第18話 エルフ無双したいけどアフター・学園に入っても矯正は難しい件

 実技試験が行われた後。

 入学者たちは、講堂として使われている広い建物へ移動していた。


 そこで待つこと、しばらく。

 事前に聞いていた通り、即日に行われるクラス分け。

 それは口頭ではなく、壁一面に結果として貼り出されてる。


 その中にセージの名は無い。

 しかし、もちろん不合格というわけでもない。

 単に、国王の許可という名の職権乱用しょっけんらんようの成果であった。


 そして、その当人は現在、悩んでいた。

『どうしよう。これ、入学してコミュニケーションをはかっても、解決のビジョンが浮かばない』


 問題に対して、取りつく島が無さすぎる。

 ある意味、エルフ以上の話の通じなさを感じているのだった。


 考えた結果、迂遠うえんな方法は無理だと判断し──


「なあ、女子数人に囲まれてるそこの二人。そうそう、ジーノくんとベガマインくん。ちょっと話したいことがあってさ。周りの女性も一緒でいいから、昼飯でも一緒にどう? よかったら俺、おごるよ?」


「んん? なんだ、アンタ? そりゃ──奢ってくれるってんなら飯は喜んでいくけど。アンタ、試験の時にいたか?」


「ほう、昼食を。──ん!? 君のその魔力…………。ふふ、これは面白いな」


 直接交渉でうったえることにしたのだった。


 たくらみは成功し、取り巻きも含め、二人を昼食へと誘い込む。

 ちなみに、ぶっきらぼうに返事をしたのがジーノ。

 なぜか意味深に返事をした方がベガマインである。



 モルガム魔法学園の食堂。

 将来のエリート育成をになう学園なだけあり、その施設は充実している。


 利用する生徒の需要が反映され、学生食堂などは──

 片や、貴族御用達ごようたしともいえる豪奢ごうしゃな施設。

 それから、平民が気軽に利用できる大衆食堂風の施設。

 その二か所が設置されていた。


 特に身分による利用制限はもうけられていない。

 利用料金さえ支払えるなら、どちらを利用しても良いことになっている。


 だが、誰かがルールを定めたわけでもないに関わらず、場の雰囲気は全然違う。


 例を一つとれば、ドレスコードなどは存在しない。

 それにも関わらず、先に挙げた貴族が利用することの多い施設。

 こちらなどは、自然とキチンとした格好の人間が多かった。


 とはいえ、基本的に学生は制服を着用している。

 キチンととは言ってもそれは特に大げさな話ではない。

 単に制服を着崩きくずしたりせず、パリッと着ているだけの話だ。


 許可さえ取ればセージのように私服の着用も可能である。

 が、そんな奇特な人間の数は少ないのだった。


 そして今回は豪華な方の施設を──事情を説明し、その一角を借り切っている。

 ジーノとベガマインの周りにいた女性の内。

 ついて来たのは意外にも、それぞれ一名ずつだった。


「駆け引きなし、単刀直入に言わせてもらおう。実は二人のことについて、国王様から頼まれててな。ジーノくんは力の制御と、行動の無軌道さを。例えば人に対しての過剰防衛だったり、無事だったとはいえ──ギルド無許可状態での災害生物の無断討伐を行ったり。ベガマインくんは……特にコレという型には当てはめにくいんだが──いて言うなら、何をするか読めない破天荒な行動かな。何も、二人とも悪人として検挙けんきょしようってわけじゃないんだが、どうにも一回ごとの問題の規模が大きいもんで。せめて、常識を逸脱いつだつしない程度に収めてほしいって要望が出た次第だ。とりあえず、意見や弁明があるなら聞かせてほしい」


 食後のデザートとお茶の段になって早々。

 セージは話を一気に切り出した。


「ん~……。それは、レイン──ああ、俺の隣に座ってるヤツな。コイツからよく注意はされてるぜ。でもなあ……異世界がどうとか言っても、空想だって取り合ってもらえないんだよな」


「私も彼と同意見だ。転生や前世と言っても、それ自体が非常識らしくてね。毎度、説明に苦慮くりょしているんだよ」


「ああ、そういう感じの事情か。奇遇だが、それなら両方とも心当たりがある。それぞれの身の上を聞いても?」


「まぁ……マトモに聞いてもらえるってんなら。俺はさ、元々はここじゃない地球ってところに住んでたんだけど……。そこで死んで、こっちの世界に生まれ変わったんだ。んで、その時に転生特典だとかで、神様を名乗る存在から【チート】をもらったってワケ」


「私は彼とは少々事情が異なるな。およそ500年前、その当時は賢者として名をせていたんだが──ジョブの関係で能力の上昇が頭打あたまうちになってしまってね。それと同時に研究も行き詰まってしまい……転生魔法というのをみ出して、さらに高みを目指すべく今の時代に生まれ変わったんだよ」


 チートという単語を聞いて、彼はふと友人のキサラギを連想する。

 が、『比べるのも二人に失礼な話だよな』と思い直す。

 かぶりを振って、頭からそれを追いやるのだった。


「えーっとだな。まず俺の祖先がジーノくんと同じ世界からの召喚された人間。それと、今は中身が抜けちゃってるけど──この小刀、元は【聖剣マサユキ】っていうんだけど。人間から生まれ変わった存在だそうだ」


