『かけちがい』
行きたかった場所
ノティーカの街の、高級住宅地やら一等地やらを避けるように進み、最先端デザインの建物が消えて見慣れた建物が並ぶ地帯、比較的古い地域にウォルの求めた場所はあった。
高級品ではない、庶民的な商品が売られている商店街の端の方、角を曲がって最初の商店、立ち上るは削りたての木の臭いと釉の香り、聞こえるは子供のはしゃぐ声、営むのは老夫婦、夫の方が店の奥で彫刻刀を操り製作し、妻の方が曲がった腰で店先で接客を行っていた。
そして棚に並ぶは色々な人形と、小さくて軽くて角が丸くて安全な武器っぽいなにか、それにボールやパズル、積み木、サイコロ、カード、チェスの駒が賑やかに溢れていた。
ここは、おもちゃ屋だった。
当然客層は子供とその親たち、子供は僅かなお小遣いで小さなおもちゃを選び抜き、親がいれば全力を持ってねだり、それに応えられたりられなかったりしていた。
その中で、ウォルの姿は浮いていた。
大人だけでも珍しいのに、その眼差しは真剣、棚の端から端までジッと、舐めるように吟味し、時折手を伸ばして弄ったりひっくり返したりして、その眼に焼き付けるように観察して、そして次へと移る。
異様な光景に、子供たちは奇異の眼差しを向け、親たちは警戒を強め、夫は無視し、妻はことあるごとにはたきを振るって追い出しにかかった。
その全てから、パロスは庇っていた。
笑顔で手を振り、安全をアピールし、ウォルの邪魔にならないように気を使っているのが傍からもわかった。
何よりも、人形を見つめる横顔を覗き込むその笑顔は、浮いた姿を和らげていた。
……そして最後の棚が終わろうとしていた。
「どれにしましょうか?」
そのタイミングを見計らい、パロスが声をかける。
「どれって」
「折角来たんだから買って帰りましょうよ? これでも私、ちょっとだけお小遣いを持ってきてるんです。流石にお店全部とかは無理ですけど、少しなら」
「少しって」
そう応えながらも、ウォルは笑顔を隠し切れず、口の端が笑みでわずかに上がっていた。
その反応にパロスは笑顔を隠さず横に並んで棚を覗き込む。
「買うなら小さなものの方がいいですよね? お値段の問題もありますが、置き場所とかも考えないといけないし、それにみんなに配ろうと思ったらかなりの数必要ですしね」
「……みんな?」
らしくない、戸惑い混じるウォルの声に、パロスは思わず顔を覗き込む。
そこには、ショックを隠し切れない表情があった。
「あ、あの、あ、あ」
予想してなかった反応に舌が思うように回らないパロス、それを前にして、ウォルが小さく寂しく笑って、ため息を吐いた。
「そうか、あぁそうだな。俺はもう、おもちゃで遊ぶようなとしじゃなかったな」
寂しそうにそう呟いて、ウォルは降らり、店より出て行った。
その背中に一瞬反応の遅れるパロス、慌てて続いて、だけども店を出る直前で内外にお辞儀して、その後を追いかけて行った。
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