転生してふたたび
「やっと退院して出来たというのに、毎日しかたないことばかりして。
母親が洗濯した衣類を持ち、部屋へ入って来て言った。
「さあ、何も」
背中を向けたままで青年というには薹が立つ者が答える。
「どうしょうも無いわね。あんな可愛い彼女も出来たというのに。こんな男の何処が良いのやら」
「ニナ=リカが来たの?上げてやって。何やってんの早く」
「私の話を聞いてるの?この
ドアを開け放ったまま母親は下へ降りて行った。
「……ったく。ドアくらい閉めろよな」
「なに怒ってるの?“クサレノミコト”さん」
青年が後ろを振り向くと、開け放たれたままのドアに手をかけ立つ、ニナ=リカが居た。
「いつからそこに?おいで、ニナ=リカ」
「……リカで良いのです……ずっと傍で見ていました……もう私は何処にもいかない」
「どうした?よそよそしい変な喋り方してさ。何かあったの?虐められた?誰にさ」
「ううん、何もない。何してるの?」
私の名前は
一応は中国人だけど何処の国の人間か判らない。
小さい時の記憶が無いし親のことも覚えていない。
ある時点から浮浪者に混じって公園に居たのを保護された。
片言だけど日本語も話せるからって今の家の子にして貰えた。
東南アジア系だろうって言われる。
肌や顔つきがそうだろうって。
「浮浪者の中か、保護した役人にお前の素性を知る者がいるに違いない。証さないのは高貴な血筋の落とし種だからだろう」
って家の人は言う。
「日本教育を受けて来なさい」
って今、ここの近くの中学校に留学させて貰ってその寄宿舎にいる。
休みの日になると、みんなどこかに出払ってしまう。
出掛けるあてなんて私には無いから、公園でぶらぶらしてて……そこで彼と話すようになったの。
みんな怖い目。
でも彼だけは優しい目、ずっと探していた目。
彼は私を初めて見たと言うの。
私は覚えていたのに。
忘れてしまったのね……それが哀しくて堪らない――
だから彼を抱きしめるの。
不安な夢もみるから。
二、三日前から夢の中で名前を呼ばれるの
「ニナ イッシャッ セェイ ニナ イッシャッ セェイ」
馬車みたいな乗り物に乗った、知らない女性が手招きするの
行かなければいけないの?
ようやく逢えたのよ、彼に
この人の傍で居たいの、喚ばないで
離れれば、また探さなけりゃならなくなる
また巡り逢えるのかな?
名前さえ忘れなければ……あの人の名前……名前……
◇◇◇◇
そこで私は欝すらと意識がさめはじめた
長い夢をみてた
少し疲れたな
そうだ、愛おしい人の名前を思い出さないと
ミコト……ではなさそうだ、なんだったろうか?
絶対覚えている筈、何度も呼んだ筈なのに、思い出せない
どうしよう…もう逢えない!
で、泣きじゃくってシマッタァー
オーイオイ泣いて
その後しばし虚脱状態
落ち着いて考えれば
わたしゃニナ=リカじゃ無いってぇの!
ヘンナヤツ
携帯を見るとアラームが鳴りだす15分前
もう一眠りしようか……思い出すまで……
哀しい記憶を夢に現せて ももいろ珊瑚 @chanpai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます