大迷界

佐藤万象 banshow.s

序章

 そこが一体どこであるのか、まったく判らないまま彼は立っていた。どうやってここまで来たのか、どこから来たのかさえ、まるで記憶になかった。気づいた時には、ここに立っていたのだ。どのような道程を経て、ここまであるいてきたのか、まるで覚えてはいなかった。ただ、わかっているのは、そこが周囲に建造物も何もない、だだっ広い荒れ果てた大地が、どこまでも延々と続いているということだけだった。彼は途方に暮れていた。歩いてきた方向を振り返ってみても、ごつごつした石ころだらけの大地が、延々と続いているのに過ぎなかった。

 タバコでも吸おうとして、ポケットを探ったがタバコもライターも、どこにも入っていなかった。

「あれ、可笑しいな。さっき確かに入れといたはずだが、どこかに置き忘れてでもきたのかな…。それにしても、ここはどこなんだろう……。まるっきり見覚えもないし、来たこともないんだよなぁ。まいっちゃうよなぁ」

 タバコでも吸えば少しは気も落ち着くし、何とかいい方法が思い浮かぶと思っていただけに、それも当てが外れてしまい少々ガックリしていた。

「何でこんなところにいるんだろう…。この見たことも聞いたこともない場所はどこなんだ。いままで一度も来たこともないし、さっきからだいぶ歩いてきたようにも思えるし、その前の記憶がまるっきりないのもおかしい…」

 いくら考えても自分がこんなところにいるのか、まるっきり思い出せなかった。それにしても、タバコやライターも然ることながら財布やハンカチや腕時計まで、いきなり失くしてしまうなんてことがあるのだろうか。しかも、どこに置き忘れてきたのか思い出せないなどということは、今まで一度もなかったことだけに、彼は茫然自失に陥っていた。

 だが、行けどもいけども石ころだらけの荒れ野ばかりで、この荒れ野以外の風景は一向に見えてはこなかった。もう何時間か何十時間歩いたのかわからないほど歩いたのに、荒れ野の果てはおろか三百六十度見渡してみても、闇の中なのに昼間のように遥かかなたまで見えるのも不思議だった。空を見上げても月も星も何も見えなかった。それでも彼は機械仕掛けの人形のように歩き続けた。今までこんなに歩いた経験もなかったが。疲れもまったく感じることなく歩いて行くと、前方に細い川の流れのようなものが見えてきた。河の流れに近づくにつれて彼は水の流れる音を聞いた。この不思議な暗闇の世界に来て初めて耳にする音だった。川に辿りつくと向こう岸を眺めた。

 しかし、向こう岸はここよりも一層暗く連なり、向こうがどのような形状をして、何があるのかさえ見えなかった。その川沿いをしばらく下って行くと、小さな番小屋のような建物が見えてきた。近づいてみると、その建物はそれほど立派なものではなかったが、かといって見た目は、そんなにみすぼらしいものでもなく、極めて質素な建物だった。

 彼は誰かがいたら、ここがどこなのか聞いてみようと思い戸を叩いた。

「ごめんください。誰かいませんか。すみませーん…」

 すると、入り口の戸が開いて中から若い女が姿を現わした。

「お待ちしておりました。あなたが浅丘伸介さんですね。どうぞ、お入りください」

「ぼくがここに来ることを知っていたんですか……。それに、どうしてぼくの名前が分かるんですか…。そうか、ぼくの名前は浅丘伸介っていうのか…。でも、なぜ今まで思い出せなかったんだろう…」

 中に招き入れられながら女に尋ねて、初めて伸介は自分の名前が、浅丘伸介であることを思い出していた。

「わたくしには何でも解かるのです。どうぞ、おかけください」

 女に勧められて、椅子に掛けながら伸介はまた尋ねた。

「ここは一体どこなんですか。なぜ、どうしてぼくがこんなところにいるのか、まるっきり覚えてないんです。こんなところは来たこともないし、ここに来るまで何十時間歩いたか判りません。それなのに、疲れもしないし腹も減りません。教えてください。ここはどこなんですか」

