死神の青年は『死神』を知る。2

 街を歩きながら、オレはロッカー群を見つける度に『46』という数字を探す。だけどもやはりというかなんというか、そこまで都心ではなさそうなこの街に約50ほどの数があるロッカーなんて見つからなかった。

(なにかしらスタジアムや大きい施設があれば別だけど、それもないしな……)

電車やバスで移動して都心方面に向かうにしろ、オレは無一文だった。

(ロッカーの中に渡しそびれたものがあるってのも、肝心のそのロッカーが見つからないんじゃどうしようもないな……)

これからどうしようと頭を悩ませながら歩を進めていると、側を通った小さな女の子の声が聞こえてきた。

「ままー、あれかわいいー、ねこちゃん!」

「あらほんとねー、野良猫かしら? でも真っ黒ね。」

「くろいとだめなの?」

「うーん、昔はね。よく不吉の象徴とされてたのよ」

「ふきつ……? しょうちょー? ってなにー?」

「それはね、──」

すれ違い様で声は遠くなっていったが、オレはふと自分の足元をみた。

オレの足にしっぽを纏わり絡みつかせている真っ黒い猫。この猫に見覚えはある。

「しろか。お前こんなところで何してるんだ?」

「ナァーア」

しろはオレを見上げて返事をしたあと、付いて来いと言わんばかりに先を行った。

なんの手がかりもなく、それこそ猫の手も借りたい状況だったからオレはしろに付いていくことにした。


 しろは街の大通りをしばらく進んだが、その先少し外れた道まで出ると、路地裏に入っていった。そしてさらに裏へと二、三回曲がる。

「お前は猫だからひょいひょい行くけどな、オレにはギリなんだが……」

途中で様子を見るように振り返るしろに少しばかり文句を言う。

しろが止まり、座って待っているところまで辿り着くと、そこにあったのは不自然にも一つだけその場に置かれたオレの身長ほどある古びたロッカーだった。

その上部には、いかにもな書体で『46号』と書かれたプレートが貼られていてオレは息を呑んだ。

「…………なんでこんなところに、てか不自然にもほどがあるだろ」

薄気味悪さで寒気がする。

「開けるぞ」

しろに言ったつもりもなかったが、心細さゆえか口に出していた。

持っていた鍵をポケットから取り出し、鍵穴に差す。右に捻るとカチャッと小さく音がした。

恐る恐る扉を開けると、そこには一つの大きな鎌と、書類の束らしきファイルがいくつか置かれていた。

「………………」

オレは一度そのまま扉を閉めた。


(いやいやいや、この鎌をどうしろと? てか渡しそびれたってこれか? 確かに『死神』ぽいけど!)

「ちょっと、何閉めてんのよ」

「ふぉっっっ」

どこからともなく聞こえた声に飛び跳ねそうな勢いで驚いた。

「あはは、ビビってんの」

「はぁ……お前いつも突然すぎるんだよ」

「そろそろ着いた頃かなーって思って」

「着いたけど。なんだよこれ」

「そそ、優しい上司のメルちゃんは、ちゃんと説明に来てあげたのです」

「来てあげたってよりは相変わらず声のみだけど……」

「言ったでしょ? アタシは忙しいの!」

「…………」

「何か文句でも? まぁいいや、説明ちゃんと聞きなさいね」

音声越しにパラッと紙をめくる音が聞こえた。

「ええっとそれは、『死神』必需品の鎌です」

「…………」

「うーん、ま、詳しいことは説明書同封したからそれ読んで!じゃあ次!」

「雑!!」

「そこのファイルは、ひとつ目がその説明書。ふたつ目が『死神』としての心得だとかなんとか書いてるやつ。それは読んでも読まなくてもいいや」

「あ、はい」

「みっつ目が大事で、その『死神』の仕様ね。アタシ達の仕事の内容、やり方、重要なことが盛りだくさんな感じ。」

「んー……」

メルは少しだけ悩んだような声をだし、持っているであろう紙をペラペラめくる音を立ててたが、すぐにそれもやめ。

「ま、その時によってのケースバイケースがぶっちゃけ多いし。経験あるのみ?って感じで説明はもういいかな」

「えー…………」

その雑さゆえ突っ込むことすら呆れて物が言えなくなってしまった。

「それにとりあえず46号くんへの仕事依頼は、少女の身辺調査だけだしね。多分、まだ君は何もしなくていいと思うよ」

「? それってどういう……」

「で、どう? なんか怪しい感じする?」

人の話は聞かないらしい。

「いや、まだ昨日の今日じゃなにもわからないかな」

「そっかーじゃあ様子見で!」

「それだけでいいのか?」

「まぁきっとそのうち分かるんじゃない?」

「……それって、メルはなんか知って──」

「あ、もう時間切れだ。自腹切ってるからちゃんとありがたく思うのよ!」

「えー…………」

「じゃあね、46号くん!また明日!」

「あぁ、一つ言い忘れた。」

「?」

「オレの名前。『かずと』だったよ。思い出した」

「……ふぅーん、そう。」

勢いのよかったメルがほんの少しだけ止まった気がした。

「思い出せて良かったね!じゃあまたね『かずと』くん!」

ガチャンッと何か物音がして、声は聞こえなくなった。


 相変わらずの勢いに圧倒されたが、なんとなく慣れてきた気がしていた。

(それにしても最後なんか……いや)

勢いよく通信が切れていったし、気のせいか。とメルのことはどうでもよくなったが、目の前の物を見て結局頭が痛い。

(鎌って、普通に持ち歩いたら怪しすぎて捕まるよな?)

「…………」

鎌のことはとりあえず置いておくとして、オレは下に積まれたファイルに手を伸ばした。

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