第12話 エルフ怒られアフター・農林大臣候補、そして哀愁の墓標

「なんだかんだ、けっこう家を空けた気がするなー。サスケ、元気かな」


「徒歩だと往復で、そこそこかかりますからね。【エルフ便】を使えば早いのですが」

「あの畜生──じゃない、サスケでしたら大丈夫ですよ。デスフェンリルといえば驚異の生命力で有名ですし」


 事件を解決し、家に帰ってきたセージ一行。

 討伐は早かったが、事後処理に少し時間を取られていた。


 まず、自称勇者の少女はギルドで保護。

 聞くと、召喚された異世界人とのことだった。

 とはいえ、さすがに無罪というわけにはいかない。

 現在は常識と倫理の教育を受けさせ、迷惑をかけた街の人への弁済べんさいいそしんでいる。


 外を警戒していたという仲間とやらは、そのまま失踪しっそうしていた。


 一通ひととおり面倒を見たあと、後の沙汰さたと経過観察はギルドへ委託。


 中身の抜けた聖剣・マサユキをたずさえて帰途についたのだった。


 ◇


「ばうわふっ!」


「サスケぇ! よしよし、また大きくなったんじゃないか?」


「王の寵愛ちょうあいは……エルフだけでいいですのに……」

「アイナ、期を待つのです……」


 ほぞむ思いで悔しがるエルフ二人。


 その様子に気づかず、セージは自分の農地をチェックしに行く。


「さすがに雑草は生えてるよなあ。ここって雨は適度に降るから渇水はないと思いたい。どれどれ、我が愛しの作物たちは──なんぞこれ!?」


 そこには、季節でもないのに豊作になっているという、狂った風景が展開されていた。


「あっ、セージさん。お帰りなさい。おつとめ、お疲れ様っス!」


 思いもよらない光景に驚愕するセージ。

 そして、ノホホンとねぎらいの言葉をかけるキサラギ。


「キサラギさん!? これ、一体──なにごと!?」


「いやあ、今回はセージさん、お国のために働きに行ってくるって聞いたもんで。少しでも何かお役に立てないかと思って。せめて留守中、農地の手入れでもと。害獣はサスケくんが撃退してくれてたんで、楽でしたっスよ?」


「マジか……農業スキルがエグいとはエルフから聞いたけど、ここまでなのか……。キサラギさんハンパねえな!?」


「あはは、大げさっスよ」


「いやいや……。というか先にお礼を言わなきゃですね。本当、ありがとうございます。またお礼に、生活魔法でかもした発酵はっこう食品をお持ちしますね」


「やったっ! セージさんの作る味噌に醤油に納豆にお酒……あれ、最高なんスよね!」


「ミソにショウユ──発酵食品!?」

「それは! セイヤ様が創り出し、時のエルフのみが食せたという伝説の!?」


「今度は何なの? 君ら。落ち着けよ」


「これは落ち着いてなどいられません!!」

「発酵食品といえばエルフ羨望せんぼうまと! セイヤ様の時代に生きたエルフが、これでもかってくらい自慢してる逸品いっぴんですよ!?」


「なに言ってんの……? 二人とも、すでに食ってるだろ?」


「「え?」」


「マジで気づいてないのか。例えば……ほら、食卓に出してる味噌汁。あれ、名前の通り味噌が材料なんだけど」


「そんな!? 異常に美味しいから、エルフのリラックスハーブに準じた素材が使われてると思ったら!」

「よもや、すでに伝説を食していたとは……!」


「エルフのハーブって……。ああ、あの王都に連れていかれた時の──おい! お前ら人の料理を違法っぽい食材で作られてるのかと思ってたのかよ!!」


「ち、違います! 覇気はき──そう、覇気です!!」

「王が発する覇気により、料理が異常に美味しいという意味です!!」


「今さらソレは無理があるだろ!? 大体、覇気で料理が美味くなるってなんだよ!! 料理っていうのは、しかるべき材料と手順で美味くなるんだよ!! というか、せめて覇気じゃなく愛情って言えよ!!」


「すいませんすいません!」

「土下座しますのでどうかお許しを!」


「はぁ、いいよもう。第一、土下座ってエルフ的にはご褒美だし。……あ。そういえば、エルフって【森の民】。ということは、普段は森の木の実なんかを……。なんか、スマン」


「王よ!? それは誤解です!! その同情はやめてください!!」

「木の実って! それではまるで、エルフが未開の蛮族みたいではないですか!!」


「そうだな、未開人は言い過ぎたか。悪かったよ。蛮族に関しては俺、普段から声を大にして言ってるよな?」


「お三方さんかたとも、仲良しっすねえ。じゃあ、こちらはそろそろ、おいとまするっスね? そういえば、そちらの美人さんお二人はセージさんの奥さんになるんスか?」


 ここまで放置されていたキサラギだが、気分を害した様子は全くない。


「「!?」」


「あっ。キサラギさん、それは」


「【農業チーター】・キサラギよ」

「その献身と貢献度を買い──特別に農林大臣へ推薦しましょう」


「あはは、それは光栄っスね。それじゃあ、大臣としてまたお野菜でも持ってくるんで、今日は失礼するっス」


 そう言って、キサラギはニコやかに去っていった。

 エルフコンビは非常に満足そうな顔をしている。


「まさか、偏屈へんくつなエルフに認められるとは……農業スキルよりそっちの方が凄いな。キサラギさん、恐るべし」


「王よ、あの者はなかなか分かっているようです」

「ええ、重用ちょうようする価値ありと判断しました」


「君ら、美人と奥さんってワードが嬉しかっただけだろ? あ、そうだ」


「いえ、そんな浅はかな理由ではなく総合的な見地から──」

「? どうなさいました?」


「君らにさ、聖剣マサユキを預けたろ? なんか、エルフで預かりたいとか言って。本体の宝石は俺が持ってるけど、帰り着いたし返してもらおうかなと」


「それは、確かにお預かりしておりますが」

何事なにごとかにお使いになるのですか?」


「いやいや、使うわけじゃないよ。ほら、マサユキってさ、ちょっと可哀そうだったろ? せめて──供養塚くようづかでも作って、とむらってやろうと思ってさ……」


「「!?」」


「ん? なんで二人ともそんな驚いてんの?」


 さすがに驚く理由がわからないセージ。

『なんか、疑問なところあるかな……?』

 そう思い、クエスチョンマークを浮かべる。


 と、そこで一人の男性エルフが凄いスピードで駆け寄ってきた。


「あっ姫様方! 勇者様も! タイミングよく追いつけたようです!」


「おや? 確か、エルフの里の門番の……スーリオンさん」


「おお! 勇者様に名前を覚えていただけるなんて光栄です!!」


「すすす、スーリオン!!」

「今はマズいです! いったん出直してください!!」


「えっ? しかし」


「二人は無視していいよ。そんなに急いで来てくれたってことは、それなりの用事なんじゃないの?」


「はぁ……では、これを」


 そう言って、スーリオンはいくつかの布に包まれた物体を差し出した。


「?? これは?」


「あれ、姫様方からお聞きになってないですか? 聖剣もどきを鋳潰いつぶして、出刃包丁でばぼうちょうや鎌なんかの農具に打ち直した物なんですけど……」


「あっあっ!!」

「ちちち違うんです!!」


 エセ双子は冷や汗をダラダラ流していた。


「マ──マサユキィイイイイ!?」


 そして、辺りには勇者の慟哭どうこくが響き渡る。


 その後、聖剣マサユキの供養塚は予定通り作られ、そこにはコアである宝石が納められた。


『聖剣マサユキここに眠る』


 石に彫られた文字を見ながらセージは手を合わせる。


 ちなみに聖剣を流用した刃物類は素晴らしい切れ味を誇っていた。


 後日。


 墓標の文字から、『聖剣』の部分が削られているのをセージは発見する。


「お前らっ!! いい加減にしろよ!?」


「さっ、さすがに私たちではないですよ!!」

「野良エルフの仕業しわざです!!」


 冤罪えんざいをふっかけられるも、あまり同情が入り込む余地のない二人。

 日頃の行いというものは大事にしなくてはならない。


 なお、この一件がエルフの書に記されることはなかった。


 不都合な真実として黙して語られず──歴史の闇に葬られたのだ。

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