第10-3話 再会

「わた…だ……しさん」


 ようやく見つけ出せたクラスメートに声をあげようとしたが、性別すら違う外見に変えているのを思い出し、あわてて口に急ブレーキをかけた。


「君は、俺の姿が見えるの?」

「え?」

「…とにかく中に入って」


 粂戸くめとは、休日の女子高生スキンになっている和技わぎの手首をつかむと、テントの中に入れて入口を閉める。


「良かった、他にも見える人がいて」


 分からない事を言う粂戸は、モップモンスターを恐れて小声で言った。

 展示用を目的としたテントは低く狭く、2人は必然的にしゃがむしかなかった。粂戸との距離は同性の時よりも少し距離か近いのも仕方ない。

 それと、テントの中に他のメンバーはいなかった。


「モップの化け物が人を飲み込んだのにも関わらず、みんな、素通りして行った。

 どうやら俺達は見えなくなっているらしい」


 ここがプログラムで出来た架空世界なのを知らない『普通の人達』の粂戸から見れば、不思議な力で見えなくなっていると思っているようだ。


「……」


 粂戸にどう説明するべきか悩むが、粂戸の素直な質問に和議は頭をフル回転しなければならなかった。


「所で君は? さっき俺の名前を呼んだよね。それにどうしてここに? あの化け物、君も見ているの?」

「えと、わ、私は…わ、わこ、棚島わこっていうの。和技君のいも…従兄弟なの」

「え、棚島の従兄弟。あいつにこんな可愛い従兄弟がいたんだ。もうちょっと仲良くしとけば良かった」


 仲間意識が薄らぐが、和議こと和胡わこは、急ごしらえで設定した理由を披露する。


「和技君からラインがあってね…えと、私、基他きた新町に住んでて。それでね、買い物もあったし、もし、見つかるのならばと…行ってみようと、思ったんだ」

「棚島が連絡してくれたんだ…」


 粂戸の表情が曇る。騒動に巻き込ませてしまった事に申し訳なくなったのだろう。


「ところで和技君は? 」

「それが…。

 君はモップの化け物が人を襲ったのを見た?」

「ううん。今、来たところ」

「そう…。

 あのね、俺と友達、それから君の従兄弟と、困った姉を探してここまで来たんだ。

 店内をしばらくウロウロして、でも見つからなくて。もう、ホームセンターにいないんじゃないかと思ってた頃…突然、モップの化け物が店内に入ってきたんだ。

 最初は、何かのイベントかと思ったんだけれども、その内の1匹が紐みたいな手で近くにいた人を丸呑みにしたんだ。他の化け物も襲いかかってきて、必死に走ってたら、俺一人になってた」

「そう…なんだ」


 粂戸の話からして、他の仲間とはぐれ、未縫衣みぬいは見つかっていないようだ。


「君は、この話を信じてくれる?」

「うん。私も、ここに来るまでモップのモンスターを見かけたから」

「良かった。

 さっきも言った通り、誰も見えていないんだよ。皆、モンスターがうろつき回る店内を普通に買い物してる。一体、どうなっているんだろう? カメラが仕込まれていてただの一般人を壮大などっきりやモニタリングでも撮っているのか?」

「……」


 和胡は首を振り『分からない』と答える事にした。


「えと、綿山車さん」

「粂戸で良いよ。俺も和胡さんと呼ばしもらうよ。君の従兄弟と再会したら呼び方が一緒になるし」

「呼び捨てで良いよ」


 普段よりもワンランクアップの呼び方に少し複雑になるが、和胡は情報を集める。


「えと、粂戸。ホームセンターにおかしな格好な人、例えばパジャマ姿の人とかいなかった?」

「そういえば…店内で探している時、そんな人がいた。あと、靴を履いていない人も。何か変だなとは思っていたんだけれども、みぬ姉を探す事で頭がいっぱいだったら」

「……」


 パジャマ男の発言が一致しているのを確認できた和胡は次を考える。

 今置かれている状況から、どう行動するのが最善なのかを。


「私ね、一度、店内をぐるっとしたけれども。和技君や未縫衣さんらしき人を見ていないから、もうホームセンターにはいないんじゃないかな」


 粂戸をモップモンスターがうろつく店内から脱出させて、安全な所に隠れてもらうため、そう発言してみたが、粂戸は首を横に振った。


「でも、万が一、誰か店内に残っていたら…。棚島もやふら(粂戸の友達)も困っている俺に手を差し伸べてくれた。なのに、俺がさっさと逃げるなんてできない。

 和胡の方こそ、ホームセンターから脱出して。俺は心が落ち着いたら、店内を探すから」

「……」


 友達想いで正義感のある返答に、どう対応すれば良いのか分からないでいる一方…



 和技の代わりに行動しているAIは床の上からスマホを操作する者の靴を見つめる事しかできないでいた。


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