『帰還(二)』
「————玄龍! あなた、手が氷のように冷たいわ! 体調でも悪いの⁉︎」
「ああ、心配ないよ。玄冥派の門人は技を修めると皆こうなるんだ」
慌てふためいた様子の凰蘭とは対照的に、玄龍は冷静に答える。
「……それが相手を一瞬で凍りつかせる技の代償ってこと……⁉︎」
「……そうだ。だけど————」
「そう言えば…………」
玄龍の返事を待たず、凰蘭は何かを思い出したかのようにつぶやいた。
「
「…………」
「もしかして……、あの技を使うと、身体に支障が出たりするんじゃないの? ————答えて、玄龍!」
凰蘭の曇りなき
「……身体の
「……本当……⁉︎」
凰蘭の瞳が疑いの色を帯びる。
「本当だよ。そんなことより早く進もう。昨日倒した二人組が息を吹き返してる頃だ。グズグズしていたら俺たちの情報が青龍派に伝わるかも知れない」
「あ……、分かったわ。行きましょう、こっちよ」
凰蘭は
二人が敖光洞の奥へと進んで行くと幾人もの門人たちとすれ違った。その反応はまちまちで、嬉しそうな顔の者、安堵したような表情を浮かべる者、反対に苦々しい顔つきの者、果ては明らかに敵意を向けてくる者もいたが、おかしなことに誰も声を掛けてくる者はいない。
おそらく裏門を守っていた門番から二人のことは伝わっているのだろうが、掌門の姪が無事に戻って来たというのに何とも奇妙な反応である。玄龍は首を捻った。
(……そう言えば、さっきの門番も若い
「どうやら、きみも色々と気苦労がありそうだね」
「そう? そんなことないわ」
玄龍の声に凰蘭はあっけらかんとした口調で答えると、何かに気付いた様子で手を振った。
「あら、お姉さま方、ご機嫌よう。只今戻りましたわ」
凰蘭が手を振った方に玄龍が顔を向けると、二人の女弟子が眼から火を噴かんばかりの形相を浮かべて拳を握り締めているのが見えた。しかし凰蘭は満面の笑みで応えると、それきり興味を無くしたように無言で女たちの
「こちらですわ、
敖光洞の内部は迷路のように入り組んでおり、曲がり道に差し掛かる度に凰蘭は行き先を指し示してくれる。
(流石に四大門派の一つ、青龍派の本拠地だ。凰蘭の案内がなければ掌門の
玄龍は後に続きながら頭の中で道順を記憶していたが、不思議なことにいつしか凰蘭を追い越し、迷うことなく進み出した。その歩みはまるで勝手知ったる庭を散歩するかのようである。
「玄————」
凰蘭は驚いて口を開きかけたが、すぐに思い直したように微笑んで玄龍の後に付き従った。
————龍の腹のようにうねる曲がり角をいくつ通り抜けただろうか。玄龍と凰蘭はついに掌門の間へと辿り着いた。
今まで通り過ぎたどの扉よりも大きなそれの前には屈強な男が二人、壁のように立ち塞がっていたが、凰蘭の姿を認めると同時に口を開いた。
『
門番の男たちはそれだけ言うと、やはり同時に扉を離れ、去って行った。
「玄龍、準備はいい……?」
「…………」
玄龍は胸に手を当てて思い巡らせた。
(この扉の奥に青龍派の掌門が————俺に瓜二つの顔を持つ男がいる……!
手を離した玄龍は隣に並び立つ凰蘭へ顔を向けた。
「————ありがとう、
突然、愛称で呼ばれた凰蘭は眼を丸くしたものの、苦笑しながら首を振った。
「……ううん。さあ、行きましょう」
二人は同時に扉に手を掛け、押し開いた————。
———— 第十三章に続く ————
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます