第60話
「ここがその、もの凄く効く臭い消しを作ってる村なんすか?」
平静を装いつつも、どこかそわそわした様子でペコが聞いてくる。
「あぁ。かなり効くと評判でな。街でも扱ってるんだが、あの時は売り切れで、わざわざこの村まで買いに来たんだ」
昨晩、昔の話を持ち出したのは、この村が近い事を思い出したからである。
「よかったじゃない。これで足クサともおさらばですわ」
「吾輩たちの安眠も守られるのである」
「ちょ! 恥ずかしいから、大きい声で言うなっす!」
人の目を気にしてペコが人差し指を立てる。
(誰も気にしちゃいねぇっての)
と思うのだが、まぁ乙女心という奴だろう。
「店の人間になにか言われたら、俺の足が臭いって事にしといてやるから、さっさと買いに行くぞ」
その事も一応気にはしていたのだろう。
ホッとしたようにペコがはにかんだ。
「いいんすか?」
「ライバーホルンじゃヒモだなんだと散々だったからな。恥を掻くのは慣れっこだよ」
冗談めかして言ってやると、ペコは嬉しそうに癖毛頭を捻じ込んできた。
「うひひひ、やっぱライズさんは優しいっす!」
「また甘やかして」
「そうやって前の仲間たちも惚れさせたのであるな」
ラビーニャは呆れるように、キッシュは悪気なく――それはそれでたちが悪いが――言ってくる。
「うるせぇよ」
困った時の決まり文句で言い返し。
ライズは村の道具屋へと歩き出した。
†
「品切れだぁ?」
言われた言葉を繰り返すと、中年の店主が弱り顔で禿げた頭を撫でて見せた。
「いやはや、困ったもんで。王魔の時が始まってこの辺もなにかと物騒になりましてね。臭い消しの材料になる薬草の生えてる泉の近くに魔物が湧いちまってるんでさ」
「そんなぁ!?」
がっくしとペコが項垂れる。
足クサを治せると思った矢先にこれである。ショックも大きいのだろうが。
「諦めるのはまだ早いですわ」
ラビーニャが言うと、店主の前に出る。
「見ての通り、わたくしたちは冒険者ですわ。そこの男の足クサを治すのに臭い消しが必要ですし、報酬さえ頂ければ、魔物退治を請け負いますわ」
ラビーニャに言われるまでもなく、ライズもそのつもりだったのだが。
この手の交渉はラビーニャの方が上手いので、任せて見守っておく。
「そいつはありがてぇ話ですが、結構なバケモンみたいで。この前も街の方に依頼を出して冒険者に来てもらったんですが、歯が立たなかったそうで。もっと強い連中を探してもらってる所なんでさぁ」
それが中々難航しているらしい。
ただでさえ王魔の時で冒険者の需要が急増している。
加えて先日の人食い森の掃討作戦で多くの冒険者が命を落とすか怪我をして、人手が足りていないのだろう。
親父の言いたいのは、遠回しにあんたらの実力で大丈夫か? という事だろうが。
(まぁ、頼もしい冒険者には見えないだろうな)
内心で苦笑する。
さえない男にスケベな格好をした――見た目だけは――美女、田舎娘丸出しのペコと、妙な容姿をしたチビッ子である。冒険者の一団に見えるかどうかも怪しいところである。
「心配ないのである。吾輩たちは人食い森の大掃除で伝説のガル……なんたらというバケモノを倒した勇者の一団なのである!」
得意げにキッシュが胸を張った。事実ではあるので、言いたいのなら別に止めもしなかったが。
「はぁ……」
と、親父は気のない返事をするだけである。
(誰が信じるかって話だよな)
冒険者が皆ほら吹きだとは言わないが、調子のいい事を言って回る連中が多いのも事実である。仕事を得る為の交渉術といえばそれまでだが。
なんにしろ、親父が信じていないのは明らかだったし、そうなる事は分かっていたので、ライズもその件を吹いて回る気にはなれないのだった。
「別に、わたくし達に任せたところでそちらの損にはならないでしょう? 報酬も前金なしの後払いで構いませんし。その分、上手くいったら臭い消しの代金くらいはまけて欲しいですけど」
と、ラビーニャがタイミングを計って話を戻す。
臭い消しが必要なのはこちらなので、ライズはタダでも受けてやるつもりだったのだが――あるいはそれを見越して、ラビーニャは交渉を買って出たのかもしれない。
ともあれ、ラビーニャは色仕掛けなど織り交ぜつつ、悪くない報酬で仕事を取りまとめた。
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