『同道(四)』
————一方、茂みに身を
玄龍には何があっても出て来るなと言われていたが、自分が姿を見せれば青龍派の二人も武器を下ろしてくれるのではないか?
しかし、
そうこうしている内に剣戟の響きが凰蘭の耳を打った。
顔を上げると、向と周が二人一組で玄龍を攻め立てている。両の手に短斧を持った周が近距離から強烈な斬撃を振るい、
なかなか反撃の糸口が掴めない玄龍は相手の猛攻を躱しながら思案していた。
(戟を持った男は影のように俺の後方に位置を取ってくる。だったら————)
向周の基本戦法とは玄龍の予想した通りで、まず周が正面から対手を攻め立て動きを止めている隙に、その背後から向が仕留めるというものであった。
数合の打ち合いの後、周の攻撃を外した拍子に玄龍の足が石につまずき、大きく体勢を崩した。
「————もらったあッ‼︎」
気合の声と共に渾身の突きが玄龍の背後を襲う。
「ッダメぇーーーーッ‼︎」
堪えきれずに凰蘭が茂みから姿を現し絶叫を上げたが、戟の勢いは止まらず男の肉体から
「ぐッ……」
呻き声を上げて肩口から鮮血を吹き出しているのは斧使いの周であった。
「————なッ」
向は
「向兄!」
その場に倒れ込んだ向の背後には拳を突き出した玄龍の姿があった。
「————貴様ッ! 重心を崩したのは誘いの手かッ!」
「そうです。あなた方の連携が見事だったので、敢えて隙を作ってみました」
負傷した肩を押さえながら周が叫ぶが、玄龍は冷ややかに返すのみである。
「くっ……!」
口惜しそうに歯噛みした周は、思わず先ほど声のした方へ眼を向けた。すると、茂みのそばに立つ少女と眼が合った。
「お、お前は! やはり————」
凰蘭に指を突きつけ罵倒しかけた周だったが、聞くに耐えないと思われる罵詈雑言は吐き出されず地面に突っ伏した。
「————玄龍! 大丈夫? 怪我は無い⁉︎」
向に続いて周を打ち倒した玄龍のそばへ凰蘭が駆け寄るが、玄龍は返事をせず顔も向けようとはしない。
「どうしたの⁉︎ やっぱりどこか痛むの⁉︎」
「……何があっても出て来るなと言ったはずだろ」
不機嫌そうに玄龍が口を開いた。玄龍に怪我が無いことを確認した凰蘭はホッと安堵した後、
「だって……、あなたがやられると思ったら、身体が勝手に動いちゃったんだもの……」
「…………」
その様子からは本気で自分のことを心配してくれているのが分かる。玄龍はフウッとため息をつくと、倒れた青龍派の二人へ視線を送った。
「……死んでないわよね……?」
「まさか。気絶してるだけだよ」
そう言いながら玄龍は向の懐をまさぐった。
「何をしているの? 玄龍」
「青龍牌を持っているはずだ」
自分にはもう牌は無用な物だけれども、
「————ダメよ! 牌って門人には大事な物のはずよ! 失くしたらこの人たち、きっと叔父さまから叱られるわ!」
血相を変えて凰蘭が止めに掛かった。
玄冥派の門人にしてみれば牌を集めなければ、叱られるどころか命を奪われるのである。しかし、そのことを説明すればこのお節介な虎の娘はいったい何を仕出かすか知れたものではない。玄龍は苛立ったように手を振り上げた。
「叱られるくらいなんだって言うんだ? こっちは、それどころじゃ————」
「……? 『それどころじゃ』……?」
凰蘭が眉根を寄せると、失言を悟った玄龍は顔を逸らした。
「そういえば……、
「…………」
凰蘭に問い詰められた玄龍は口を閉ざして何も語らない。龍面を着けたその
「————答えて、玄龍。あなたたちが青龍派を狙うのは牌を奪うのが目的だったのね⁉︎」
「…………そうだ」
長い沈黙の後、玄龍がようやく口を開いた。
「それは何のためなの……⁉︎」
「大した意味は無いさ。俺たち『玄冥派』は旗揚げしたばかりでね。『
「…………」
釈然とはしないものの、筋は通っている。いくらか凰蘭の表情から険が取れた。
「あなたの言い分は分かったわ。でも、やっぱり青龍牌は取らないであげて」
「……駄目だ」
「どうして⁉︎ そんな物なくても、あなたたちが強いことは分かってるわ!」
「————うるさい! 何も知らないくせに、いちいち口を出してくるな!」
突然、玄龍が怒鳴り声を上げると凰蘭は驚愕の表情を浮かべた。そして、激昂した玄龍自身も————。
(……クソッ、どうしてなんだ。今までこんなに心が乱されたことなんて無かったのに、この娘と話していると何故か胸がざわめいてしまう……)
玄武派とその流れを
うつむいて胸を押さえる玄龍を心配するように
「星河……」
「玄龍、心配事があるなら話してみて……? 何か力になれるかも知れないわ」
凰蘭も玄龍の肩に手を掛けて優しく語りかけた。
「…………何でもない。分かったよ、この二人の牌には手を出さない。……出発しよう」
「玄龍…………」
掛けられた手を振り払い玄龍は背を向けた。その後ろ姿に凰蘭はこれ以上かける言葉が見つからなかった。
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