Sample : 09『猛る銃口』

Sample:09「猛る銃口」

~組織・人物紹介~



【真実也 基 (まみや はじめ) 巡査】

警視庁公安部 暴人課 特殊対策班の新米警官。A型。血液型占いはあまり信じないが、不吉なことを言われると気にする。


【蛭間 要(ひるま かなめ)警部補】

蛭間特殊対策班 班長。物腰柔らかだが掴みどころのない性格。O型。占いはあまり興味がないが、オカルトには興味津々。


【花園みちる(はなぞの みちる)巡査】

蛭間特殊対策班 新米警官。B型。毎朝星座占いをチェックしている。


─────────────────────────────




【蛭間特殊対策班 真実也 基 巡査(非)】


『体力、身体能力、学力共に優秀。適性検査において精神面の脆弱性が危惧されたが、短期間で“解放”の克服を果たす。情緒の乱れはあるものの、攻撃性は見られない。


引き続き、非潜伏者である彼の指導と監視を続ける。


班長 蛭間 要 警部補』




 すでに判が押された報告書を手にする蛭間要は、後ろに重ねてあったもう一枚の報告書を手前に重ね合わせた。



【蛭間特殊対策班 花園 みちる 巡査(非)】


名前の欄の左側に視線を移せば、可愛らしく口角を上げて映る花園みちるの顔写真が目に入る。


「ちょっと、誰?私のチーク、朱肉と一緒にしまったの」

「君の私物が僕の机に散らばっていたから、しまったんだ」

「うわ、やっぱハジメちゃんだ」

「仕事をするデスクに化粧道具があるなんて、思わなかったんだ!それに誰が見たって朱肉だと思うし」

「似てるけどさ!でも違うじゃん!ちゃんとほら、見てよっ」

「これが……チークか?」

「そっち朱肉!もうーっ」

「まぁまぁ、お二人とも」


 蛭間特殊対策班オフィス。日課のように始まった真実也とみちるの小競り合いを、いつものようにミフネが宥める。蛭間は顎に手を添えてから、報告書を机に置いて顔を上げた。



『BLACK OUT~蛭間特殊対策班~』


Sample:09

『猛る銃口』



「ちるちるは、私物を使ったらポーチや引き出しにしまう癖をつけること。真実也君は、他人のものと分かっているものは無闇にしまわず、持ち主を確認すること。そうすれば少しはトラブルを防げるでしょう。いいですか」


 真実也とみちるは互いに視線だけ合わせると、不服そうにしつつも蛭間に視線を戻した。


「はぁい……」

「分かりました……」

「分かればよろしい」


 大人しく座り直した真実也、みちるに微笑みかけると、蛭間は8時40分を指した壁掛け時計に目をやった。


「それでは、定刻なのでミーティングを始めましょうか」


 蛭間がそう言いオフィス全体を見渡せば、両腕に駄菓子を抱えたノトがデスクに戻ってきた。壁際に設置されている『ノト特任警部専用お菓子BOX』を物色していたノトは、デスクに菓子を広げて椅子に座ると菓子の封を開け、貪り始める。その一部始終に目を向けていた真実也を二本指で差しながら、蛭間は目を細める。


