第15話 バーバラ・ハプーンの無謀

「私は、ドライアド族の族長がひとりです。宜しければあなたの正体を明かしてはもらえないでしょうか」


 頭上の数字が一気に52へと跳ね上がった。


《話しても構わんぞ。しかし、我が主の中にいることだけは内密にするのじゃ》


 正体を明かすことへのリスクはあるが、ウルドが大丈夫というのだから大丈夫なんだろう。

 異空間からユウノの身体を取り出し、頭に変化へんげすると体と合体ドッキングした。


「ユ……ユウノ様……なぜ、あなたが」

「ユウノくんはエアフィルダール迷宮で死んでいたんだ。それを死者操作を使って動かしてたんだ」

「……グラッセス家の血筋が持つ『邪視・守護霊』の力は他次元の情報を読み取る眼なのです。その危険すぎる力を監視するために私がメイドとしてグラッセス家に入っているのです」

「なぜ、マインの専属メイドに?」

「なぜでしょう。ヘクター様は予見していたのかもしれません。一番の才能を持つマイン様を守らなければならないと……精霊を守護に持つメイドが適任だと考えたのかもしれません」


 うーん、本当のところ良く分からん。捉え方によっては、ヘクターはユウノやバタイが後継者から脱落することを予見してマインを守りたかったのかもしれない。


「で、僕に何をしてほしいの?」

「できれば、ユウノ様の身体を返していただけませんでしょうか」

「へ……そんなことをしたら僕の人間生活が……それに、宿る力も抜けちゃってるから『邪視』は使えないんじゃない?

「いえ、邪視は血で見るものですから問題ありません。1滴でも血が残っていれば器である容れ物に精神体を入れればいいのです」


 どうしよう……せっかくこの身体にも馴染んできたのに……。


《渡してやったらどうじゃ。ドライアド族を味方につけられることなんてそうそうないぞ》

「 (でも、どうしよう。この体を渡しちゃったら街に入れないんだけど)」

《エアフィルダール迷宮でまた適当な体を見つければ良かろうに》

「 (そうだけどなんだか愛着が沸いたんだよ)」


 ウルドとこしょこしょやっているこの姿、小さな魔物がひとりのり突っ込みしているように見えただろう。


「ユウノ様、ご提案がございます。私が体を提供するということでいかがでしょうか」

「え……ウランさんの身体を?」


 一気に赤くなるウラン、慌てふためき口を開く。


「ち、違います! 私の身体じゃなくって違う人です」


 手をバタバタするウランの姿のギャップがなんかいい。


《これが主の記憶にあるギャップ萌えってやつじゃな》


 まったくウルドは……どこまで過去ひとの記憶を覗いているんだ。


 吹き抜ける一陣の風、またもや同じようにどこからともなく現れた葉が風に舞い踊って何かおを包み込む。そして中から出てきた女性は…… 。


「これは……バーバラじゃないか」

「そうです。ユウノ様のご学友のひとりです。彼女は強い憎悪によって何かを成し遂げたかったのでしょう。蜘蛛レオンを倒すべく無茶をしすぎて死んでしまったようです」


 人族に対しての感情が薄くなっているとはいえ、友人が亡くなったとなれば心が痛む。


「どうしてバーバラが……それに憎悪って」

「分かりません。私は『この地を守る者』であって詳しい事情までは……ただ、死の瞬間、強い憎悪を感じたのです」

「なんかまた厄介毎に巻き込まれそうな体に入ることになるんだなぁ」


《聞いたじゃろう。彼女は主を探して死んだのじゃ。だからあの時言っただろうに、見つかったときに全員、ころピーしちゃえとな》


 うぅ……言い返せない。 ……出した答えは……「分かりました」


 ユウノの体を横たわらせて異空間に収納した首と共にウランに渡す。


 ウランは風となって姿を消すと、そのままユウノの体に入り込んだ。

「蜘蛛レオン様、死者操作を解いて下さい」


 言われるがまま死者操作を解く。ユウノの体がポワッと光ると目を開き起き上がった。切断された首は元に戻り、生気を取り戻した人間。頭上の数字は14 (ユウノ本来のレベル)。


「ありがとうございます。こちらの体が本体となりました。ウランの方は眷属に任せます」


 ペイッっとユウノが手を振り払うと、小さな竜巻が巻き上がり、かしずくウランがいた。姿かたちは全く変わらず、頭上の数字も21。


「これよりウランとして今後の任務を遂行致します」


 ウランがユウノでウランが眷属? じゃあ、本体だったウランは? 本当の名前はいったい?


