第8話 いつも横に
(西川浩二=コウちゃん)
(店長=西川浩二)
(コウちゃん=店長)
さやかはベッドに寝ころびながら、同じことを繰り返し考えていた。そして少しづつ何かを思い出し始めていた。
「コン、コン。さやか入るわよ!」
さやかの部屋のドアを叩く音が聞こえ、京子が何かを手に持って部屋にやってきた。それをベッドの上で寝転んでいるさやかの目の前で広げて見せた。
「これ見て! パパよ、懐かしいわね。少しは覚えてる?」
京子が持ってきたのは古いアルバムのようだった。京子はさやかを起こしてすぐ横に腰かけ、その古いアルバムを広げてさやかの前に差し出すと、さやかは手に取って数ページ京子の解説付きで眺めていた。
「ほらここに写ってるのがコウちゃんよ。」
京子が指さす人物を見てみると少し若いような気がするが、さっきまでバイト先で顔を合わせていた西川浩二の顔が確かにそこにあった。
(やっぱり店長はコウちゃんだったんだ。)
さやかは確信した。
「パパがよく言ってたけど、コウちゃんはね、すごいピッチャーだったみたいで、とっても速い球投げてたみたいよ、でも私にはよくわからないんだけどね。ははは。」
京子は微笑み懐かしそうにアルバムの写真を眺めながら話していると、普段は野球の話を嫌っていたさやかも、すごいピッチャーと西川が褒められたことが何故だか自分が褒められているように感じ気分を良くしていた。
しばらく写真を2人で眺めていると京子が少し表情を曇らせた。
「でもねえ・・・。」
「でもねえって何?」
「ううん、別に。」
京子は少し苦笑いをしながら、アルバムのページを再びめくっていた。
「ほら見て、このパパ若いわねえ、このころはスリムでかっこよかったのよ。」
何かを誤魔化すように言うと、さやかは少し違和感を覚えていたがそれ以上は何も聞かないでいっしょにアルバムの中の若い父親と西川のことを見つめていた。
「本当だパパかっこいいね。えっ、ここに写ってるのママじゃない?」
さやかはアルバムの中に京子であろう人物を見つけたようだ。
「そうよ。これわたしよ。若いわねえ、どう結構いけてるでしょ。」
京子は自慢気に言っていたが、さやかは少しひきつった笑顔を見せてしまっていた。
「ちょっと、何その顔。このころの私だったら、今のさやかにだって負けてないんだから。」
何故か娘にライバル心を燃やしておかしなことを京子が言ってくると、さやかはあきれた感じで答えていた
「ふー、はい、はい、ママは今でも美人でいけてますよ。」
さやかの言葉とその表情で京子は馬鹿にされたように感じ、さやかをせかすように言っていた。
「もっといい私の写真あるはずだから。次めくって!」
しばらくふたりでその古いアルバムを懐かしそうに眺めていると、そのアルバムの西川の写真には必ず小さな女の子が一緒に写っているのがさやかにもわかった。
(本当に私・・・。)
「あれ? 今まで気づかなかったけどよく見ると、どの写真でもさやかはコウちゃんの横に写ってるのね。これもそうだし・・・、ほらこれも!」
京子は少し驚いた顔をしてたが、その後さやかの顔を見てしみじみ言っていた。
「あなたは本当にコウちゃんが大好きだったのね。」
さやかは全身が急に熱くなってくるのを感じ、顔を真っ赤にして下を向いてしまうと、京子はさやかの顔をのぞき込むようにして聞いてきた。
「さやか、どうしたの? あなたまた顔真っ赤ね、熱でもあるんじゃない?」
「何でもないよ。ちょっと熱いだけだよ。この部屋暑くない? そうだ私お風呂入っちゃおう!」
さやかはアルバムを閉じ京子に返すと急に立ち上がり、赤くなっている自分の顔を隠すように京子に背を向け上着のパーカーを脱いでいた。
「はい、はい、どうぞ。まったく変な子ね。」
京子は首をかしげながらアルバムを持って部屋を出ようとした。
「あっ、ママちょっと待って、そのアルバム借りてもいい?」
さやかは少し恥ずかしそうに言った。京子はゆっくりと振り返り、さやかにアルバムを差し出した。
「別にいいですけど。はい、どうぞ。」
さやかはそのアルバムを両手でしかっりと受け取り、とても大切なものを扱うように机の上にそっと置いた。
「お風呂行ってきまーす!」
そして京子を追い越して、勢いよく部屋を出て行き風呂場へ向かって行った。
さやかは風呂から上がり自分の部屋に戻ると、ベッドにうつぶせになって先ほどのアルバムを笑顔で眺めていた。そして自分と西川がいっしょに写っている写真のあるページに楽しそうに
(これも、これも、これも・・・。本当に私コウちゃんのそばで写ってる。でも当たり前だけど全然覚えてないなー。なんで覚えて無いのよ、もう! でもあの夢のことは・・・)
思い出せない自分に少し腹を立てながらも、アルバムの写真をしっかり目に焼き付けるように見続けていた。西川と自分が写っているその数枚の写真があるページを、何度も何度も繰り返しめくっては、ひとつひとつの写真を愛おしそうにながめていた。
(今日みたいな日に、いつもの夢が見れたらいいのに・・・。今度コウちゃんに会ったらなんて言おう。うん? なんて言えばいいんだろう?)
さやかはそんなことを考えているうちにいつの間に眠ってしまっていた。
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