「なっ!? 俺と同じ世界出身!? マジか、初めて聞いたぜ!」


「ふむ……。無機物に転生なんてのもあるのか。それでも意識が宿る余地が──いや、実に興味深い」


「んで、それはいいとしてだ。ぶっちゃけ、二人とも力をおさえるなり自重じちょうって出来る?」


「えぇ……? 自重? それならもうしてるし。やりすぎちゃうこともあるけど、そん時ゃレインから怒られるし別に問題ないんじゃね? 大体、悪さをしてるワケでもねーのに、そこまで縛られる義理はねえな!」


「私はそうだな、研究室さえあれば必然そうなるかな。室内にこもりっきりになるから、おのずとそちらの要望は満たされると思うよ」


「なるほどなー……。オッケーオーケー、了解だ」


 二人からそれぞれ発される答え。

 それに対し、セージは軽薄けいはくともいえる様子で了承する。


「え? そんだけ? えらく軽い感じだけどいいのか? てっきり無理やり力で押さえつけてくるもんだと思ってたから、ひそかに迎撃準備をしてたんだが」


「なんでだよ。えらく好戦的だな。エルフかよ君。俺が戦闘職じゃないのを差し引いても、短絡的すぎるだろ」


 ジーノは一戦やりあうとでも思っていたのか、拍子抜けしていた。

 それと同時に『なんでエルフ……?』と首をひねっている。


「私は争う気などないよ。君なら便宜べんぎはかってくれそうだし、従おう」


「おお、そっちは話が早くて助かるわ。俺の権限が及ぶ範囲に限るけど、なるべく悪いようにしないことを約束する」


 ベガマインは、いつのまにやらセージを認めてたらしく、大人しく頷く。


 それに対し、周りにいる女性もそれぞれの思いを口にする。


「我が王よ、それでよろしいのですか?」

「勅令でもって、お命じくだされば──エルフ総力でもって即座にくだしてみせますが」


 物騒なセリフを口にするのは、もちろんエルフのエセ双子。


「もうっ! やっぱりジーノったら私がいないとダメね! いいわ! 私がジーノの手綱たづなを握ってみせるからっ」


 憤然ふんぜんとしつつも嬉しそうにしているのは、レインと呼ばれた女性。

 口ではそう言いつつ、元来が世話焼きな性格なのかもしれない。


「私はベガマインさんに、どこまでも付いていきます! 憧れの最強賢者の関係者の方に関われるだけで幸せです!」


 最後に、名乗りも紹介もされていない、ベガマインにつきまとっている女性。

 彼から拒否されてもいないので、特に問題ないのだろう。


「それじゃあ、今回はこれでお開きってことで。二人とも、急に付き合わせて悪かったな」


 その言葉を締めの合図として、場は解散となった。



 後日。


『これ以上、魔法学園に長居ながいしてもしょうがないようです。要項はコレに書いてありますので、俺はこれで帰らせていただきますね』


 その言葉とともに、セージは国王にレポートを提出する。


 そのレポートには二人の評価と、今後の境遇に対する彼の見解が記されていた。


『ジーノ。異世界からの召喚者に近い存在。神様から【チート】を貰ったと言ってはいるが、例えるならば、強力な力を持て余してるだけの、ただのガキ。魔法学園への入学許可も即刻、取り消すべき。言葉での説得など通じず、論外である。倫理りんり観と世界の常識を教え込みたいなら、国家の力をもちいるのが最適。個人的な意見としては、軍隊方式の上下関係でもって矯正きょうせいするか、幼年学校からやり直させて価値観を正すべし』


 そのジーノ項目の追記として──


『ついでにエルフと彼の差異を記す。彼女らは常識をわかった上での、あの行動である。今のところは最低限のラインで言うことを聞いてくれている。まだ使用してはいないが、一応、言うことを無理やり聞かせるための切り札も保持済み。ジーノはそもそも、常識自体が無いのでタガという概念が存在しない』


 そんなメモが添えてあったのだった。


 そして。


『ベガマイン。力はあるが、ジーノとは違い、持て余してるというわけではない。城壁破壊の件も、よくよく聞けばほぼ事故とのこと。例えるならば、偏屈へんくつな学者に近い。話は通じ、言外での交渉も込みで説得済み。要点だけ記すなら、専用の研究室さえ与えておけば大方は問題なし。ただし、念のために監視員の付随ふずいを推奨。様子見と国への論文提出を対価とすれば、一石二鳥の可能性もある』


 それに目を通した国王は──


「ううむ、なるほど。さすが勇者様というべきか──こちらの予想を遥かに上回る成果をあげてくださった……」


 密かに、これからもセージを頼りにしようと決意する。


 似ているようで違う、二人の問題児。

 異質さという意味だけ切り取れば同じである。

 しかしセージの進言により──その境遇は、天地の差がついてしまったのだった。


 特に、『世の中をナメている』と断じられたジーノのその後。

 そこに関しては『言わぬが花』である。

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