幕間・1 【自室にて】
ロッキングチェアに腰かけていた老人は飛び起きる様に目を覚まし、机にあった端末を起動させ、時刻を確認する。時刻は2時過ぎ。老人は頭に付けていたヘッドギアを取り外し、目の前に鎮座している自らの遺品となるであろう〝鎧の様なモノ〟を見据える。無骨で、全く可愛げのない。老人は、〝相変わらずこんなものしか残せないのか〟と、自嘲気味に笑った。新しいエネルギー、それで動く新型動力、高性能AI、自動人形。本当に可愛げのないものばかり。老人が人生の中で制作してきたものはこんなものばかりだった。
若い頃は、自分が思いついたもの、考えたものは全て面白く、世の中の為になるものだと思っていた。若気の至り、悪く言えば我儘で、傲慢で。それらが本当に与える影響など露知らずに、結果として大きな惨劇を招いてしまった。齢30前後。あの時は本気で自分の行いを後悔し、一度折れかけてしまった。その時は同じ研究者だった妻が支えてくれたが、その妻も数年後に自分の研究の影響で亡くなってしまった。惨劇の時も辛かったが、それ同等に妻を亡くした時も精神的に堪えた。お陰で息子には寂しい思いをさせてしまった。幸い、愚かで傲慢な自分とは違い、聡明な子に育ってくれ、結婚して娘二人にも恵まれた。しかし、息子の妻も、自分の妻と同じ病で亡くなった。あの時の息子の表情は脳裏に焼き付いて、今でも夢に出てくる。こんな思いをするのであれば、最初からこんな事をするべきではなかったのだろう。そもそも、本当に目的を果たせたのだろうか?
老人は再び時刻を見る。3時前。深い溜め息を吐いた後、再び〝鎧の様なモノ〟を見据える。
目的の達成は、後の世界が決めてくれる。この〝鎧の様なモノ〟は最後の実験だ。今は残される者たち・・・息子と孫を少しでも守れるよう、自分の持てる全てをこれにつぎ込んだ。別にこんな厳つい形ではなくても良かったのだが、国防用の兵器開発と理由をつけてしまえば、周囲にバレにくく、結果的にも息子と孫を守れる。これが、死期が近い自分が残せる、家族への最後の贈り物。
老人は苦しそうに咳き込み始める。必死に手を伸ばし、机にある錠剤を掴んで口の中へ放り込んだ。暫く咳が続いたが、時間が経つにつれ少しずつ落ち着いてきた所で、老人は立ち上がる。少しフラフラしながらも、隣の部屋・・・自分の寝室への扉へ向かい、ドアノブに手を掛けて扉を開いた。
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