第6-1話 特別な力

 ジィズマイと名乗る空を飛ぶ女性から、特別な力を手に入れた『特別な人達』の和技は、300年後の世界に戻った。

 プログラムで出来た架空世界で特別な力を得るには、数値を書き換えるだけで済むので、姿を全身スキャンすれば良い。

 モニタールームにいる和技は、何もない所でウィンドウを出現させて、スキャン後の数値を確認する。


「今の処、数値を書き換えられた様子はないな。

 修復士用のセキュリティを切って書き換えがあった時にアラーム鳴るようにしたから、変化が起きても対処できる」

「特別な力ねぇ。クラスA(特別な人達)から見れば管理するための力なんだがなぁ。

 高層ビルの最中階にできた外壁バグを直すのに、命綱をつけて恐る恐る降りてられるか」


 モニタールームの一つしかない椅子に、どっかり座る帯論たいろんは管理側の意見を愚痴りながら、周囲に広がっている沢山のウィンドウから何枚か手元に寄せる。


「ジィズマイという奴は、和技の公園だけじゃなく、北から南、計124箇所も特別な力となる玉をばらまきやがった。

 しかもどのエリアもクラスAとB(特別な人達と普通の人達)が集中してるエリアだけを狙っている」


 2022年と比べ激減してしまった人口を補うため、300年後の政府はプログラムで動くモブを架空世界に配置することにした。

 とは言え、普通の人達に気づかれないように魂を持たない者達の割合を町ごとに変えている。

 クラスAやBが多い町は、クラスC、Dと言ったAIやプログラムだけの者の割合が少なく、その逆は、ゴーストタウン、ゴースト、魂のないプログラム達だけの町もある。


「それにしても、この美ボディのネエチャン、本当に『ジィズマイ』と言ったんだろうな」

「あぁ」

「恐い物知らずか、裏があるか…後者なら、やっかいになってくる可能性があるな」

「………」


 帯論が引き寄せたウィンドウに映るジィズマイとその周囲をみながら、帯論の言葉に反応することなく、和技は新たなる単語を口にした。


「ガリカルの方はどう?帯論さんの事だから、もう調べつくしているんでしょ?」

「もちろん…と言いたい所だが、クラスZ(犯罪者)のリストや俺様の華麗なる検索でも引っかからなかった。おそらく新しく結成した団体か、ショボイ事をしている偽善団体だろう」


 帯論はポケットからタバコ、300年後の世界なので火がいらなければ、受動喫煙もない。ただ外見は架空世界のものと変わらない物体をくわえ、害のない煙を吐き出す。


「偽善も良い所だな。普通の人達に力を与えてどうするつもりだ」

「さあ? ただ、最近は普通の人達が特別な人達に向ける不満が高まっているから、それを和らげようとしているのかも」

「特別狩りの連中か…いや、個人的、世の中に不満があるから、そのはけ口がこっちにも向うだけだがな」


 帯論が2回目の煙を吐き出していると、和技の方からアラームが鳴る。


「数値の変更が来たみたい。えと………変化は…あったけれども」


 和技は首を傾げる。


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