「ここは迷界というところなのです」

「え、『迷界』何ですか。それは…、初めて聞く名前なんですが一体どこなんですか。ここは…」

「初めて来られる方は、皆さんそうおっしゃいます。ここはあなた方人間には、到底理解できない場所なのです。動物たちは、本能的に解るようなのですが、人間にはもともと備わっていた、動物的本能が進化するにつれて、徐々に失われていったために、今ではその片鱗すら窺い知ることも、出来なくなったと聞き及んでいます。ですから、あなたのような人間には、決して理解できないところ、とでも申しましょうか。ですが、必ず一度はここを通らなければ、どこにも行けない場所なのです」

「なんか、ぼくには難し過ぎてよく解かりません。第一に迷界なんて言葉は、初めて聞きますけど、ここはどこなんですか、本当に…。

  それに、確かにさっきまで持っていたはずの、財布やタバコやライター、それに腕時計まで無くなっているのは、なぜなんですか…」

「それらの物は、もうあなたには必要ではなくなったからなのです」

「必要ないって…、冗談じゃないですよ。ぼくはね、これから飯を食いに行こうと、思っていたところだったんですよ。これじゃ、飯どころかタバコも買えないじゃないですか。ぼくはこれからどうすればいいんですか……」

「あなたは、まだ気付かれてはいないのですね。現在、あなたはすでに生体から離脱され、精神だけの存在になられたのです」

「精神だけの存在って…、だから、冗談じゃないって言うんですよ。ぼくはこの通りピンピンしているじゃないですか。それを何が生体離脱だとか、精神だけの存在だとかって、あまりにも人を馬鹿にしたような、ことばかり言わないでくださいよ」

「そうですか…。あなたは、あなた方の言うところの〝死〟というものを、まだ認識していらっしゃらないのですね」

「それじゃ…、ぼくは本当に死んだとでもいうのですか。あなたは…」

「そういうことになるのでしょうね。少なくても、あなたの住んでいた世界の方々にとっては…。あなたご自身の中では、死というものをどのように、捉えていらっしゃるかは存じませんが、死とは蝉が幼虫から脱皮するようなものと、考えていただければ解りやすいと思われます。生き物は脱皮することにより一段階高い層に進んで往くのです。

 そして永劫の環の中で、それを繰り返すことによって、さらなる進化を遂げようとするのです。そうすることによって、新たなる永劫の環に移り行くことが、可能となるのです」

 女がいろいろ説明しているが、伸介には迷界も自分が死んだということも、まったく身に覚えのないことであり、第一に迷界という地の果てみたいな場所は伸介自身が、これまでに一度も聞いたことのない言葉でもあった。

「待ってください。それは、ぼくは死んだのかも知れません…。ですが、ぼくには死んだという感覚もないし、なぜ死んだのかまったく覚えもありません。何もわからないまま、死ぬのなんて絶対にいやです。どうせ死ぬのなら納得して、死んで往くのなら構いませんが、これじゃまるで蛇の生殺しみたいじゃないですか。本当のことを教えてください。ぼくはどうして死んだのですか…」

「わかりました。それではお教えいたしましょう…」

 女はそういうと、手をポンポンとふたつほど叩いた。すると、別口の扉が開いて変わった衣装を身に着けた、若い娘がお茶の入ったお椀を乗せた、盆を持って入ってきた。

「どうぞ…」

 と、ひと言うと、伸介の前に置いて娘は出て行った。

「さあ、どうぞお召し上がりください。そのお茶は忘却の川を流れる水を、沸かして入れたお茶です。そのお茶を服用いたしますと、あなたが忘れている記憶が、すべて黄泉返るでしょう。どうぞ、召し上がれ」

