第9-1話 イベントの開始

 架空世界に戻ってきた和技わぎは、AIと交代せずに単独で動くことにした。

 修復士として様々なバクポイントに向かうため、老若男女のスキンをあらかじめ用意しており、その中から休日の女子高生姿を選ぶ。


「この姿なら綿山車わただしや仲間にもバレないけど…生足をさらけ出すのは未だに抵抗があるんだよな…」


 コンビニの男女兼用のトイレから出てきた和技は洗面所の鏡で違和感ないかチェックする。

 ぱっちりとした大きな目に胸元まで伸びた黒髪はスカイブルーのシンプルなヘアバンドでとめている。10代後半にしては体の凹凸は殆どないか、淡いピンクのフード付きの上着フーディーにヘアバンドと同色のミニ・スカートで可愛らしくまとまっていた。


 女子高生姿になった和技は、新発売のチョコレートラテを購入してコンビニを出る。

 架空世界でも感じ取れる味覚を楽しんでから、袖を少しまくりスマートウォッチに触れようとした所で、300年後の世界からサインサの声が脳内に届いた。


『イベント会場と報告されていたホームセンターの地図を送信します』

『え、イベントってホームセンターなの? ますます、怪しくなってきたな…地図を見る限りここから遠いな…急がないと』

『最短ルートをナビゲーションします。まずは目の前にある商店街に入ってください』

『わかった』


 和技はラテをもう一口飲んでからペットボトルのフタを閉じて駆け出した。




 殆どの店がシャッターを降ろしているため、和技の足音が寂しげに響く。

 規模が小さいのであっという間に商店街を出て一車線の道路に出た。



『それで商店街を出たら、どっちに進む?……サインサ?』


 脳内に返ってくる声はなかった。

 足を止めた和技は不審に思いスマホを取り出してみると10時を過ぎた画面は電波が届いていない事を表示していた。


「え?何で?」


 和技は周囲を見回し、後方の商店街にいた人がスマホを操作しているのを確認する。


「え?俺だけ?」


 和技はもう一度、自分の通信機器たちを見るが電波が回復した様子はない。


「どういう事だ?」

「イベント開始。楽しませてもらうよぅ」


 確認のために見ていた男がスマホを操作しながら奇妙な事を口にした。

 それから和技に気づきニヤリと笑い、近づいてくる。


「君、随分と可愛いね。もしかして『特別狩り』の子?」


 黒のダメージジーンズに薄灰色のフード付きのロングコート。肩に触れるか触れないかの長さで赤味の強い茶髪。

 近くにその者しかいなかったので、スマホの電波確認用に向けたが、あまり選択したくない人物だった。


「は?いえ、違う」

「へぇ、じゃあクラスCかD(AI、プログラム)なの? それにしては可愛いよな。まあ、たまにいるよねプログラムのくせして、可愛い子が」


 何も知らない『普通の人達』が使わないクラス別の呼び名。和技も架空世界にいる時は『特別な人達』である事を隠すため、同僚がいる時だけ口にする。

 それをこの男は堂々と口にした。それも上から目線で。


「あぁ、クラスCやDも設定の事はわからないようになっているんだっけね」


 和技を同クラスだと気づけない男はさらに近づく。

 視線が短いスカートの裾を撫でるように向いていた。


「教えてあげるよ。俺はクラスAの『特別な人達』で、この時間から、この町で一番偉いガリガルの一員だと」


 忘れていた言葉が出てきた。


 ジィズマイが所属しているグループの名前が、目の前にいる怪しい男が口にしたのた。


「ガリカル…『特別な人達』も『普通の人達』も平等にしようって活動している、あのガリカル?」

「残念だけど、そんなガリカルはいない。

 ジィズマイ姐さんは人を集めるため、壮大な目的を達成するためだけにクラスB(普通の人達)に言っただけだよ。

 あいつら、何もしないくせに、権利だけ主張するから、懲らしめる事にした。

 特に『特別狩り』というふざけた奴らは制裁を下さなければならない。

 あぁ、教えてあげるガリカルっていうのはね『特別狩り』を狩るから『狩り狩る』《ガリカル》って言うんだよ」


 男から言葉に和技は衝撃を覚えるのと同時に別行動する友人たちと別行動をとった事を後悔した。


「まあ、プログラムモブのクラスである君には関係ない話だったね。

 そんな事より、この町で一番偉い俺が相手してあげるんだから、光栄に思いなよ」


 ガリカルの男は更に近づいた。


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