【完結】呪われミケには荷が重すぎる
フヒト
巨鳥の翼1
修学旅行など
いや修学旅行に限らない。遠足も、林間学校も、言ってしまえば
非日常で
周りには、たいして仲がよくもないクラスメイトが群れている。気持ち良く独りで風景を楽しむなんて無理無理。夜は夜で何のためにやっているのか、誰が楽しいのか、確認を取りもせず暴力的になだれ込む枕投げという悪しき習慣――。
学校行事は
とりわけ、野良猫のように自由と孤高をこよなく愛する俺にとっては。
ここで言っておこう。
俺が〈孤高〉という表現を用いることに違和感を覚える方もいるかもしれない。
〈陰キャ〉とか、〈ぼっち〉とか、その他諸々の人口に
しかし俺、
かつてこの国には〈
同様に〈孤高〉である俺を、〈陰キャ〉だとか〈ぼっち〉だとか〈コミュ障〉とか〈根暗〉とか〈社会不適合〉とか、発する者の品性が疑われるような言葉で呼ぶのは誤りである。誰が何といおうと、誤りである。
以降、注意するように。
俺はボーイングのエコノミークラスシートに座っている。
まさに、沖縄修学旅行からの帰路で。
折り詰めの寿司みたいにぎっしり座らされたこんな空間において熟睡できる
少なくともその音を
たまりかね、視線を右に放って、通路をはさんだ向こうに座った女子たちの姿を視界にもってきた。
身長百五〇センチくらいと小柄。切りそろえたボブカットの髪。アーモンド型の眼。しなやかなネコ科の動物を連想させる顔立ちだ。
黙っていればかなり可愛いのに、振る舞いは気に入らない男子に正拳突きを喰らわすほどに凶暴極まりない。
ふいに
「ぶ・ん・ご・う。み・る・な」
そしてぷいと前を向いた。
文豪というのは、俺の
奴を飛ばしてもう一つ向こうを見れば、やはり起きている、俺と幼馴染みの
完璧である。生ける桜。神の偉業を思わせる抜きん出た容姿だ。幼稚園時代からずっと眺めてきた美貌がそこにある。
これで放送部きっての美声の持ち主なのだから、俺以外にも
中学にして早くも孤高となったことにより、俺は
孤高であることにはいくつかの
ともかく珊瑚は美人である。見れば癒やしになることは間違いない。
ここは、修学旅行の苦行に耐えた自らに
と、毛羽立った気持ちを
そのとき花連が、俺の視線を
何をする、この
「花連、今日はまた一段と積極的だね、ね? どうしたのかな」
珊瑚が
「珊瑚が可愛いからだっぺ」
と、出身地の北関東弁で言って上半身をぐい、と押し付ける。珊瑚と対照的に、花連の声は素朴な感じがする。
それにしても、何という
「花連はまたがっしりとしたね。この身体で、沢山の部員を泣かせているのかな?」
と、珊瑚が誤解を招きかねないことを言う。この場合の「泣かす」は空手部の練習で「負かす」の意味だろう。花連は、そんなことを男子に言われたら鬼のように食ってかかるくせに、珊瑚に対しては
「そういう珊瑚はどこもかしこも柔らかいな」
花連は珊瑚の脇やら胸の下やら腰やらと、くすぐりはじめた。珊瑚が、ひゃうっ、と色っぽい声を上げる。
「いやだぁ。やめてよ、花連っ」
俺はただただ
花連が珊瑚と仲が良いのは言うまでもないが、教室ではここまでベタベタしていない。
しかし今日の花連はまるで違う。大胆だ。修学旅行ということで、特別はしゃいでいるのかもしれない。
ふと、珊瑚と眼が合った。視線の先で珊瑚は、
俺は下を向いた。太陽を直視してしまったような気持ちがした。
その後も二人は、白いほっぺたを互いにすりすり。くんくんと匂いを嗅いではいやん、うふふと百合百合ごっこしている。妬ましい。ぬうう。代わりたい。
と、突然左眼の端でチカリと光るものがあった。
左に人はいない。通路もない。あるのは小さな窓だけだ。
無視して珊瑚を眺めようとするも、もういちどチカリ。さらにチカ、チカ、チカリと三連続。
いいかげん
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