《彼女の名前はドライニアだ。姿を変えるたびにその者の名を名乗っているのであろう》

「ドライニア……?」

「蜘蛛レオン様……なぜその名を……。本当にあなたは一体何者なのですか?」

「僕は、エアフィルダール迷宮出身の蜘蛛レオンさ。怖いスラ○ムまものじゃないよ?」


 乾いた風が弧を描いて吹き抜けた。《主、そのネタが分かるのは過去の記憶を持っている者だけじゃろうて》とウルドが冷たく言い放った。


「く……蜘蛛レオン様、街にあるあの家は隠れ家として好きに使って下さい。結界を張っておきますので問題はありません」


 そういうと、ユウノとウランは風と共に消え去った。


「じゃあ、バーバラにならせてもらおうかな」


 鋼化糸で首を切り落として異空間に収納する。彼女の頭部に変化すると合体ドッキングした。


 『死者操作』によって体を動かす。ユウノの時と違って随分とスムーズに体を動かせるようになった。それもこれも頑張って死者操作スキルも上げたおかげだ。


《これからどうするのじゃ?》

「え……と、そういえばバーバラの家ってどこだ? また記憶喪失をやり直さないとならないのか!」


 うーん……今度はキチンと計画を立てよう。さっきの話しをうまく使って……強くなりたくって噂の蜘蛛レオンを探し回っていたら強い魔物に襲われた。そこで命からがら逃げだしたけど強く頭を打って気づいたら森にいた。自分のことも分からない。


 ……よし! これなら完璧!


《ではバーバラよ、なぜ主は記憶をなくした前の出来事を知っておるのじゃ》


「…………」


 ダメかー! じゃあフラフラと街に入って誰かに保護してもらうってことにするしかないか……とりあえず帰ろう。


 体は動かし易くはなったけど、手足の長さや目線の位置に違和感がある。


「あーーー!」

《どうしたのじゃ》

「折角集めた魔物の核……ユウノの荷物だ……はつマネーゲットだと思ったのに」

《金でその女の体を買ったと思えば良かろう》


 ……ウルドさん、そのセリフは僕のどんな記憶から引っ張ってきたんですか。恐ろしくて聞けませんけど。

 イライラを吐き出すように走った走った走った……。

   

《死者操作が1上がりレベル8となりました》

《バーバラのレベルが1上がりレベル2となりました》


 って、あれ……いつのまにか街まで走ってきちゃったけど全然疲れてないぞ。


《そうじゃな、死者操作スキルのスタミナは操者と共有するでな。操者はふたり分の体を鍛えろってことじゃ。まぁ、死体は大体使い捨てにされるがな》


「と、いうことは3人とか4人とかでも行けるってこと?」

《その通りじゃ、ただ主は聖徳太子のように複数のことを同時に考えられるのか》


 聖徳太子……? それって、10人の言葉を同時に聞き分けられるんじゃあ。まぁいいけど。


「さすがに、2体同時に動かすって……スタミナは余裕でも頭がついてこないか」

『必要であれば我が片方の意識を預かってもよいぞ。ただしスタミナは主、強さは体に依存するがの~』

「あれ……? そういえば、ウルドって体はないの?」

『エアフィルダール迷宮の最奥に封印されておる。我ら時の4神は強すぎるからのぉ』


 時の4神……4神と言ったらイメージ的には玄武、白虎、青龍、朱雀なんだけど。

《そやつらもどこぞにおるぞ。どこにいるかまでは知らんがな。主の記憶にある強き神はほとんどいると思って良い》


「おい、女の子がひとりで何をやっている。さっさと家に帰らないか!」

「す、すいません……私……家の場所が分からなくなってしまって……」


 とりあえず門兵に媚びてみた。

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