♂02 俺、魔法を使います。

 俺が王立ガーネシア魔術学校の門前で呆然と立っていると、不意に後ろから抱きつかれた。柔らかい胸の感触が背中に当たって心地いい。


「ヘレーネちゃん!今日も可愛いねー」

「だ、誰?」

「えー。いつもは声だけでわかってくれるのに!イレーナだよ」


 そう言ってイレーナと名乗る少女は俺を解放して俺と向き合った。うん。可愛いなこの子。それが第一印象だった。薄紫のショートヘアがよく似合う、とても活発そうな少女だった。


「イレーナ。一緒に教室まで行きましょう?」


 俺は道がわからないのでイレーナに案内してもらうことにする。


「うん!いいよ!それより手繋ごう!」

「お、おう。いいですよ」


 なんかやけに距離が近いな。もしかしなくてもこの体の持ち主とイレーナは恋人同士だったりするのか?そうだとしたらその関係を有効活用してやろう。俺は伸ばされたイレーナの手を握る。


「ヘレーネちゃん。なんだかちょっと男らしくなってない?」

「そ、そうかな?」

「そうだよ!私はその方が好きだけどな」

「私のこと好きなの?」

「うん。結婚したいって前に話したでしょ?覚えてないの?」

「そうだったっけ?」

「そうだよ!もし成人年齢の18歳になっても運命の人が見つからなかったら結婚しようって約束したでしょ?」

「そうだったわね」


 そんな約束までしていたのか。ということはもうこれ合法的にイチャイチャしていいのでは無いか?それにしてもこの異世界、同性婚があるとは進んでいるな。俺にとってはむしろ好都合だが。そんなことを話していると教室についた。俺達二人が中に入ると視線が集まる。


「今日もヘレーネ様はお美しいわ」

「イレーナ様もとても可愛らしいです」


 教室の女子達が口々に話し始める。男子達は無言で俺達をチラチラ見ていた。まぁ、わかる。俺とイレーナが並んだら仕方ないよな。俺がこのクラスの男子だったら100パーセント同じことをした。イレーナが教室一番後ろにある窓側の二人用の長机の手前側に座ったので俺は窓側の椅子に腰掛けた。すると教室の女子達が集まる。


「ヘレーネ様!イレーナ様!おはようございます!」

「おはようございます。今日はいい天気ですね」

「はい!」

「今日もお美しく……」

「どういたしまして」


 そんな会話をしていると担任の先生らしき女の先生が入ってきた。


「はーい。みんな席につけー!」


 それから朝のホームルーム的なものが始まり今日の連絡事項が語られて行く。


「午後は魔術試験があるからな。各自体を温めておくように」


 魔術試験?なんだそれは。俺、魔法使えないぞ。でもなんだかワクワクするな!

 と思っていた時期もありました。


「授業意味わかんねーな」


 昼休みになった。俺は頑張って板書したノートを机に放り出してトイレに向かった。


 いかんいかん。つい長居してしまった。だって仕方ないじゃん。俺男だよ?女流のトイレの仕方とかわからないし、見えるものは見えるし、感じるものは感じるのだ。秘部に触れたらなんか病みつきになってしまった。お陰で昼休みが丸潰れになった。この体、侮り難し。


「ヘレーネちゃんどこ行ってたの?一緒に学食に行こうと思ったのに」


 教室に戻るとイレーナが本を読んで待っていてくれた。


「トイレだよ。それより他のみんなは?」

「ああ。午後は魔術試験だから外に行ったよ。私達も行こう?」

「うん。そうだね」


 イレーナについていくと学校のグラウンドのような場所に出た。現代日本との違いがあるとすれば謎な壁やら的やらが置いてあることだった。


「はーい。みんな並べ」


 ゴリゴリの日焼けした黒マッチョが生徒達にそう言った。


「今から魔術試験を始める。明日から始まる筆記試験と合わせて成績が決まるから励めよ!じゃあ先ずは詠唱速度の計測から始める。出席番号一番から並べ!」


 生徒達は列をなしていく。俺があたふたしているとイレーナが手を引いてくれた。


「私達はここよ?ヘレーネちゃん大丈夫?さっきトイレに篭ってたみたいだけど」

「うん。まぁ平気だよ?それより詠唱速度の計測ってなんだっけ?」

「ヘレーネちゃんもやったことあるでしょ?魔法の詠唱速度はどれだけその現象に関する知識を持っているかで決まるの。詠唱速度の計測は『ファイアバレット』っていう魔法を使うのが一般的だよ?」

「『ファイアバレット』ね。って、あれ?」


 俺が『ファイアバレット』という名前を聞いてどんな魔法かイメージすると、突如俺とイレーナの間に小さな火球ができた。それを見てイレーナは驚いていた。


「ヘレーネちゃん魔法使ったの?早く消さなきゃ」

「ええ?消す?こうかな?」


 消化器で火を消すイメージをしたら火は消えていった。


「今ヘレーネちゃん何したの?」


 イレーナが俺の両肩を掴んで前後に揺する。


「え?私にもよく分からない」

「今詠唱してなかったよね?」

「詠唱って『ファイアバレット』って言うこと?」

「違うよ!『ファイアバレット』なら【赤き炎の本流よ。我に集いて対象を焼き尽くせ。『ファイアバレット』】だよ?」

「なんだその厨二病は?」

「ちゅうにびょう?」

「いや。こちらの話だよ」


 とりあえず誤魔化した。そしてどうやら俺は魔法が使えるらしい。これなら魔術試験もどうにかなりそうだ。生徒達は次々と的に向かって『ファイアバレット』を放っていく。見ていると二回測定して良い方が記録として残るようだ。イレーナの試験が終わっていよいよ俺の番になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る