「え、記憶が蘇えるんですか…、でも、ぼくは一度も迷界なんていう言葉、聞いたことがないしなぁ…。まあ、いいや。じゃあ、頂きます…」

 伸介は椀を手に取ると、ひと口だけ口に含んで飲み込んだ。すると、いままで頭で渦巻いていた靄のようなものが、スーっと晴れていくのか分かった。

「どうです。浅丘さん、もう、失われていたあなたの記憶は戻られましたか」

 女が微笑みながら伸介に聴いた。

「はい、全部思い出しました。そうか、ぼくはあの時、昼飯を食いに行こうとして、横丁の角を曲がろうとしたら、脇から走ってきた乗用車にぶつかって、自転車ごと弾き飛ばされたんでした…。それから後のことは、まったく覚えていませんが……。それじゃ、やっぱりぼくは本当に、死んでしまったんですね…」

 伸介は、あの時の衝撃がまざまざと蘇えり、がっくりと肩を落とした。

「そう気落ちをされることはありませんよ。浅丘さん、普通の方々なら大抵は、自分が死んだことを受容しきれずに、嘆き苦しむ方がほとんどですのに、あなたはしっかりとご自分の死を、認識されておられます。そういうお方は滅多におられません。もしかすると、あなたは予想以上に早い時期に、再生される方なのかも知れませんね」

「え、再生するってことは、ぼくは生き返るってことですか…」

 女の言葉に伸介は驚いて聞き返した。

「いえ、そうではありません。再生とは生き返ることではなく、あなたはごく近い定められた時間内に、まったく違う人間として生まれ変わるということです」

「え、生まれ変わる…。じゃあ、ぼくは浅丘伸介という人間はどうなるのですか…」

「はい、それはあなたが生まれ変わる時に、すべて消却されてあなたが、これまで経験されてきた記憶は、何もかもすべて忘れ去ることになるのです。ですから、生まれたばかりの赤ちゃんは純粋無垢なのです。生まれる前の記憶は完全に消去されておりますから、また一から経験を積み重ねて大人になって、死ぬ時が来るまで繰り返されるのです」

「………何だか、解かったようで解からない話なので、ぼくにはあまりピンと来ないんですが、ぼくはこれからどうすればいいのか判りません。ぼくはどこへ行けはばいいんでしょうか。天国ですか。地獄ですか…」

「いいえ、どちらでもありません。そもそも、天国とか地獄などというものは、人間が自分たちの善悪を戒めるために、勝手に考え出したもので、そのようなものは一切存在しないのです」

「え、天国も地獄も存在しないって…、それじゃあ、この迷界っていうのは、一体何なんですか…、死んだ人が必ず一度は、来るって言ってましたけど、ここも霊界とかいうところの一部なんでしょう…」

「そうです。ここもあなた方のいう、霊界に等しいところとでも言いますか、人が死ぬと精神体となって、必ず一度はここに辿り着きます。

 そして、これからどこへ行けばいいのか悩みます。自分が死んだことを認識できない方は、かなり時間を費やされる方もおります。浅丘さんのように、ご自分で死を認識されている方は、その限りではございません。いますぐにでも、ここの前にある忘却の川を飛び越えて、旅立つことが許されています。

 さあ、お往きください。早ければ早いほど、再生される時間が短縮されます。一日も早く、再生されることを祈っております。さあ、どうぞお往きください」

 女は立ち上がると入り口の扉を開けた。部屋の中に目映い光が差し込んできた。

「あれ、さっきは真っ暗闇の夜だったのに…」

「いえ、ここには昼も夜もございませんので、あなたが夜と思われたのは、浅丘さんご自身に迷いがあったからだ思われます。何故なら、ここには太陽も月も星も、存在しないのですから」

