第13話 エルフ、道中は無双アフター・更新の季節

「我が王よ、そろそろ時期です」

「ええ、じきに満期を迎えようとしています」


 エルフは唐突に切り出した。

 これで三回目である。

 相も変わらず主語が無い。


「満期? 時期もなにも、キサラギさんのお陰で作物はすでに満期。収穫期がエラいことになってるからなあ。でもそうだな、今日も収穫と手入れ──頑張るか!」


 ウキウキしながら準備を始めようとするセージ。

 いつの時代も、収穫時というのはこころおどるものだ。

 セージの農地はキサラギの手により、今や大豊作時代を迎えていた。


「ですから畑のことではありません!!」

「アイナ、以前にも言ったではないですか。王にとっては──【世間など畑に等しい】のだと」


「ふぅ、わかったわかった。話、ちゃんと聞くから。で、今回は何したいっての? もう先に言っておくけど、権力と領地の強奪はせんよ?」


「いえ、そういった話ではなく。以前申し上げたエルフと人間の不可侵条約」

「その条約更新の時期が迫っているのです。よって、我々が王都へ行かなければ条約が自動撤廃に」


「……は? 人類国家の一大事じゃないか!! え、それって俺も行かなきゃなんないの? ぼちぼち畑仕事なんかのスローライフに落ち着きたいんだけど……」


「王よ。そろそろエルフの君主たる自覚をお持ちください」

「今や、セージ様がいらっしゃらなければ国単位の約束など始まらないのです」


「えー……。でもさ、今までは俺抜きで条約締結してたじゃん?」


「これまでは長老が仕方なしに王の名代みょうだいをしていたのです」

「名実ともに王を迎えた今、セージ様の御裁可ごさいかあおがねば、元老院げんろういんから苦情が出ます」


「あのさ、長老の時もそうだったけど。【元老院】とかいう重要そうなワード、小出しにするのやめない? またしてもそれ、初耳だよ? あ、そうだ。ここは王らしく『よきにはからえ』っていうのはどう? そうすれば俺、このまま家でスローライフできるし」


「それは──王の意向であれば無論、かまいません」

「間違いなく曲解した元老院が、王のために人間の街へと制圧に乗り出すことになりますが……」


「ああもう分かったよ! 行くよ!! 行けばいいんだろ!? お前ら、事あるごとに主君をおどすなよ!!!!」


 こうしてセージは再び王都ヴェルフラードの地を踏むことになる。

 もちろん渋々しぶしぶである。


「王よ、では前回のようにリラックス効果のあるエルフハーブと」

「道中を快適にお過ごしいただくための神輿みこしを──」


「いらんわ!!!!」


 ◇


 そして場所は王都ヴェルフラード。

 神輿はセージが一蹴いっしゅうしたので、三人は徒歩できていた。

 サスケは相変わらずお留守番。


「なあ、二人とも。ちょっと気になることがあったんだけど」


「気になることですか?」

「今回は特に何事もなく王都に着いたと思いますが……」


「途中で何回か、魔物が出ただろ? 二人が倒したやつね」


「はあ」

「もしや、何か不手際ふてぎわでも?」


「いや、そういうのじゃないんだけど……なんていうんだろう。【メガアメーバ】とか【ホブゴブリン】とかさ。なぜか喋る魔物、いたじゃん?」


「いましたね」

「魔物のクセに我らが王に直言するとは。万死ばんしでも物足りませんよね」


「違うから、別に魔物の非礼をとがめたいわけじゃないから。そうじゃなく、ソイツらの主張が妙に気になってて……。ほら、『自分は前世で人間だったんだ! 魔物に転生しちゃっただけなんだよ!』とか。【トラック】だとか【過労死】とか、そこは意味がわからんかったけども」


 基本、この世界に前世や転生という概念は存在しない。

 その理由は今は語らないが、生前行った行為により、その後は天国か地獄の二択とされている。


 セージも未だに、おぼろげにしかその意味は掴めていなかった。


「いつの世も、魔物なんて意味不明なものかと」

「本能のみで生きている、所詮は狩られる存在ですので」


「だよな、今まではそうだったんだけどなあ……。聖剣マサユキのこともあるし、あの【メガアメーバ】や【ホブゴブリン】なんかも、実は元人間だったのかなって。我ながら荒唐無稽こうとうむけいな話だとは思うが……。だとしたら、もうちょっと対話しても良かったんじゃないかと」


「なるほど。それで感傷的になっておいでなのですね」

「ですが王よ。仮にそうだとしても、倒すしかないのでは?」


「というと?」


「いえ。元がなんであれ、現在は魔物ですし」

「逆に理性があるぶん厄介と申しますか。仮に魔物を統率して一国でもおこされたら面倒な事になりますよ? もしスタンピードでも発生させられようものなら──エルフではなく魔物に人類国家が滅ぼされるかもしれません」


