第8-2話 モニタールームの秘書

 2321年の現実世界。個人が使う部屋にメイドシステムがあるように、モニタールームにも、部屋の管理はもちろん、補助もしてくれるし、使う者が望めばホログラムとして映像化もできた。

 モニタールームは部屋の使用権限を持つ帯論たいろん用に起動しており、帯論 仕様の映像となる。


『あの、おっさん、真面目に働いているのか?』


 補助の姿は、ビジネススーツに身を包み、長い髪をきっちり結い上げた秘書をイメージしたものなのだが…

 秘書は秘書でも年齢制限のある映像の秘書であった。豊満な胸もさることながら、シャツの上のボタンは上1つ外し、スカートも短いどころかスリット(切れ目)が入っている。

 今まで和技わぎが同室する時は音声のみだったので、彼女の存在を知っていたが、その姿を初めて見て戸惑うのは無理はない。


『マスターは『やっぱり無理』と言って休息をとっています。なので私、サインサがアシストさせていただきます』


 和技の冷静はさらに低下というより混乱するが、サインサから視線を反らし、何とかモニタールーム使用する目的を思い出す。


「えーっと、サインサ。今、SNS等で騒がれている『特別狩り』失踪について調べているんだけれども、もっと情報が欲しい。


 そもそも『特別狩り』は本当に失踪したのか?


 あと『特別狩り』が今、どこにいるのかも知りたい」

『特別狩り。

 現在、この国で生きている本当の人口の10万2681人のうち。クラスA(特別な人達)428人を除くクラスB(普通の人達)は10万2253人。そのうちクラスAにヘイトを向ける者たちを指す『特別狩り』は2200人と推定されています。

 『特別狩り』の疑いのある者を全てを検出しますか?」

「とりあえずSNSにラストメッセージ『さよなら』と投稿した76人に」

「かしこまりました」


 プログラムに精通しているだけあってAIは数秒とたたず、検索結果を口にした。


「76人のうち8人は自宅。7人は自宅から5キロ範囲内。4人は8キロ範囲内。1人は新幹線に乗って移動中。

 残り56人は基他新町きたしんまちに集中しています」

「基他新町」


 サインサは和技の開いているウィンドウの右隣に新しいウィンドウを開く。ウィンドウには基他新町を中心にした地図が表示している。

 サインサが説明するたびに人型のポイントが地図に現れた。


「56人の居住エリアを検索した結果、不審な点が見つかりました。

 基他新町から5キロ内に居住している者は3人しかいません。

 30キロ内は17人。残りは100キロ以上離れています。

 それと自宅から基他新町まで途中に通過した形跡がありません」

「通過した形跡がないって、コンビニや駅にある監視カメラに写っていなかったり、バスや電車に乗ったときに使用するICカードの記録も残っていないって事?」

「はい。基他新町の前にいた場所も56人全員が自宅です」

「…瞬間移動」


 和技はパジャマ姿で現れた未縫依を思い出す。

 ジィズマイから『特別な力』を貰った後、彼女の意思と関係なく瞬間移動した。


「サインサ、その56人は…いや、ラストメッセージを投稿した76人。ジィズマイのイベントに参加したとSNSに投稿している? 」

「はい。76人全員がジィズマイが起こした騒動に参加したと投稿しています」


 和技は驚愕しつつも、サインサが表示してくれた76人のジィズマイ騒動に関する投稿を眺めた。


「…もしかして、ジィズマイは…特別な力をばらまいたのは『特別狩り』に瞬間移動の力を付けるため?

 そして基他新町に集めた。

 集めてどうする?」


 和技の目の前に小さなウィンドウが開いた。架空世界で基他新町にいる和技の代わりに存在するAIからであった。


「コンビニから綿山車わただしと合流した後に、綿山車の友達から、基他新町の イベント会場に向かって行く未縫依さんを見かけたって連絡が入った。

 今から、その友達と合流してイベント会場に向かう…って基他新町にイベント?

 サインサ、基他新町にイベントの予定はある?」

「本日、基他新町が主催するイベントの予定はありません。

 『基他新町』と『イベント』を含む検索結果も検出されませんでした」

「嫌な予感でしかない」


 和技はいつ起きてくるのかわからない帯論にとりあえず報告メッセージを送信してから、失踪者のいる基他新町に向かった。





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