クロッキーされていた男たち(番外編)



「脱げ」


「え」


「え」




俺らは、黒曜の下のでいつものように数人メンバーを集めてUNOをしていた。


そんな所に来たいおりさんに、二人来いと呼び出され、そしていおりさんの部屋まで来た。




一応何させられるのかもわかってはいた──


つもりだったけど。




「え」


「脱げ」


「スケッチっすよね……?」


「脱ぐ必要あるんすか……」


「服あると絡み見えねェんだよ。ゴツい筋肉削ぎ落として片方女にすんだ。脱いで片方腰にしがみつけ」




とんでもない要求をされた。




「女に……?」


「身長小せぇ方、立ってろ。高ぇ方がしがみつけ」


「え?」




話には一応聞いていた。


どうやら女役を女に任せるとそーいう気持ちになっちまうらしく、特に〆切の近い日には俺ら下のモンが呼び出されるようになった。


いおりさん好みの女をモデルにしちまうから、誘惑されちまうらしい。


さすがいおりさんだぜ、羨ましい。




…………まって俺、女役!!?


どんなカッコすりゃいいかなんて分かんねぇっすけど!!?


俺は肩をピキリと上げて固まった。


できれば誰にもこの姿を見られたくない。




いおりさんにスケッチさせられる時があることは、下の奴らの中じゃ有名だ。


あの鋭い目付きに数分間……いや、何ポーズもあったら数十分とかかる。


そして怯え切る俺たちの胃がやられる。


すげぇ尊敬してんのとは別に、怖いもんは怖い。


この人マジで容赦ねぇから……。




さらに上に咲さんがいる。


あの人はもっとヤベェ。


優しい男に見えてる分、そんなもんじゃねぇからヤベェ。


敵味方の切り替えがヤベェ。


あの顔しといて敵には容赦ねぇし、いつの間にかあの人の思う通りに動いてることがある。




例えば黒曜の……この今の環境だってあの人の思う通りだ。


ただ、俺たちにまで恩恵がある為に、反論なんてする奴はいねぇ。


うぃんうぃん?みてぇな関係にしちまうのが上手い人が俺らの頭だ。




「オイ、脱げ」


「はい……」




ウチんとこのツートップはマジ最強にヤベェのに、漫画描いてる。






そんな誰にも見られたくないところに、女が来た。


俺たちは二人揃ってその女の方を向き。




「あ」


「あ」


「……」


「……オイ、動くんじゃねぇよ」




見られたという衝撃に、筋肉がミチリと締め付けられるのを感じた。


おい、食ったもん吐くから締め付けんじゃねぇ!!


相方を睨みつければ、いおりさんに動くなと怒られた。


こっえぇ……。






その女の子は琥珀さんと言うらしく、可愛らしい高校生の子だった。


あの子はアシスタントに呼ばれて来ていたらしいが、俺たちの中ではざわつきが広がっていた。




あの咲さん直々に声がかけられたと。


どうやら上の作業場では相当な惨状になっていて、助っ人に来てくれたその人が女神さんだったと青ちんに聞いた。


そのうち、あの誰にも懐かない未夜さんまでもが、女神さんには心を開き、懐いていると聞くようになった。




咲さんみたく優しい顔しといてそりゃヤベェ女が入ってきた……!!!




俺らの中じゃ、2階のあの作業場は神聖な場所だ。


咲さんに許された奴らしか入れねぇ。


いおりさんの部屋行くにも足音に注意させられるし、うるせぇと雨林さんにドヤされる。




雨林さん、あの人もヤベェ怖い。


一回全員一通りトーン?やらペンの作業試しにさせられたけど、その時にすっげぇ怖ェ目付きで見張られていたのが俺らの中でのトラウマである。




未夜さんも雨林さんを通して咲さんから声をかけてもらっていたらしく、俺らの中じゃ特別な枠に入っている。


雨林さんはたしか、いおりさんに声かけられたんだったかな、あの人も特別な人だ。


咲さんが頭張るのと同じ頃に雨林さんも黒曜へ来て、それから生活指導のセンコーみたいな恐ろしさをひと通りみんなに植え付けてから作業場に入るようになった。




だから、あの人よくわかんねぇけど、とにかく怖ェイメージが強い。




黒曜は割と自由なところだ、基本的には怯えて過ごす必要がない。


俺らは家に問題ある奴らばっかりの集まりだ、ここがねぇと居場所が無くなる。




咲さんは怖い、そして見た目通りでもあって優しいお方だ。


こんなどうしようもねぇやつらを一人一人様子見に来て声をかけてくれる。


それがネタ集めだとしても、俺らにとっちゃそれは心地いいことだ。




俺ら下の奴らの目線に立って話を聞いてくれる。


そんな咲さんだから、俺らはついていくんだ。




今日も俺らは黒曜の下でUNOをする。


そんでもって漫画を持ち寄ったりして咲さんにいい作品を教えっと、褒めてもらえる。


俺らのちょっとした経験が、咲さんたちの役に立ち、漫画になることもある。


だから俺達も日々ネタ集めを手伝っている。




だからこそここの奴らはみんな、黒曜をあったけぇ所にしようと、あったけぇ家族みてぇになろうと、咲さんの求める形に向かっていくんだ。






俺らの黒曜は、宝物なんだぜ。






クロッキーされていた男たち / end.

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