「真実也君、今日は何の日か覚えていますか?」

「えっ」


 名前を呼ばれ肩を跳ねさせた真実也は返事をすると、急いで蛭間に向き直り姿勢を正した。数秒目を泳がせた後、思い出したように口を開く。


「『非潜伏者適性検査』の日、ですか」

「非潜伏者……適性検査?」


 後方から声を上げたみちるに、真実也は振り向いた。みちるは首を傾げながら真実也の言葉を繰り返す。真実也は驚きながら、手元の資料をみちるに見せて言った。


「一週間前に資料が配られただろう」

「え〜、そうだっけ」

「はぁ……」

「真実也君、ちるちるに資料を見せてあげてください。説明をしましょう」


 立ち上がった蛭間は、デスクにしまっていたポスターをホワイトボードに貼った。『非潜伏者募集中』と大きく書かれた、警視庁の求人ポスターである。


「非潜伏者適性検査は、数年前特殊対策班に新設されたものです。ある事件をきっかけに、特殊対策班が警官の新規採用者を非潜伏者に絞るようになったことから始まりました」

「“ある事件”って?」


 頬杖をつきながらそう聞き返したみちるに答えるように、真実也はデスク上の資料をみちるに見えるように滑らせながら言った。


「『警官暴人化殺人事件』……一人の男性警官が暴人化し、同行していた警官2名が市民を庇い即死。残り二人の警官が、負傷しながらも暴人である男性警官を射殺した……有名な事件だ」

「真実也君の言う通り」


 蛭間は顔を僅かに上げると、金色の瞳を真実也に向けてにこりと微笑んだ。


「まぁ、そういった理由を経て、今年の特殊対策班での新規採用者は全員非潜伏者に絞られました。真実也君やちるちるだけでなく、君たちの同期に当たる特殊対策班員は、皆さん生まれながらにM細胞を体内に持たない非潜伏者なのです」

「へぇ。だったら尚更、検査なんてする必要無くない?」

「ええ、そう思うでしょう」


 みちるはきょとんと目を瞬かせた。蛭間は顔の前で組んでいた手を解き、ミフネと視線を合わせる。ミフネは既に伸びている背筋をさらにピンと張ると、胸の前に手を添えて口を開いた。


「皆さんのような非潜伏者は、体の中にM細胞を持たずに生まれてきた……言わば特異体質です。M細胞──別名『潜伏性狂気細胞』は暴人化を引き起こす元凶として恐れられていますが、この細胞が体内に全く無い場合もまた、問題があるのです。生まれつきや発達の段階で身体機能に何かしらの障害が生じたり、潜伏者に比べて能力値に極度なばらつきがあることが確認されているのです」

「うーん?」


 まだ理解しきれていないみちるの様子に、ミフネは続けた。


「そうですねぇ……人により様々ですが。芸術家やスポーツ選手、世界的権威のある学者には非潜伏者の割合が高いとされています。『非潜伏者は天才肌』そんな言葉をよく耳にしますよね。非潜伏者の多くは、基本的に苦手なことが多い反面、ある一つのことに関しては能力がずば抜けて優れていることが多いとされています」

「えっと〜。つまり、適性検査はその得意不得意を調べるってこと?」

「あ、えっと、そうですね……まぁ」


 みちるの質問に、ミフネは眉を八の字にして言葉を濁した。隣で菓子を貪っているノトは適当に頷いている。真実也はちらちらと蛭間の方に視線を送る彼の様子を不思議に思いながら見ていると、班長デスクに座っていた蛭間はいつもの笑顔を浮かべて言った。


「非潜伏者適性検査では、あなた達が特殊対策班として適切な能力を持った人材であるかどうかを検査します。配属前にあなた達が行った適性検査よりもずっと本格的で大掛かり、実践的なものになるでしょう」


 蛭間は手にしていたファイルのページを数枚めくり、一枚の用紙をホワイトボードに貼った。それは真実也とみちるが共有して見ている、非潜伏者適性検査の日程と当日の予定が記された資料と同様のものだった。


「検査会場へは、新人で非潜伏者の真実也君とちるちる、そして班長である私も同行します。まず最初に、暴人課一階の特別医務室で身体検査を行い、その後はバスで移動、所定の会場にて『適性検査』を行います」


 それだけ言うと、何か質問は。と蛭間は辺りを見渡した。


「適性検査に関する詳細が資料に記載されていないのですが、具体的に検査とはどのようなことをするのでしょうか」


 真実也は挙手をしながら訪ねたが、蛭間は「詳しい検査内容は検査対象者に明かさないのが決まりです」とだけ返して両手を重ね合わせた。


「質問は以上ですか?ノト特任警部とミフネ君は、通常通り業務についてください。それでは解散」


 ノトのデスクの上で山積みになっていたはずの駄菓子は、全て空になりノトの胃袋の中に収められていた。



 


 


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