第二二話「二人の秘密と無茶振り」

四人で飲み始めると、話題は尽きなかった。恭子と武史は、僕と真央の関係を面白がり、僕たちは、恭子と武史の馴れ初めやデート事情に興味津々だった。


「そういえば、武史さん。お休み取って恭子ちゃんとどこか行くの?」

「・・・」


「真央も気になる。二人はいつも、どこでデートしてるの?」


僕と真央が尋ねると、恭子と武史は顔を見合わせ、声を揃えた。


「「ここ?」」


僕と真央は、思わず声を上げた。


「「え〜?!」」


「びっくり。二人ともインドアなの?」

「いや、インドアってわけじゃないんだけど・・・」

「恭子もインドアってわけじゃないけど・・・。なんとなく、それが普通になってる」


僕は、その答えに少しだけ呆れた。


「待て待て。そんなに乳くり合ってばかりいたら、ふやけてしまうでしょ? 太陽を浴びて健全な青春を取り戻せ!」


僕がそう言うと、武史と恭子は顔を見合わせ、二人だけで通じる何かを交換した。その視線に、僕の心はざわついた。


「真央さん、見た? 今の二人の目線・・・。すごくイヤらしくなかった? 俺に足りないのは、あの大人の色気なんだ・・・真央さん、抱っこして」

「うん、おいで」


僕の隣に座っていた真央が、僕をそっとハグした。


「真央さん、やっぱり帰ろうよ」


僕が真央に耳打ちすると、真央は何も言わずに微笑んだ。そんな僕たちを見て、武史が言った。


「ひらめ、逆に質問。真央ちゃんとお前はいつも何してる?」

「真央と俺が何してるだって?毎週どこかに出かけているよ。一回も乳くり合わずにな。渋谷、新宿、池袋、お台場、月島に、浅草、都内以外だと、富士山・・・」


僕の言葉に、恭子は少し呆れたように言った。


「さすがに毎週は疲れるだろ・・・。真央も大変だね」

「大変ではないよ。どこに行っても楽しいし・・・」


「ぐはははは。こう見えて、俺は『デートの達人』なんだぞ!」


僕がそう言うと、武史は怪訝そうな顔をした。


「なんじゃ、それ?」

「女子を楽しませる・・・。それはある意味、生き甲斐であって、俺がこの世に生命いのちを与えられた意味・・・。生命続く限り、できるだけ多くの女子を楽しませ、対価としてエッチをす・・・」


真央は、僕の言葉を遮った。


「ひらめ、真央の前だからね。調子に乗ってると、殺すぞっ」

「・・・」


真央に睨みつけられ、僕は言葉を失った。


「恭子、ひらめに決めてもらうか」

「そうね。いいプランを用意してくれそうだしね」


武史と恭子は、僕にダブルデートのプランを立てるよう言ってきた。


「待て待て。なんで他人のデートプランを考えないといけないんだ?俺は真央さんと帰って、明日はふやけるまでベッドの上で生活することで頭がいっぱいだよ。ね? 真央さん」


