第9話

 翌日、ジョシュア様は一日令嬢達に追いかけられていたせいで話が出来なかったのだけれど、そっと従者から手紙を貰った。


 明後日、寮に迎えに来てくれるらしい。


 領地まで馬車で三日、保養地で五日程過ごして三日かけて寮まで戻ってくるという日程ということだ。保養地に行く前日の午後はそのまま学院の護衛さんと街に出かけて買い物をする。


 普段、侍女も護衛も付いていないのだけれど、寮で申請すれば安全面を確保するために護衛さんを付けてくれるのでとても助かるわ。


 新しいワンピースを買ったり、移動中のお菓子を買ったりして街を楽しんで寮に戻る。


 寮母さんから手紙を受け取り、部屋でベッドに転がりながら手紙を開封する。父からの手紙だった。内容は元気か? 成績一位おめでとう。


 保養地に連れて行ってくれるドナート侯爵家へお礼状を出しておくとの事だった。それに合わせて侍女を寄越すので保養地に連れていくように、と書いてあった。


 やはり邸には帰らなくても良いみたい。あと、姉が本格的に領地の勉強を始めたらしい。


 まぁ、その事はどうでも良いかな。


 翌日は長期休みの注意事項の話が終わると各々の領地へと『ごきげんよう』と和やかながらもいそいそと帰宅していくわ。私は寮に帰るだけなのだが。


 寮に帰ると侍女が寮のサロンで私を待っていた。あの日私を心配して部屋に来てくれた侍女だった。ローサは私の荷造りをしっかりチェックしてくれ、美味しい食事まで作ってくれたわ。


 勿論後で自分も作れるようにしっかりと紙にレシピを書いて貰う。


 それからローサに私が家を出た後の話を聞いたの。私が出て行った後も表面上は変わらないようだ。


 けれど、姉のグリシーヌは私の代わりに領地の勉強や仕事をし始めてから平民と話をするのは嫌だ、お茶会に行けない、ドレスや宝石を買いたいと不満を漏らしているらしい。


 着飾る事が好きな姉や妹は私が居なくなった事でタガが外れ一気に散財し始めると思うわ。


 今までは王子の婚約者として予算が出ていたけれど、もうないもの。


 妹一人の装飾品の代金で済んでいたけど、二人分ともなれば相当よね。見目麗しい我が姉妹は我慢ができるのかしら?


 執事が姉や妹の浪費に頭を抱えているとローサは言っていたし、我が家の資産が枯渇する日も時間の問題かもしれないわ。


 妹のソニアは婚約者に貢がせてはいるけど、今の婚約者の顔はソニアの好みではないらしいから他に良い人がいたら乗り換えそうよね。


 既に三人も婚約を白紙にしているから相当、周りに恨まれていると思う。


 それでも顔が良いと婚約者になりたいと手を挙げる人は沢山いるの。やっぱり世の中不公平だわ。


 私がソニアだったら自分のことを思ってくれる婚約者をもっと大切にするのに……。



 保養地へ向かう当日の朝、ジョシュア様が学院寮の前まで迎えに来てくれた。


「トレニア嬢、おはよう。さぁ、馬車に乗って」


 私はジョシュア様のエスコートで馬車に乗り込む。ジョシュア様の向かいに座り、ローサは私の隣に座った。馬車はジョシュア様の領地へと向かって走り出した。


「トレニアお嬢様、楽しみですね。私も王都から出たことがないのでとっても楽しみです」

「ローサ、楽しみよね。どんなところかしら。折角の旅行だから目一杯楽しみたいわ」

「そうですね」


 王都や自分の領地の外に出たことがないため、ローサと会話を弾ませながら窓から見える景色を見ているとジョシュア様が不思議そうに聞いてきた。


「トレニア嬢、とても嬉しそうだ。喜んでもらえて良かった」

「はしゃいでしまってごめんなさい。私、領地の視察には出ていたのですが、こうして外の景色を楽しむ余裕はあまりなかったのでつい嬉しくて浮かれてしまいました」


「そうか。嬉しい気持ちはわかるが、まだまだ目的地まで遠い。無理はしないように。それにしても君の家は今まで旅行したことがなかったのか?」

「姉はディラン殿下と視察を兼ねた旅行をしていたわ。妹はたまに両親と旅行していますが、私はずっと領地で一人だったから旅行は一度もありません。残念な二番目だから仕方がないですよね」


 私は軽い冗談で言ったつもりだったけれど、それを聞いたジョシュア様が眉尻を下げ口を閉じた。従者の方も驚いている。


 ローサに至っては私の事を思って目に涙を溜めている。……しまった。


「ごめんなさい。驚かせるような事を言ってしまいましたね。私は全然気にしていないし、その分、今は自由にさせて貰っているから大丈夫なの」


 ジョシュア様はホッとした顔をしている。気を遣わせてしまったわ。その後は雑談をしながら目的地まで楽しく過ごす事が出来た。


 数日の間、ジョシュア様とゆっくり話が出来てお互い人となりが分かったように思う。


 いつも沢山の人に囲まれているジョシュア様は愛想がいいだけなのかと思っていたけれど、とても紳士的で落ち着いている方なのね。


 その紳士的な態度で接してもらったらご令嬢方は堕ちてしまうのではないかしら。令嬢方から人気があるのは分かる気がしたわ。


「トレニア嬢、荷物はここの従者に運ばせるから侍女さんと部屋へどうぞ。夕食は一緒に摂ろう」

「ジョシュア様、私を連れてきてくれてありがとうございます。夕食を楽しみにしていますね」



 昼過ぎに目的地まで到着した私達は夕食までの間ゆっくり部屋でくつろぐことにした。流石に連日の長時間での馬車移動は疲れたわ。

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