51. This Love

 夏休み恒例の夏フェス。

 咲樹も勉強の息抜きに参加することになり、今年は全員で参戦する。

 大人数のため、楓くんも運転してくれることになり、車は二台に分かれた。


「この配車、おかしいよね。なんでまこちゃん先生の運転する車に女子が全員乗ってるの?」


 セクハラに抵触してるんじゃないのか?

 レンタカーのミニバンに男六人、まこちゃん先生の自家用車に女子三人と先生、という配車だ。

 この車は助手席に蓮、真ん中に俺と香月、後ろに将と琥太郎が座っている。


「せっかくだから男だけでしか出来ない話しようよ。」

 楓くんのそういう話って絶対下ネタじゃん。

 意外にも他の皆は下ネタに抵抗が無いようだった。


「そういえば、朔はあのDVD見た?」

「『制服美少女』?見た見た。香月と一緒に見た。文句言ってた。」

 香月の不満を楓くんに言うと、共感して笑いが起きる。


「それってあるあるですよねー。僕もその辺不満なんで、女性向けの作品よく見ます。」


 将がさらっとすごいことを言う。

 メガネかけてインテリだと思ってたのに、そんなの見てるんだ・・・。

 そこからどんなジャンルが好きかという話題になり、俺は話について行けない。


「朔はピュアだから、あまりそういうのに興味ないみたいでさ。この前のDVDも俺が誘って見たぐらいだし。見方もさ、手で隠しながら見たりして可愛いんだよね。」


「俺、恥ずかしがりながらエッチなDVD見てる朔を見たいわ。萌える。」

 いやいや、おかしいだろ。


「もう、変態には勘弁です。」と言うと、「お前には変態をも惹き付ける、いや、普通の人をも変態にしてしまう魔力がある。」と楓くんに言われ、ちょっと凹んだ。


 琥太郎が、「え、ってことは朔くんってまさかの童貞ですか?」とド直球な質問をぶつけてくる。


「いやー、一応違うけど・・・。」

 蓮がすかさず反応する。


「一応って、もしかしてあの・・・。」

「ユズとはしてないから。」

 蓮はほっとした様子で「え、じゃあ誰と?」と普通に聞いてくる。


 言えるか!「これは、墓まで持っていかなければいけない話なので。」と答える。

「香月くんは知ってるんでしょ?ヤバイ話ですか?」

 蓮がやたら食いつく。


「若気の至りだから、許してあげて。」

 香月の優しさにまた救われてしまった。流れ的に香月の話になってしまう。


「香月くんは月に何回ぐらいしてるんですか?」

 将が興味津々だ。

「え?俺??まだ未経験なんだけど。」


「・・・えーーー!!」

 俺と香月以外、全員の声が重なり、耳がキーンとなった。


「なんで?EDとか?そういう雰囲気になったこと無いんですか?あんなナイスバディな彼女に手出さないでいられるとか凄すぎですよ。」

 琥太郎が、なんで我慢できるの?と、理解できないといった様子で香月に詰め寄る。


「そういう雰囲気になったことはあるけど、何とか理性で踏みとどまった。ほんとにあの時の俺、褒めてあげたいよ。EDでは無いと思う。大学受験が片付くまでは止めておこうって、二人で決めたことだし、ちゃんと守ってあげたいからさ。」

 全員がジーンとする。


「やっぱり香月と咲樹は最高のカップルだよ。なんか感動する。愛だなー。結婚式は呼んでね。」

 楓くんがしみじみとため息をつく。俺も、愛だなー、と思う。

 蓮と将と琥太郎も、香月のかっこよさに、すっかり心打たれていた。


「まるでお伽噺の王子様ですね。去年の文化祭で朔くんが「惚れそうになる」って言ってたの、すごくわかります。」

 蓮が感動した様子で話す。


「お前、それは違うぞ。お伽噺の王子様とお姫様は、けっこう早めにくっついて子ども生まれんだろ?ってことは、やることやってんだよ、あいつら。」

 なんちゅー夢のない話をしてるんだ、この人は・・・。ちょっと面白いけど。


「皆はどうなの?経験者なの?俺と朔だけ暴露されるとか不公平なんだけど。」

 香月が反撃に移る。蓮と琥太郎は経験者だった。マジか。まずは蓮から尋問が始まる。


「去年少しの間だけ付き合った彼女と。あ、みくじゃないんで。なんか、初体験は「こんなもんか。」ぐらいにしか思えなかったです。」

 ほんとにみくと付き合ってないのか。しかも感想が炎上ものだ。俺もそう変わらないけど。


「俺は今も付き合ってる彼女とです。俺の場合は初体験のとき感動して泣いちゃいました。」

 琥太郎は違う学校に通っている彼女がいるらしい。ピュアな感想に好感が持てる。


「楓くんと由紀乃さんって、どんななの?なんか二人ともエロいことに詳しいよね。」

「そうか?確かにあまり我慢とかしたことないなー。ラブホとかよく行く。」

 話はラブホの話に移る。


「入るとき恥ずかしくないの?どういうシステムなの?いつお金払うの?」

 香月がめっちゃ質問している。将来行く気だな、こいつ。


「最初はキョロキョロしながら入ってたけど、慣れればスッと入れるよ。部屋選ぶとカードキーが出てくるからそれで入室する感じ。お金は最後にカードキーで精算。清潔感もあるし、テレビゲームとか色々あるから楽しいよ。最近はご飯も充実してるしさ。」


 みんなの「へぇー!」が重なり、笑いが起きる。思春期男子の会話もそれなりに楽しい。楽しいけども。


「あのさ。俺ら車に乗ってから今まで、一言も音楽の話をしてないよ。」

 一応部長なので、言ってみた。

 すると、またそっちの方向に話が向かう。

 エッチな曲は何か、という話題になった。


「シドの『歌姫』とかエロいですよね。『♪そろそろ訪れる 限界の向こう 参りましょう・・・』って。キャー。」

 将が照れて言った『キャー』が面白くて笑いが起きる。エッチな曲かー。


「俺はMaroon 5の『This Love』かな。『♪I tried my best to feed her appetite,Keep her coming every night,So hard to keep her satisfied,Oh, keep playing love like it was just a game,Pretending to feel the same,Then turn around and leave again・・・』

 英語だからさらっと歌えるけどさ。彼女を満足させるために頑張って弄ばれるなんて辛いよね。」


「朔くん、良いです。もう、エロくて良いです。聴かせるってすごいですね。英語もかっこいい。」

 琥太郎が嬉しいことを言ってくれた。


「俺はドビュッシーの『月の光』かな。しっかりポルタメントで弾かないとエロい感じが出ないんだよね。」

 香月の発言にみんなが固まる。


「やばい。専門的すぎてわかりません。しかもドビュッシーの『月の光』がどんな曲なのかもわかりません。ポルタメントって何ですか?まさかのクラシック!」

 蓮が香月のことを尊敬の眼差しで見つめる。


「今日は楽器を置いてきたからなー。絶対聴いたことあると思うよ。ポルタメントは、音から音に移るとき、音階の間を滑らかに移行させる技法で、ギターとかでもよくやるだろ?こういうやつ。」


 手を動かして説明すると、蓮は「それ、ポルタメントって言うんですね。勉強になりました。」と目を輝かせていた。

 蓮と将と琥太郎は、更に香月の魅力にはまっていた。

 


 会場に到着し、いつものようにテントを張る。男手が増えて作業が楽だ。

 俺はサボって楓くんのサングラスをかけて遊ぶ。


「やば。朔がかけるとめっちゃチャラいよ。」

 咲樹が爆笑しながら写真を撮っている。ゆっくりはずして、弦を咥えてみて、と楓くんにリクエストされたのでやってあげた。


 みくがすごい見てる。「今のすごくかっこよかった!」と言ってくれて、「みくはチャラいのが好きなのか?」と言うと、「あー、そうかもしれない。」とため息をつく。なんか恋愛で苦労してそう。


 将たちが、車の中での様子を先生に聞かれている。変なこと言わないと良いな、と見守る。


「すっごく勉強になることばかりでした。下ネタ中心でしたけど、エロい曲がドビュッシーって言ってる香月くんがマジでかっこよくて、俺、惚れました。」


「ドビュッシーがエロいの?うーん、受け取り方によってはそうなのかな。ロマンチックだとは思うけど。あいつやっぱ凄いわ。」

 先生も興味持っている。莉子は俺が泣かせた事件以来、蓮にくっついている。蓮にはその気は無いみたいだ。

 香月は咲樹のそばで黙々と作業をしている。俺も遊んでる場合じゃないか、とテントの方に戻ろうとすると、ちょっと怖そうなお兄さんたちに絡まれた。


「君、可愛い顔してるね。ちょっと付き合ってくれないかな。」

 後ろの方のギャルのお姉さんが笑いながらこっちを見ている。連れてこいと言われたのかな?


「せっかくですが、連れもいますので、戻らないと。失礼します。」

 申し訳なさそうに微笑んで戻ろうとすると、腕を掴まれた。

 怖っ!誰か助けてー!


「俺の連れに何か用か?手、離せや。」

 サングラスをかけた楓くんが登場した。タンクトップに短パン。

 金のネックレスみたいなのも着けていて、如何にも柄が悪そうだ。


「いや、大丈夫です。ごめんね。」

 お兄さんたちは去っていった。楓くんは、姿が見えなくなるまでガンを飛ばしていた。


「お前、危ないから離れんなよ。また痴漢とかに遭うぞ!」

「すみません。楓くんありがとう!大好き!」

 抱きつくと、楓くんは盛大に狼狽える。


「ダメダメ。お前に大好きとか言われて抱きつかれると、ノーマルな俺ですら変な気になる。」

 えー。ただ今の気持ちを表現しただけなのにー、と膨れると、香月が「ほんとにダメだって。」とマジな空気で警告してきた。


 香月の視線を追うと、通報ものの変なおじさんがこっちを見ていた。

 どう見てもおじさんなのに女性の服を着て、天使の羽を背負っている。

 背筋が凍る。


 それからはみんなの輪の中から出ないようにした。

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