「みんなでどこか行こうよ。真央も楽しみ」


真央の言葉に、僕はもう断ることはできなかった。


「じゃ、ひらめ。よろしくな」

「よし、片付けて、寝よう」


武史がそう言うと、恭子が立ち上がった。


「恭子、俺、シャワー浴びるよ」

「真央、布団出して。恭子は洗い物しちゃうから」

「了解。ひらめ、手伝って」


「みんな、ちょっと待ってよ・・・。もう終わり? まだ全然、飲み足りないんだけど・・・」


僕が文句を言っても何も変わらなかった。みんなで協力して、午後一一時前には早々と就寝の準備が整った。


「じゃ、もう寝よう。明日は早いよ」

「電気、消して」


恭子にそう言われ、僕は言われるがままに電気を消した。


「おやすみ〜」

「おやすみ」


「待て待て。俺だけ、置いて行かれている気がする・・・」


再び、電気を灯すと、武史と恭子はベッドの上に寝転んでいる。真央は敷いた布団の上に胡座あぐらをかいている。僕だけが、状況を理解できていなかった。


「みんな、落ち着こう」

「・・・」


問題が発生した時、まずは状況を確認することが、最優先事項である。頭では理解している。


「真央、ちょっと、どうなったかを教えてよ」


「明日、四人で遊びに行くことになった。どこに行くかは、ひらめが決める。明日、運転でしょ? 早く寝よ」


「あ〜、なるほどね。俺は明日の朝までにダブルデートの予定を考えればいいのね。分かった。寝よう。おやすみ・・・」

「おやすみ、電気消して」


僕は再び電気を消した。


「うん。おやすみ・・・。っては、ならないじゃん? えっ? みんな、なんか違和感を感じない?」

「「別に」」


恭子と真央の声が重なった。


僕は三度みたび電気を点ける。


「えっ? マジで? 恭子ちゃんと武史さんは、いつも通りで問題ない・・・と思う。真央、お前はそれで良いのか?」

「真央もいつも通りだよ。ここに泊まるときは、このお布団で寝てる」


「ああ、そうか・・・。じゃ、問題ないか・・・。いやいや、俺は? 俺はどこで寝ればいい?」


アタフタしている僕に、武史がFDのキーを差し出した。


「ごめん。ひらめ。忘れてた。これ、FDの鍵」

「そうそう、俺は武史さんのFDで寝れば・・・。っておかしいじゃん!」


恭子が、ベッドの上に座り直した。


「何が問題?」


僕は、声が裏返りそうになった。


「問題大ありでしょ? だってさ、武史さんと恭子ちゃんが乳くり合ったら、俺と真央はどうすればいい?」


「アホか、そんなことするわけないじゃん。恥ずかしい」


恭子の言葉に、僕は少し安心した。


「じゃ、それはいいとして真央さんは、布団があるじゃん? 俺は? 俺はどこで寝ればいい? FD? シートが倒れないタケシさんのFDで寝るの?」


「ロードスターより広いって、お前が言ってたじゃん」


武史の言葉に、僕はぐうの音も出なかった。


「グダグダ言ってないで、愛しの真央と一緒に寝ればいいでしょ?」


恭子の言葉に、真央が両手を広げて言った。


「おいで。抱っこしてあげるよ」


僕は、真央の言葉に、体が固まった。


「え〜。真央さんと一緒に寝るの?」


「なに、ひらめ。真央と一緒に寝るのが嫌なの?」


「真央さん、違う違う。一緒に寝たいよ。寝たいに決まってるじゃん。でも・・・」


「もしかして、照れてる?」

「うん、照れてる。照れるに決まってんじゃん。二人の初夜を武史さんと恭子ちゃんに見られるなんて・・・恥ずかしいじゃん」


「ひらめ、お前、ここで発情したら殺すからな」


恭子の言葉に、僕は震え上がった。


「でしょ? そうなるでしょ? 普通そうなると思う。僕と真央さんは、帰った方が良くない?」


「「・・・」」


三人は、僕を無視して、布団に入った。


「ひらめ、お前の頭の中はそれだけなのか?」

「ひらめ、真央は恥ずかしいぞ」

「ひらめ、今日は諦めろよ」


三人の言葉に、僕は、もう何も言えなかった。僕は、不貞腐れて、みんなに背を向けて布団に横になった。


「じゃ真央、電気消して」

「うん。おやすみ」


真央が電気を消した。


僕は、そっと、真央の手を握った。真央も、僕の手を握り返してくれた。


「真央、おやすみ」

「うん。おやすみ」


僕たちは、何も話さず、ただ、お互いの手の温もりを感じていた。


「・・・」

「真央、ひらめ、起きてる?」

「・・・寝てる」


「相変わらず、寝付きがいいな」

「うん」


「よし、俺らも寝よう」


「「うん。おやすみ」」


恭子と武史の声が聞こえる。僕と真央は、その声を聞きながら、静かに目を閉じた。

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平成サバイブ ひらめ @hirame18

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