掛かっており、中は艶やかなイメージで彩られていた。
「バーバラ、そこに座りなさい」
怖い顔の母、テーブルから少し離れた場所に置かれた1脚の椅子を指差す。言われるがまま座るとテーブル越しに母と姉ふたりが座って睨みつけた。
「いいこと、ハプーン家は有能な男と血縁を結んでこその一族なのよ、どんな手を使ってでも名のある者と結婚するの、私のように公爵家を迎えられるように努力するのよ」
「あの……それに何の意味があるんですか?」
「んまぁ、反抗的な態度は許しません。それがこの家に生まれた者の宿命なのです。それが出来ないようであればハプーン家には必要ありません」
まったく、何て家だ。こんなつまらないことを幼いうちから叩き込まれたら絶対に性格が歪むだろうなぁ。
ドガン……ガッチャーン……キャー……
「なんだか外が騒がしいですわね」
家具が投げられ破壊された音、人が飛ばされる叫ぶ声……「お嬢様ー」という声が遠くから幾重にもくぐもって聞こえてくる。
「何かしら……従者たちは何を遊んでいるのかしら」
不穏な音が部屋に近づいてくる。ただならぬ気配を扉越しに感じると、女性たちは不安な表情を浮かべ、見えぬ恐怖に震え出した。
バキッ━━強い衝撃音。
扉が木っ端微塵に砕け散った。煙幕のように広がる塵が視界を奪う──その先にうっすら見える人影。
「「「バーバラ」」」
そこに立っていたのは正真正銘
右手に持つ鞭を大きく振ってテーブルに巻き付けると、勢いよく中空に放り投げて落下を待つことなく言葉通りに八つ裂きにした。
「お母様、リンナ姉様、ミサオ姉様。バーバラはただいま戻りました……あら、そこにいるのは……私の体を持ち去ったのはあなたですか」
ニコリと笑顔になるバーバラ。友人としてなら微笑ましく見える表情もこのシチュエーションでは恐怖を想起させる。あまりにも普段と違う雰囲気のバーバラにハープン家の女性たちは身を寄せあって子犬のように怯えていた。
躊躇なく飛んでくる鞭、蜘蛛レオンとしての僕は余裕で避けられる……が、使者操作によって動かしている体の方が反応できていない。
《死者操作が1上がりレベル9となりました》
ダメだ……既に首に巻き付こうとしている鞭、やり返すわけにはいかない状況。
咄嗟に体を捨てて次元歪曲で生首のまま外に逃げた。
屋敷からはこの世の終わりのような叫び声が奏でられたのであった。
変なところでレベルが上がるのは本当に止めて欲しい……それにしてもバーバラに何があったんだ。頭上のレベルが随分と上がっていたけど……昨日の今日で倍、それに熟練者と言えるほどの鞭さばき。
《うーん、考えたくないが可能性はあるかもしれんの……》
「何があったのか分かるの?」
《確証はない。独り言だと思って聞き流すのじゃ……あんな天災クラスの種族が復活したなんて考えたくないのじゃ》
めっちゃフラグ……よし決めた。関わるのはやめよう。せっかく異世界に転生したんだから平和に暮らしたいもん。 ……こんな姿だけど。
《それが良いかもしれん。あとは
あ……忘れてた。「も……もちろんだよ。少し文献を漁って場所の目星を付けないと……そうだそうだ、そのためにもやっぱり人の体を……」
《心の声が聞こえていたがまぁ良い。とりあえず家に帰らんか? 我も疲れたのじゃ》
「ウルドも疲れることがあるの?」
《当たり前なのじゃ、我だって生きておるでな。主が起きている間はこの姿を常に保たなねばならんのじゃ》
この姿で歩き回るわけにはいかないし……かといって夜まで待つのはきつい。
と、いうことで人に見つからないように人影を避けて家まで帰った……何度か見つかって大騒ぎになっていたのはまた別の話である。
「ふぅーやっとついた」
《主は隠れるのが下手じゃのう》
「そんなこと言ったってあの辺りは人が多すぎるって」
コンッコンッ──
「すいませーん、誰かいませんかー」
誰だ!結界が張られているはずなんだけど……。
とりあえず隠れないと──こんな時に持ち前の素早さが生かされるのだ。
周囲を窺いながら恐る恐る部屋に入ってくる女性、反応の無さに焦ったのか「誰かいませんかー」と探るように大声をあげた。
メイレーン? なんで彼女がこんなところに……ドライニアさんが張った結界を破って来たのか。
「蜘蛛レオンさんに『その地を守る者』からの言付けを預かってきました」
どういうことだ?
ユウノの頭に変態、この姿ならメイレーンと会話が出来る。傍から見れば家具の影に生首が転がっているようにしか見えないだろうけど。
「そのまま言付け聞かせてもらっていいかな」
「あれ? その声は……ユウノさん?」
メイレーンは周囲をキョロキョロ見渡して大きな息を吐くと肩の力を抜いた。
「私たちフライ家は、その地を守る者であるドライアド族と繋がりをもっているんです。守る者が特定の人と接触を続けることで正体がバレないように、私たち一家が伝達役となっています」
「それで何を言付かってきたの?」
「はい、来週の中等部卒業式にはどんな形でもいいから必ず出席して欲しいと」
うーん、あんまり関わりたくない。でもドライニアさんの頼みということは何らかがあるだろう。行ってあげたいけど……体がないんだよなぁ。
「ちょっと考えてみるよ」
「分かりました。よろしくお願いします」
卒業式に来いって一体どういうつもりだ。もしかしてグラッセス家に事件が? いやいや、ハプーン家は大変なことになってたしそっちか……。一体僕に何を見せようっていうんだ。
《どうするのじゃ、エアフィルダール迷宮に行って手頃な体でも見つけてくるか?》
「ねぇ……なんかそのセリフ……使い捨ての権化みたいな言い方じゃない」
《逆じゃな、放置された死体を再利用する……ある意味有効活用じゃ》
そういう考え方か、ただ迷宮で体を見つけても部外者じゃ学校に入れないだろうし……。
《学校の備品に化けるのはどうじゃ……》
そうか……いや、卒業式の間ジッとしているのはきついって。それに式が終わったら片付けられちゃうでしょ……いや、備品? 小さいモノ…… そうだ!
◆ ◆ ◆
《ハッハッハ、傑作なのじゃ。主も可愛くなったよのぉ》
「やめてくれよ。僕だって恥ずかしいんだから……」
《何を言っておる、嬉しそうに撫でられていたではないか》
もっふもふした毛が特徴のハリネズミ、丸まると綿あめのにようにふわっふわな球体になる人気のペット。
触ればその気持ち良い感触に虜となり、顔をうずめてスーハー吸えば幸せになれる。そのフラッフルンを生徒のために学校で数匹飼っていたのだ。
そう、この姿なら学校をうろついても絶対にバレない。僕の頭脳が勝ちである! 蜘蛛レオンという魔物の姿をしていても頭脳は人間、完璧な作戦で卒業式に臨んだ。
「あら、このフラッフルンは新顔かしら……初めて見る顔ね」
ちょっと待て、他のフラッフルンとどこが違うんだ……自分でさえ他の個体とどこが違うのか全くわからない完璧な変身だと思ったのにー。
僕は彼女に拾い上げられて胸に抱かれたのだった。
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