『破面(二)』
————緑深き高山の
背が高く筋肉質の男は青い外套を纏い、もう一人の痩身の男と、頬に豹紋のような
「……ここが
青い外套の男————青龍派の門人・
「誰に言っているの? 私たちは歩くこともままならない吹雪の雪山で軽功を磨いているのよ。舐めないで頂戴」
「フン……」
不機嫌そうに鼻を鳴らす正剛に対し、痩身の男————玄冥派の二番弟子・
「つまらんことを訊いている暇があるなら、さっさと行け。時間の無駄だ」
「……本当に『
「グズグズしていたら、
「…………ッ」
玄狼の言葉に正剛は泰山の頂上へ向き直ったが、その足がピタリと止まった。
「何を止まっているのよ。師兄の言葉が聞こえなかったの?」
「……敖光洞へ行く前に、もう一つだけ訊いておく。貴様らの仲間の
正剛の口から溺愛している
「……玄龍が何だって言うのよ……!」
「奴の仮面の下の素顔は師父と瓜二つだった。奴————いや、あの方は失踪した師父の御子息・
「————龍珠……‼︎」
正剛の言葉に玄豹の眼が大きく見開かれたが、玄狼は僅かに眉を持ち上げ口を開いた。
「……ここで話していても始まらん。行けば分かることだ」
二頭の龍の双眸が交じり合う————。
刻んできた
「……龍珠、お前なのか……‼︎」
「そうよ、叔父さま! 記憶は失っているけれど、この人はあなたの一人息子、龍珠よ!」
「記憶を……!」
信じられないといった表情の
「龍珠、こちらがあなたのお父さまよ……! 叩頭してご挨拶なさい」
「……この人が、俺の……父親……⁉︎」
「そうよ、お母さまにもすぐに会えるわ。そうしたら記憶だって、きっと戻るわよ……!」
「俺……僕の、父親……父さま……」
龍珠は虚空を見つめ、気が触れたようにブツブツとつぶやいている。
「龍珠、本当にお前なんだな……?」
諸手を広げた龍悟が近付くと、ビクリとした龍珠が顔を上げた。再び親子の双眸が重なり合う。
「もっと、よく顔を見せてくれ……!」
「…………」
「ああ……、大きくなったな。私の若い頃に瓜二つだ……!」
「……どうして————」
「ん?」
「————どうして、あの時、僕を叱ってくれなかったんだ‼︎」
龍珠は凄まじい形相で叫んだ。
「と、突然なにを言うの。龍珠……」
なだめるように凰蘭が肩を抱いて声を掛けるが、龍珠は乱暴にその手を振り払った。
「どうして、僕に稽古をつけてくれなかったんだ‼︎」
「……すまない、私はお前との接し方が分からなかった……」
顔を伏せて龍悟が答えると、龍珠はさらに声を荒げた。
「だから僕を捨てて、凰蘭と交換したんだ‼︎」
「————‼︎」
息子の積もり積もった心の内を聞かされた龍悟は声も出せない。
「龍珠……、そんなこと————ッ」
再度、
「龍珠……、その眼は……!」
「————うるさいッ!」
ようやく口を開いた龍悟に、突然龍珠が襲い掛かった。
「————龍珠!」
「退がっていなさい、凰蘭!」
声を掛けている間にも龍珠は必死の形相で拳を振り回してくる。それはまるで武術の型を
龍悟にとって躱すことなど造作もなかったが、息子の気持ちを受け止めるように胸を突き出したところ、そばで見ていた凰蘭が叫び声を上げた。
「————叔父さま、受けては駄目‼︎」
「————ッ⁉︎」
しかし時遅く、龍珠の魔性の手が龍悟の胸に添えられると、瞬時に耐え難い寒気が押し寄せてくる。
「くっ————」
歯を食いしばって後方に距離を取った龍悟だったが、着地した時には胸の部分が僅かに凍りついていた。
「これは……!」
「叔父さま! 龍珠は玄冥派と言う門派に拾われて、触れただけで相手を凍りつかせる恐ろしい技を身につけているの!」
「なに……!」
驚愕の表情で龍悟は息子を見た。金色に眼を光らせ全身から冷氣を放つその姿に思わず龍悟は寒気を覚えたが、それは凍りついた胸のせいばかりではない。
————十六年前の自分が、そこに立っていたのである。
あの時の
「…………これも、父を斬ろうとした報いという訳か……」
皮肉めいた笑みを浮かべて、龍悟はつぶやいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます