第三十三話 クロノ中佐

 スリカ少佐との距離は、およそ10メートル。

 十分射程範囲内だ。


「今度は私が攻撃をする番だ」


 大地を力強く蹴り、瞬間移動のように一瞬で距離を縮めた。


「早い!? だが!」

 

 が、スリカ少佐の反応も早く、私が近づいてきてすぐ、持っていた剣を平らにして、アンダースローの動きで横から斬ってきた。


「今度こそ終わりだ!」


「お前がな」


 剣が私の皮膚に触れるより早く、私のデコピンが、スリカ少佐の可愛らしいおでこに炸裂した。


 パパパパッ――。


「なんだこれは!?」


「ははは! 残念。バリアだ」

 

 ガラスのような、目に見えないバリアが何枚も割れた。

 が、スリカ少佐は無傷だ。

 バリアか。なら今度は威力を抑えずに――。


「もう一発」


 手加減せずに、スリカ少佐を殺すつもりで、デコピンを放つ。


 パパパパパパパパパパパパパパパパパパッ――。


 何十個もの見えないバリアを一気に砕いていった。

 そして――。


 ――パパパパパパリンッ!


「馬鹿な!? ダイヤと同じ硬度のバリアが――うぎゃっ!」


 バリアが全部消滅し、デコピンの衝撃でスリカ少佐の小さな体が吹っ飛び、その先にいたシーナ大佐に捕まえられる。


「うう〜…………」


 スリカ少佐はくるくると目を回して、気絶していた。


「よかった。殺してはいない、か」

 

 私はスリカ少佐が死んでいない事に、胸を撫で下ろしていた。

 その一方で、目を回して気を失うスリカ少佐を猫のように持ちながら、シーナ大佐が――。


「ぷっ――くっははは、こいつはいいぞ、傑作じゃないかスリカ!」


 よほど可笑しかったのか、しばらくの間お腹を抱えながら笑い。落ち着いた所で、思い出したように私へと声をかけてきた。


「スリカがこれじゃあ、負けたも同然だ。

 よってこの勝負、余の独断で、クロノの勝利とする!」

 

 数十分後。


 目を覚ましたスリカ少佐の転移で、私達は再びシーナ大佐の部屋にいた。

 おでこに湿布を貼り、目が覚めてからずっと拗ねているスリカ少佐を横目に、シーナ大佐が、机の引き出しからリボンの付いた勲章を出し、私の胸に付けた。


「おめでとう。

 今日からクロノ。お前を『中佐』に任命する」


「ありがとう」


 人から物を貰うなんてウルカ以外ないので、なんだか嬉しい気持ちが込み上げ、勲章を触りながら、私は素直にお礼を言う。


「ふん、すぐ自分がその勲章を奪ってやる」


「そんなことを言っていいのかスリカ。もうクロノはお前の上官だぞ」


 シーナ大佐の一言で、スリカ少佐の全身にぶわっと汗が吹き出し、ギギギとぎこちない動きで私に敬礼してきた。


「……奪ってやります。クロノ……中佐」


 身長差のせいで、上目遣いになりながら敬礼するスリカ少佐の姿は、とても可愛いかった。

 私はつい、無意識に頭を撫でながら、一言。


「いいぞ、いつでも奪ってみせろ。スリカ少佐」


「ぐっ、ぐぬぬぬぬ……」


 恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして悔しがるスリカ少佐。

 その姿もとても可愛い。ますます撫で撫でを激しくしていく――。

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