第52話
だが芥川靖子は、この時には既に死亡して いた。 彼女は若くして癌で亡くなった。 彼女が亡くなった後もその友人で、解散したアイドル歌手グループ・ドーナツの元メンバーである俳優の吉田孝子(通称ターちゃん)と居達さんとの交流は続いており、友達から恋人関係になっていた。 そうしてつき合っていた時に、突然ドリーが姿を現したのだ。 なのでとりあえず彼女を自宅へは連れ帰ったが、明日には必ず長崎へ帰る様にきつく言い渡した。それは命令だった。 だがドリーは拒んだ。絶対に嫌だから、頼むから此処に置いてくれと必死に懇願した。 なので好色な居達さんは、置くならそれ相応の代償を払えと言った。たたで置く理由は 無いから、従えないなら今直ぐに追い出すと。抵抗したら警察を呼ぶと。 ドリーはそれに承諾した。代償は、居達さんと性交渉をする事だ。そしてその場で関係を結んだ。 こうしてドリーはそのままそこに置いておかれる様になり、居達さんは直ぐに自分が経営する小規模な芸能関係の会社の受け付け件事務員として彼女をそこで働かせた。 居達さんは急いでその会社近くにマンションも借りて、彼女を移らせた。ドリーはそこに住み、毎日働きに出た。 居達さんはそのうち、ターちゃんと結婚した。居住はもっと広い処へと移した。 ドリーはそのままその会社で働き続け、居達さんはそのまま定期的に彼女の所に通って いたので、彼女の立場は愛人になった。 そしてそこに働いて二年過ぎた頃に彼女は 妊娠した。居達さんからしたらミスだったらしいが、それでも自分の子供が産まれてくるので彼女に仕事を辞めさせた。ゆっくり安静にして、子供を産ませる為に。 ドリーは毎日マンションにいる事になり、 その理由からアンジェリンの所へ電話がかかってきたのだ。 彼女は、毎日する事が無くなり暇で仕方ないから、遊びに来いとしつこく誘った。 ドリーには友達がいなかったからだ。何も物を知らない、分からない、した事がない彼女には話が出来ない。アメリカにいた時にアンジェリンが色々教えた事位しか知らないし、分からなかった。 だから他人とは話が出来ないし、しても付いていけなかった。クラスメートや他の生徒達の噂話位しか出来なかった。その他の話題には只黙って聞いていたり、聞かれても何とか上手くごまかすか、自分に振られる前にサッとその場を離れた。 だから日本でも、話せば必ず直ぐにボロが 出る。必ず直ぐに何も知らないのが分かり、馬鹿にされたり苛められたり、つまはじきにされるのが分かっていた。 アンジェリンはアメリカ時代に、自宅の住所を無理やりしつこく聞き出され、(しかも 自分のは絶対に教えず)、ちょっとの事で母親に酷い手紙を書いて自分の事を言い付けられた事があり、自分の言う事をきかなければ又手紙を書いて言い付けると脅かされた。 そうしたら日本に帰らされると脅かし、アンジェリンの母親は直ぐに他人の言う事を信じるし直ぐにカーッと来るタイプだ。そうすると無茶をするし、特に娘にはする人間だったので恐らくはそうしただろう。例え後から後悔をしても。 なのでアンジェリンはそれが分かっていたから、仕方なく童話や童謡を沢山教えたり子供の遊びを色々と教えてやり、それを一緒に やらなければならなくなった。 彼女が同じCクラスの和之と一緒に住む為に出て行くまでは、ずっとしばらくそうだった。恐らく、最初はともかく和之も弱みを 握られたのだろう。だから一緒に住む羽目になったのだろう。 だからドリーはアイスクリームやハンバーガーをアンジェリンと一緒にいて生まれて初めて食べたり、買い方を覚えた。日本の一般的な食べ物や漫画、アニメの話や登場人物達の事も色々と教えてやり、テストまでしてそれらを覚えさせなければならなかった。その テストをドリーはいつも嬉しそうに受けて、喜んでいた。 そうした訳で、ドリーは日本に帰って来ても誰とも友達付き合いをしていなったし、出来なかったのだろう。恐いからやはり廻りを 上手く避けていたのだろう。 何せ知っている知識はアンジェリンから聞いて知った、やっと小学校三、四年生の子供 レベルだったし、精神年齢は居達さんが言った様に六歳程度なのだから。 だから今度は居達さんに色々と食べ物を食べに連れて行ってもらい、パスタの茹で方等も教えてもらったと嬉しそうに話した。 何も分からない自分の頭をいい子いい子と 言いながら優しく撫でてくれると、何度も 言って非常に喜んでいた。 居達さんは中味が幼児の彼女を、何でも自分の言う事を聞く、セックスする為だけの相手だと思っていたのではないだろうか。 大人だが、幼児の様に扱えば喜ぶ。至って 簡単だ。好きな時に来るだけで良い。嘘など幾らでも付けるし、疑わない。だからきっと そうした都合の良い玩具ではなかったのではないか。 ミスって妊娠させてしまったが、自分の子供を堕させたくなかったし、養育できる金銭的余裕はあったから産ませる事にしたのではないか。 アンジェリンはドリーの話に驚愕したが、 しつこく家に呼ぶ彼女の誘いを拒絶すると、居達さんと別れる事を勧めた。子供はまだ 可能な時期なら、堕胎する様にと助言した。 相手は結婚しているし、子どもの為にもその方が良いと言った。その妻にも悪いし、分かれば深く傷付くのだから良くないのだからと。 だがドリーはそんな事は関係ないと言った。自分は居達さんが好きだ、大好きだ。なら 自分の気持ちが一番大切だし、他の人間の 事は一切関係無い。居達さんも分かっていて それをやっている。せっかく授かった子供も 自分達の愛の証だから、産んで大切に育てるからと。 もし今に居達さんの気持ちが変わり、棄てられたらどうするのかと聞いたら、そんな事は絶対に無いから大丈夫だと言って笑い飛ばした。 自分と子供の事は一生大事にする、自分の子供だし、その自分の子供を産んだ女の事は一生傍に置くし死ぬまで放さないと言って いるからと、自信満々に言った。 アンジェリンは非常に不快に感じながら電話を切った。相変わらず物凄く幼稚で身勝手な、非常識な女だ。自分の事しか考えていない。 自分に電話して来たのも、又自分のおもりをさせようとしただけだ。誰も他にいないから自分の事を思い出したので、そうして唐突に電話をかけてきたのだ。 そして居達さんも、よくそんな事をした! どんどん帰せば良かったし、関係なんて迫らなければ良かったのに。ましてや結婚を約束したとかしようと思っている女がいたなら、尚更だ。 だがアメリカ時代の事を思い出せば、やはり身勝手で我が儘な男だった。ハクが手下二人と自分に苛めをしていたのを知っていてずっと長い開、見て見ぬふりをしていた。本当 ならさっさと何とかしなきゃいけなかったのにしなかった。自分が逆に何かされるといけないから、恐かったのではないか?ハクが 帰らされた後にそう話していた、同じEクラスの生徒達がいたが恐らくそうだろう。 又、黒岩に自分をあてがおうとしたりモデルにしようとしたりして失敗したら怒りまくって攻め、顔を何度も本気で強くビンタされたり、かなり酷い事も色々と言われた。(この物語には全て書いてないし、全体的にほぼ 全ての登場人物の自分への言動が緩く、又、 短く記してある。でないと書ききれない為。) だから、やはりそうした人物だったのだ。 つまりドリーと同じ部類の人間だ。身勝手で 自分本意で、それが激しい。自分には甘いし非常に我が儘な。だが一見分からないし、 分からない様に上手く演じきる。 人は見かけでは分からない、イメージだけでは分からないと居達さんが言ったのは、彼 自身の事にも十分当てはまる。 だからドリーは丁度良い相手なのだ。彼等はお互いにお似合いなのだろう。 そしてその後の出来事だ。 居達さんの事で以前に千鶴子が言った事が ある。この物語ではなく、パートワンである狐憑きの話に出て来た佐藤千鶴子だ。 (続く.)
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