死神の青年は『死神』を知る。3
その場に座り込んでファイルを取り出し、上から順番に開いてみることにした。ファイルのタイトルはご丁寧に誰かさんが直筆で書いたのか若干崩れた字だった。
【その1 死神の鎌 説明書】
──『死神』必需品の鎌です。この鎌を使い、生きとし生ける人や動物の魂を天界に送ります。
(あいつはこれをそのまま読もうとしたのか……)
確かにそれだと自分で読んだ方が早い話だな。と納得しページをめくる。
次のページには全面に鎌の全体イラストが描いてあり、それぞれの部位に丸が囲ってあった。丸の先にはページ数が書いてあり、それぞれその部位ごとの説明があるようだった。
──『持ち手』持ち手部分は握りやすいようバージョン、タイプごとに改良しており、特性の樹脂を使ってフィット感を出しています。なおオプションで好きな持ち手に付け替えることが可能。
──『柄』柄はどのバージョン、タイプでも共通で戦闘にも有効な貴重で頑丈な木材を使っております。色はブラック、ブラウン、ホワイトの3色からお選びいただけます。
「…………戦闘?」
あまりに突飛した単語で思考が止まる。が、メルの話からしてオレにはそこまで関係なさそうだからスルーとする。
──『刃先』鎌の重要部分。黒曜石と他金属を独自に併せできた刃先の切れ味は保証します。ソレが何であれ切れます。物理的にコンクリートの壁くらいは一刀両断できます。
「………………」
説明書自体が怪しくなってきたため、オレはとりあえずこのファイルは閉じた。
メルは読んでも読まなくてもいいと言っていた二つ目のファイルに手を伸ばす。
【その2 死神としての心得】
──ワレラシニガミハ イキトシイケルモノノタマシイ ソノアリカヲ トドコオリナク メグラセルトドウジニ オノレノ ソンザイヲ ニンシキスルタメノ ドウチュウ ソノモクテキヲ ワスレテハナラナイ ソシテ……
パタンッ
(読みづらっっっっ)
内容も堅苦しく、意味不明な羅列にしか見えなくなったため、このファイルは見なかったことにした。
(あとは、これか)
最後のファイルを取り出すが、これもろくな事が書いていないような気もしていた。
【その3 死神とは】
「あれ……?」
中を開くとこれだけ正式な文書ではなく、切れ端のような大きさのメモが沢山詰まっている形だった。文字も全てが手書きだ。
──死神とは、死を持ってしてもなお──の──を認められず──が────の存在?
──仕事は
──生きとし生ける人や動物の死を見届け、送る。そして自分の──
──なんなのあいつマジで適当すぎ!!
「これは…………」
なんかとてつもなく見てはいけないものを見たような気がした。
(メルのやつ、重要なファイルだって言ってたけど、もしかして自分のと間違えたのか……?)
確かに重要そうなことも書いてありそうだったが、文字が擦れて見えなくなっている部分もある。
(それにこの愚痴の量は……)
「………………」
オレは少しだけ考え込み、結論を出す。
「メルの弱みとして持っとくか!」
そうと決まれば、もうすでにここに居ても仕方がないし、全く使えない資料は放っておき、この先の事を考えることにした。
(……にしても、この鎌をどうするか)
とファイルを整理し立ち上がり、それらを持ち上げながら頭を悩ませていると、【その3】のファイルの中身であろうメモが一枚すり抜け落ちた。
「あーもう」
それを拾い上げて目を通す。
「これって」
内容はこう書かれていた。
──死神は基本的に生きている人からは認識されない。
「ほう?」
(つまり、透明人間的な感じか? それなら確かに鎌を持ち歩いても平気そうだが……)
確証がない。だが、これまでの行動を振り返ってみると納得するだけの事象はあった。
この季節にこの服装、それに感化しない街の人々。しろには反応していた親子。
「なるほど……」
と、死神のシステムに感心していたが、すぐに不審点を見つける。
「生きている人からは認識されない……?」
では今朝方まで一緒にいた少女。亞名は?
生きていないとでも言うのか?
「いやでも学校に行くって……」
疑問符でいっぱいになった頭をどうにか横に振る。
(今考えても仕方ないし、亞名に直接聞いたほうが早いだろう)
オレは側にずっといた黒猫のしろを見下ろし言った。
「とりあえず、帰るか」
「ナァー」
しろはそう返事をした。
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