第一幕/出立 [邂逅/前]第3話-4

 軍人たちが先導する列は客室を出て廊下を渡り、乗客がシャトルに乗り込んだ出入口に辿り着いた。出入口を挟んで反対側には[JST]のコックや数名のエンジニアと思われる人物が同じように軍人に連れられて列を成していた。出入口を背にして初老の軍人が2つの列を交互に見る。

「この出入口には我々がシャトル内に侵入する時に使ったタラップが設置してある。それを使い、まずは私が、それに続いて乗客の皆様から一人ずつ順番にシャトルから降りて頂きたい。慌てず、ゆっくりと。もし長時間の渡航で足がふらつく等で降りられる自信がなければ、その際は我々が補助するので降りる直前に手を挙げて欲しい。説明は以上だ。それでは、お先に私が。」

初老の軍人は、二つの列に向かって一礼した後、くるっと後ろを向き出入り口に設置されたタラップを降りていく。カンカンと、タラップを降りていく音が響き渡る。初老の軍人は降りきると、シャトルの出入口に向かって大きく手を振った。

「それでは一人ずつ、足元に気を付けて降りてきてくれ!」

列の先頭はスズネだった。スズネは出入口から顔を出してキョロキョロと周りを見る。そして、タラップを確認して一歩踏み出そうとしたところ、何か思い出したかのように振り返り、その後初老の軍人に向かって叫んだ。

「あの、すいません!私の次、小さい子どもなんですが、一人では危なそうなので一緒に降りてもいいですか?」

初老の軍人は「あー」と頷きつつ、

「大丈夫だ!足場が狭くなる分、十分に気を付けてくれ!」

スズネに向かって了解の意味を込めてサムズアップをした。スズネは後ろを向き、子どもの目線まで腰を落とし、肩に手を置いた。

「よし、お姉ちゃんと一緒に行こう。大丈夫、一緒なら怖くないよ。」

立ち上がったスズネは子どもに手を差し出す。子どもは頷きながら手を取り、スズネの隣に並んだ。

「行くよ。せーの・・・」

スズネは子どもと同時に一歩、タラップの一段目へと足を踏み出した。カンッと二つの金属音。スズネと子どもは顔を見合わせ、スズネは安心させるようにニコリと笑顔を作った。その後、二人並んだ状態で、「いち、に。いち、に。」と声を出しながらゆっくりとリズム良くタラップを降りていく。初老の軍人は、下で大丈夫かと様子を伺うが、何事も無くスズネと子どもはタラップを降りきり、初老の軍人の元へと辿り着いた。

「坊主、頑張ったな。君も有り難う。子どもの事まで頭に入ってなかったよ。」

礼を言う初老の軍人に、スズネは手を振りながら「いいえ、当然のことを下までです」首を振る。

「よし。では、二人目の人。無理せずゆっくりと!」

子どもの次はノブヒトの番だった。ノブヒトは、初老の軍人に言われた通り、慎重にタラップを降りていく。座りっぱなしだったからか、足の動きが少しぎこちない。何とか下まで降りていくと、ノブヒトはシャトルに向かって両手を振った。

「三人目。危ないと思ったら手を貸すので、遠慮なく言ってくれ。」

マコトは出入り口から首を出し、左右に外を見渡す。真っ白く、非常に広い倉庫の様な場所。上下を分ける様に足場が壁に足場が備えつけられており、さらに上り下りする為のリフトがある。上層に通路には大きな自動ドアが一つ。ドアの前は広場の様に開けた場所になっている。下層の方には至る所に何かの機材が置かれており、人や運搬用の重機等が忙しなく動き回っていた。タラップを慎重に降りつつ、マコトは自分達が居る場所をつぶさに観察していく。マコト達が乗っていたシャトルとは別型のシャトルが四機、並んで鎮座している。直ぐ隣には巨鳥を襲っていた航空機達が雑多に並べさせられていた。何機かは、見るも無残に装甲が剝がされており、数人の作業員らしき人が集まって何かを確認しているのが見える。足場のタラップを挟んで反対側を見ると、先程の騎士達が直立不動の状態で横一列に並んでいた。航空機達とは違い、‐右腕部や腹部に掠り傷がある、シャトルと接触した一体を除いて‐傷一つない状態。その内の一体に作業員たちが集まっていた。近くには小型の移動式クレーンが停まっている。腕と左肩に装着されていた箱は取り外されており、騎士の横にどかされていた。作業員たちは、右肩にクレーンのフックを取り付ける一斉に離れていく。同時にクレーンが上方に動くと騎士の右肩が取り外され、外された肩より一回り小さい肩が露わになった。脚も同じく作業員たちによって装甲が取り払われて、中から細い脚が出てきた。

