10-2話 ホームセンター

 男には『モンスターが現実に現れるわけがないから、ここは夢です』と信じ込ませ、モンスターに見つからないように隠れてもらうことにした。

 ついでにホームセンターまでの経路を聞いたので迷うことなく、不安に掻き立てられながら走る。



「ここか」


 和技わぎは、どこにでもあるホームセンターを見上げた。

 ホームセンター

 木材やネジやドライバーなどのDIYや工業品。園芸や農業用品が揃っているだけではなく、家のリホーム、自転車、ペット、文具、日用品までが広い店内に揃っている。


「この中に…にしては」


 モンスターが人を丸呑みしたと情報を聞いてきたものの騒然とした様子はなく、客も商品を手にした者たちは満足げな顔で出ていき、駐車場から新たな客が店内に入っていく。


「……」


 まるでパジャマ男が嘘をついたのかと疑ってしまうぐらい、ホームセンターは平和な場所に見えてしまう。


基他きた新町はクラスCやD(NPC)だけ。でも、何か騒動が起きればクラスDですら逃げ出すのに』


 和技は屋外の園芸コーナーの通路を通り店内に向かう。

 花壇に植える色とりどりの花や野菜の苗を手に取る客の表情に怯えはなく、連れと楽しく会話しながらショッピングを続けている。


 店内に入ると、リラックして購買欲を高めそうなBGMが耳に入り、やはり騒動はなかったと思わせた。


「はーい。パパでちゅよ。イベント終わるまで、仲良くしまちょうね」


 和技の目の前をピンク色のモップモンスターが通り過ぎた。ペットコーナーから勝手に持ってきたんだろう子犬を紐状の手で抱き上げて、でれでれに話しかけている。


「…そうでもないか」


 和技はモップモンスターと目を合わせず、カゴを手に取り店内を歩く。


『茶色のモップモンスターの様子からして、パジャマとかよっぽどの格好じゃない限り、見分けがつかないようだな』


 和技は適当に洗剤などの日用品をカゴに入れつつ、周りの様子を伺おうとした時、横の通路を自転車が走り抜けて行った。


「俺も高い新品の自転車で走り回りたかったな…モンスターに変化するんじゃなかった」


 近くにいた紫色と黒色のモップモンスターが後悔しながら、和技のいる商品棚に進んできた。和議は手にしていた商品をカゴに入れ、慌てずに少し離れ、モンスター達を観察する。


「ホームセンターって食べ物ないんだよな。ジィズマイ様もイベント会場をスーパーにしてくれれば良かったのに」

「それだったらデパ地下じゃね」


 不平の多い会話を続けながら紫色と黒色のモップモンスター達は、商品の棚を意味もなく落としていく。


「……」


 マナーを通り越した、ありえない行動に驚くしかなく、どう行動するべきか悩んでいると、プログラムでできた客がモップモンスター達の近くを通り過ぎる。


「……」


 NPCはモップモンスターことガリカル達の姿や行為に二度見せず、ぶつからないように避けて進み、近くで立ち止まる。商品を手に取り、値段を確認してからカゴに入れると、和技を通り過ぎて、どこかに行ってしまった。

 その表情はリラックスしていて、まるでガリカル達が見えていないように思えたが、避けている所からしてそうでもないようだ。


 それは客だけではなく従業員たちも同じで、モップモンスターが散らかして去っていった後、床いっぱいに落ちた商品を棚に戻している。


『まるでゲーム世界のNPCみたいだ』


 家に勝手に入ってきても通報せず。ツボを割り、宝箱を勝手に開けて中身を盗まれても、話しかけられれば、勇者に役に立つ情報を教える。

 ここがプログラムで出来た架空世界だと知る者にとって住人の行動が理解できた。


『きっと、モップモンスターが人を飲み込んだ時も、住人たちは何事もなかったかのように通り過ぎていったんだろうな』


 シュールな光景が思い浮かんでしまう。


「……」


 和技は改めて店内を見回した。モップモンスターとNPCがうろつく異様な空間を


『それはそうと綿山車わただし達と未縫衣みぬいさんは? その光景を目の当たりにして、いや、もしかして…』


 和技は仲間たちを探すため、再度、店内を見回し、歩き始めた。


『どこだ、どこにいる?』


 走り出せば、住人じゃないとバレる恐れがあるので、はやる気持ちを抑えながら、広いホームセンターを進む。

 スコップやかまなどの園芸、農業道具コーナー。店内奥にある吊るした照明が並んでいる家電関連。洗面所やキッチンが展示してあるリホームコーナー…

 楽しく買い物するようにプログラムされている住人か、子供のように走り回るモップモンスターのガリカル達は目にするが人の姿は見つからない。


『ガリカル達は 狩る と行っていた。もう、全員……』


 焦る気持ちを抑えながらアウトドアコーナーにさしかかる。

 楽しいキャンプの様子を展示しており、テントの他に屋外用のテーブルにBBQコンロが置かれていた。


「…」


 設置してあるテントの中から何かが動いた。

 怯えた表情で周りの様子を伺おうとする人間、クラスメートだった。


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