「むぅ、そう言われてみると…………。それもそうだな! 仮に『人類と共存できる』なんて言ってきたとしても、らんリスクを取る必要はないって話だわ! 二人とも、余計なことで足を止めて悪かった。さ、国王様のところへ謁見えっけんしに参ろうか」


「悪いだなんて、そんな」

「王から意見を求められるだけで我ら、感無量です」


 三人はスッキリしたさわやかな気分で登城するのだった。


 ◇


「勇者様! それにアイナリンド様にエルフィロス様も! ようこそおいでくださいました!」


「国王様、ご無沙汰──でもないですね。まさか、こんな短期間に王城に来ることになるとは……」


「なんの、いつでもいらしてください。勇者様でしたらフリーパスで、いつでも歓迎いたします」


「いえ、俺のことはお構いなく。エルフが暴走しないためのお目付け役みたいなものですので……」


「相変わらず、謙虚でいらっしゃる」


「ヴァンデリア王よ」

「セージ様に対するその態度、まことに天晴あっぱれ」


「恐縮です。この後はうたげもよおす用意をしておりまして。存分に楽しんでいただく予定なのですが……その前に、そのう……」


「ああ、不可侵条約の締結ですね? ご安心ください。俺の目が黒いうちは最善を尽くすことを約束します。……完全に制御しきる自信はないですけど」


「あ、ありがとうございます! これで国家運営の心労が三分の二は減ります! 最後、少し不穏なつぶやきが聞こえた気もいたしましたが」


「さ、三分の二!? エルフってどれだけ人類の負担になってるんだよ……。あ、しまった。アイナにエルフィ、勝手に条約締結の約束をしちゃう形になっちゃったけど、大丈夫?」


御心みこころのままに」

「我が王の御随意ごずいいになさってください。署名もセージ様のサインで大丈夫です」


「らしいです。エルフの気が変わらない内に、ササっと締結しちゃいましょう」


「うっうっ、勇者様、本当にありがとうございます」


「そんな、なにも泣かなくとも……」


 心の底から国王に同情するセージだった。

 そして条約はシンプルに、かつ速やかに締結される。



 それから場はすぐに宴へと突入。

 その宴は立食形式。

 先ほどの緊張感はすでに消え、各々おのおのがパーティを楽しんでいる。


「まったく、勇者様の出現が、国王人生において一番の幸運ですよ」


「ははは、国王様もそんな冗談をおっしゃるんですねえ」


 アルコールも解禁され、ほろ酔い状態のセージとヴァンデリア王。

 理性が飛ぶほど飲んでいるわけでもなく、なごやかに話している。

 二人はすでにマブダチのようになっていた。


「ん? エルフの二人は飲まないの?」


「はい、おおやけの場では遠慮します」

「万が一トラブルがあった場合、対処せねばなりませんので」


「そっかぁ。そういうところ生真面目きまじめだよな。それじゃあ帰ったら俺がかもしたやつ、飲ませてやるからな?」


 国によっては個人の酒造は密造酒となるので、注意しなくてはならない。

 ヴァンデリア王国では条件付きで個人の酒造は許されていた。


「ほ、本当ですか!?」

「ああ! なんという幸甚こうじん!」


「あ、グラスからになっちゃった。国王様もけちゃいましたね」


「!!」

「私たち、取って参ります!!」


 ここぞとばかりに張り切るエルフ二人。


 と、そこで──


「国王陛下、ご覧ください! ……あれ? パーティ中でしたか。これは失礼しました、私は出直して──」


 フード付きの服装の、場違いな女性が国王へと話しかけていた。


「おや、その手にあるのは──ワインですね? ちょうどいいところに。いただきますね」

「アイナ、空きグラスならすでに確保しています。我らが王におしゃくをしましょう」


 エルフならではの早業はやわざ

 アイナは持ち主への断りもそこそこに、女性の手から瓶を取る。


 そしてそれを二つ分のグラスに注ぎ。

 サッと毒見まで済ませてしまい。

 そのまま流れるようにセージの手へと渡す。


 が、グラス二つはさすがに手に余る。

 そのうち一つはヴァンデリア王の手へと渡ったのだった。


「………………?? えっ!? それは! ちょっ!?」


 まさか瓶を取られるとは思っていなかった女性。

 困惑の末、遅まきながら、ようやく制止の声を上げたが。

 すでにその時、グラスを受け取ったセージとヴァンデリア王は一口、二口と液体を口にしていた────

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