「ここは・・・」

タラップを降りきったマコトは呟き再び周囲を見渡す。様々な機材、忙しなく動き回る人、別型のシャトル、無造作に並べられた航空機、装甲を取り払われている騎士達。

「格納庫・・・なのか。」

マコトはタラップから離れ、初老の軍人の元へ向かう。格納庫。しかもこんな広いスペースまで確保できるとは。救助にやってきた大型のシャトルや宇宙船でないことは確かだ。やはりここは。

‐間違いない、巨鳥の中だ‐

マコトの後にユウヤが続いてシャトルを降り、マコト達と合流する。

「何が気兼ねなくお気軽に、だ。軍人に声を掛けるなんで易々とできるわけがないだろう。」

ユウヤが‐わざと周囲に聞こえる様に‐ボソっと呟く。初老の軍人に聞こえていただろうが、彼は気に留める様子を見せず、次に降りてくる乗客の心配をしていた。他の乗員も慎重に次々と降りてきて、最後に沢渡が降りてきた所で全ての乗員が初老の軍人の元に集結していた。

「これで全員だな?」

初老の軍人が降りてきた乗員乗客を見渡した後、シャトルに向かって軽く手を挙げる。それを見た軍人たちも速足で次々とシャトルから降り、乗員乗客たちを取り囲んだ。何事かと一部の人は構える。初老の軍人は少し離れて乗員乗客たちに向き合い、口を開いた。

『ごめんなさい。待たせたかしら?』

初老の軍人の言葉を遮るように、突然、透き通った声が格納庫中に響き渡った。軍人たちは急いで上部の広い足場に向かって敬礼をする。マコトは周りを見ると作業員たちも同じ方向を向いて敬礼していた。

『待たせたのなら、本当に申し訳ないわね。巻き込んだ挙句、顔を出すのも遅いなんて。』

声は格納庫を反響し、あちこちから聞こえてくる。格納庫、上方の角に注目するとスピーカーと監視カメラが設置されており、声はそこから響いている様だ。ふと、自動ドアが開く音が聞こえる。そこから複数の足音。その中に一際重い足音と金属音が混ざっている。自動ドアが閉まる音と同時に、足音の主たちが自動ドア前の広場に姿を現した。

ドアから向かって右端に一人の長身の男。190㎝はあるだろうか、黒いロングコートを羽織っており、腰には日本刀を帯刀している。背中まであろう長い黒髪で、彫が深くも整った顔立ちをしているが、眼光が鋭く、素人でも取って分かるような殺気を放っている。左に少し離れた所には黒いスーツの青年。年齢はマコトたちよりも少し上だろうか。背丈はマコトよりも少し高い程度。短く切りそろえた髪に、浅黒い肌。精悍な顔には笑みが浮かんでいる。その青年の後ろでキョロキョロと周りの様子を伺っている挙動不審な男。猫背で髪はボサボサ、平凡な顔つきでどこか頼りない雰囲気を醸し出している。白いワイシャツによれた作業用ジャケットを羽織っており、さらに頼りなさが倍増している。そんな三人の後方には格納庫に一列に並んでいるのと同型であろう騎士が威圧感を発しながら直立している。肩にはギリシャ数字で[Ⅰ]と刻まれており、肩から下は外套で覆われている。他の騎士は白銀であるのとは違い、こちらの騎士は黒一色、まさに漆黒に染まっていて、頭部のスリットから朱い双眸がマコトたち乗員を睨みつけていた。個性的な三人と一体だが、そんな事がどうでもよくなるような存在が、三人と一体に守られる様な形で中心に静かに佇んでいる。マコトを含めた乗員全員が、その存在に目を奪われていた。

少女が二人。瓜二つの顔。双子だった。彫刻かと錯覚する程、綺麗に整った輪郭に、鼻筋のラインがすらりと美しい整った鼻。瑞々しく潤んだ紅い唇。大きな瞳は人を惹きつける澄んだ海を思わせる蒼、瞼からは長いまつ毛が一本一本はっきりと分かるように綺麗に伸びている。髪は絹の糸の様な長髪が腰まで流れており、片方が金色、もう片方が銀色に輝いていた。陶器の様な白い肌、だが、金色の髪の少女より銀色の髪の少女は病気なのか少し青白く、儚げな印象を与える。二人共細身でモデルかと思わせる様な体型で、白いワンピースの様なドレスを着ており、袖やスカートからは爪の先まで美しい手足が伸びている。纏っている空気まで違っており、神々しささえも感じてしまい、集団の中でもこの二人の周りだけ別な空間になっていた。スズネが健康、ハルカが妖艶とするならば、彼女たちは一種の芸術品であろう。

あまりの美しさに、体躯では目立つであろう二人の後ろに立っている漆黒の騎士が霞んで見える。金色と銀色の少女に、シャトル乗員たちは魔法にでもかかったかの如く、誰も声を出さずに見惚れていた。乗員、軍人、作業員、数多の視線が集中している中、金色の髪の少女は微笑を浮かべ、集団の中心から一歩前に、シャトルの乗員たちに向かって両手を大きく広げる。

「ようこそ!私の艦、「ストレリチア」へ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る