第6-2話 得た力


「…これって、特別な力になるのかなぁ」


 和技わぎは架空世界に戻り、鏡で数値変化を確認するため、人差し指で口角を引っ張り八重歯を見る。

 犬歯が吸血鬼レベルに変化していた。


「吸血鬼和技ちゃんの誕生ってか、いやぁ、笑える笑える」


 どこかで覗いているのだろう、笑い転げる帯論たいろんの声を完全に消して、改めて観察していると、廊下を走る音と和技の部屋をノックする音と、ドアを勢いよく開くのが間髪入れずに起こった。


七流ななる、勝手に開けるなと…」

「お兄ちゃん、七流、とうとう特別な力を手に入れたよ」


 兄の苦情を聞き入れることなく妹は喜びの表情を向ける。


「見て見て見て」

「見てって…歯も…何も変わってないけど」

「えー分からないの。変化に気づけない男子はモテないんだよ」

「大きなお世話だ。で、何が変化したんだ?」

「七流、ちょっと高くなったと思わない?」

「身長?背が伸びたのか?」

「違うんだなぁ、それが」


 にんまり笑い七流は和技のベッドの上に立つ。


「足元をみてみて。あと、スカートだから絶対に、それから上は見ること禁止」

「頼まれてもみない」


 視線を向けると、七流の足とベッドの間に数センチほど空間があった。


「浮いてる…七流、これって……」


 浮遊している事に驚いた和技は妹を顔を見上げる。


「あ…」


 一瞬だが視線は禁止区域を通っていた。





「ん、もう、信じらんない」

「あれは無理だろう。それに(中は)見ていない」


 翌朝、まだ怒りの収まらない七流はぶうぶうと文句を言いながら自転車を押す。


「今も飛んでいるのか?」

「その場で浮いてる事しかどきないから無理。

 浮いていられるのも、あれ以上は高くならないんだよね。もっと高く飛べると思ったのに」


 負の感情が別方向に向いた所で、和技はクラスメートの声に気づき後方を振り返る。


「棚島、見てくれ見てくれ。俺の進化した力を」


 七流と同じく嬉しそうな顔で駆け寄ってきた綿山車 粂戸わただし くめとは和技の前に手のひらを見せるとピンポン玉サイズの淡い球体を出現させた。


「凄い、魔法みたい」

「だろう、棚島の妹ちゃん」

「魔法だな…まさしく」


 驚く表情を見せながら、和技は思案する。


『確かに魔法のようだが…クラスA(特別な人達)が使用する管理用とはかけ離れたものだな』


 クラスメートの姉、未縫依が視界に入ってきたので考えるをやめ、彼女の得た力を聞いてみたら、視線をそらされた。


「言わん。絶対に言わない」

「え?」

「あぁ、棚島、みぬ姉のはハズレだったらしい。全然、教えてくれないんだ」

「じゃあ、お兄ちゃんと一緒だ。吸血鬼みたいに歯が尖っただけだから」

「……。どうせ、ハズレだよ。口を閉じたら違和感あるし、肉とか食べにくいし」

「…。なら、私も似たようなものだな。尻尾がはえた。ハムスターみたいな小さいのが」


 気になるが、さすがに確認する事はできない。


「それはそうと、綿山車。それを見せるためにわざわざ、家に向かってきたのか? 学校ついてから見せても良いのに」

「わざわざも何も家はそこだよ」


 話題を変えようしたが、ふった内容を失敗したようだ。


「え、近所だったのか?」

「おいおいおい、棚島。同じ中学、小学校もだぞ。え? もしかして俺、忘れられてる?」

「え、あ、いや…(クラスAになる前は、別エリアの家庭に割り振られてたから知るわけがない…何て言えない)…その」

「ひどーい。お兄ちゃん。だから、友達いないんだよ」


 何も知らない人達からの言われ放題に、和技は心の中でため息をつくしかなかった。


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