転生してふたたび


「やっと退院して出来たというのに、毎日しかたないことばかりして。三十路みそじ越えてお前は、何を考えているの?また病院で拘束衣を着たいの!」


 母親が洗濯した衣類を持ち、部屋へ入って来て言った。


「さあ、何も」


 背中を向けたままで青年というには薹が立つ者が答える。


「どうしょうも無いわね。あんな可愛い彼女も出来たというのに。こんな男の何処が良いのやら」


「ニナ=リカが来たの?上げてやって。何やってんの早く」


「私の話を聞いてるの?この腐れの命クサレノミコトめ」


 ドアを開け放ったまま母親は下へ降りて行った。


「……ったく。ドアくらい閉めろよな」


「なに怒ってるの?“クサレノミコト”さん」


 青年が後ろを振り向くと、開け放たれたままのドアに手をかけ立つ、ニナ=リカが居た。


「いつからそこに?おいで、ニナ=リカ」


「……リカで良いのです……ずっと傍で見ていました……もう私は何処にもいかない」


「どうした?よそよそしい変な喋り方してさ。何かあったの?虐められた?誰にさ」


「ううん、何もない。何してるの?」




 私の名前はNinaニナ=Rikaリカ

 一応は中国人だけど何処の国の人間か判らない。

 小さい時の記憶が無いし親のことも覚えていない。

 ある時点から浮浪者に混じって公園に居たのを保護された。

 片言だけど日本語も話せるからって今の家の子にして貰えた。

 東南アジア系だろうって言われる。

 肌や顔つきがそうだろうって。


「浮浪者の中か、保護した役人にお前の素性を知る者がいるに違いない。証さないのは高貴な血筋の落とし種だからだろう」


 って家の人は言う。


「日本教育を受けて来なさい」


 って今、ここの近くの中学校に留学させて貰ってその寄宿舎にいる。


 休みの日になると、みんなどこかに出払ってしまう。

 出掛けるあてなんて私には無いから、公園でぶらぶらしてて……そこで彼と話すようになったの。

 みんな怖い目。

 でも彼だけは優しい目、ずっと探していた目。


 彼は私を初めて見たと言うの。

 私は覚えていたのに。

 忘れてしまったのね……それが哀しくて堪らない――

 だから彼を抱きしめるの。

 不安な夢もみるから。



 二、三日前から夢の中で名前を呼ばれるの


「ニナ イッシャッ セェイ ニナ イッシャッ セェイ」


 馬車みたいな乗り物に乗った、知らない女性が手招きするの


 行かなければいけないの?


 ようやく逢えたのよ、彼に


 この人の傍で居たいの、喚ばないで


 離れれば、また探さなけりゃならなくなる


 また巡り逢えるのかな?


 名前さえ忘れなければ……あの人の名前……名前……







◇◇◇◇


そこで私は欝すらと意識がさめはじめた

長い夢をみてた

少し疲れたな

そうだ、愛おしい人の名前を思い出さないと

ミコト……ではなさそうだ、なんだったろうか?

絶対覚えている筈、何度も呼んだ筈なのに、思い出せない

どうしよう…もう逢えない!


で、泣きじゃくってシマッタァー

オーイオイ泣いて

その後しばし虚脱状態

落ち着いて考えれば

わたしゃニナ=リカじゃ無いってぇの!

ヘンナヤツ


携帯を見るとアラームが鳴りだす15分前

もう一眠りしようか……思い出すまで……




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哀しい記憶を夢に現せて ももいろ珊瑚 @chanpai

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