「そうですか…。それではぼくは、これでお暇したいと思います。いろいろお世話になりました。どうもありがとうございました。最後にひとつだけ、聞いてもいいですか…」

「どのようなことでしょうか。どうぞ、何なりとお聞きください」

「あなたのお名前を、教えていただけませんか…」

「わたくしの名前ですか。わたくしはシンシナ・リンネと申しまして、忘却の川の番人をしている者です。

 ああ、それからひとつだけご忠告を申しておきますが、あの忘却の川を渡る時に決して水に触れたり、濡れたりしないようにしてください。

 もし、誤って濡れたりいたしますと、あなたは二度と再生ができなくなり、永劫的に迷界から出られなくなりますので、くれぐれもご注意くださいますように」

「シンシナさんですね。でも、水に濡れたり触れないで、渡れとおっしゃいましたが、ここから見ても判るように、川幅も結構あるようですが、一体どうやって渡れば、いいのか見当もつきません」

「浅丘さん。あなたは、もうお忘れですか。いまのあなたは肉体を持たない精神体だけの存在なのですよ。あの忘却の川くらいの川幅なら、ひと跨ぎで飛び越えられるはずです。さあ、お往きください。そして、一日も早く再生できることを祈っております。さようなら…」

「お世話になりました。さようなら」

 伸介はシンシナに見送られて、忘却の川の番小屋を後にした。川の畔までくると、改めて対岸の様子を見ようと目を凝らした。しかし、視界がぼやけていてハッキリとしたことは判らなかった。

『やっぱり、向こうまで行って見ないと、判らないらしいな…。そろそろやって見るか…』

 二・三歩後ろに下がると伸介は助走に入り、充分に加速がついたところで、対岸を目指してジャンプした。体は伸介が予想していたより軽く感じられ、一気に対岸の下草が生えている地点に、着地することができた。

 後ろを振り返ってみた。向こうから見ている時と違って、こちらからは対岸の様子が、ハッキリと見て取れた。シンシナがまだ立っていた。

「ありがとう、シンシナさん」

 と、言ったつもりだったが、伸介の声は音声にはならなかった。その代わり伸介の頭の中でシンシナの声がした。

『どうぞ、お気をつけてお往きなさい』

 伸介は体勢を立て直すと、下草の生い茂る大地に足を踏み入れた。

 しばらく歩いて行くと、至るところにさまざまな動物たちが戯れていた。犬・猫・牛・馬・象・ライオン・虎・山羊・鶏・鳩・兎etc

 その中の山羊が伸介を見つけて近づいてきた。

『やあ、こんにちは。あなたもここで再生を待つんですね』

 いきなり山羊に話しかけられて、伸介は少し面食らったがすぐに聞き返した。

『へえ、きみは人間の言葉が判るんだね。すると、きみも死んだんだね。だから、人間の言葉が判るんだな…。きっと』

『はい、あなたは最近来られた方のようですが、どこから来られたのですか』

『ぼくかい。ぼくは日本という国に住んでいたんだ。

 それが昼飯を食いに行こうとしたら、横から走ってきた車に撥ねられたらしいんだ。だけど、ぼく自身まったく記憶がなくて、さっき忘却の川の水で、沸かしたお茶を飲まされて、やっと思い出すことができたんだよ。

 でも、死ぬっていうのは、こういうことだったんだね。だけど、自分ではぜんぜん死んだような気がしないから、本当に不思議なもんだよね』

『そういうものなんですよ。死ぬということは、わたしにもよく判りませんがね』

『きみはここに来てから、どれくらい経つんだい』

『さあ、どれくらいになりまかねぇ。もう、だいぶ長いこと居りますからねぇ。いちいち覚えちゃいられませんよ』

『へえ、そんなに長くいるのかい…。だけどさ、虎とかライオンなんかも一緒だけど、よく襲われたりしないね』

『その心配はいりませんよ。みんな同じ精神体同士ですからねぇ。彼らがわたしらを襲うのはお腹が空いた時だけですけど、彼らもわたしらもすでに精神体になっていますから、その必要もまったくないわけですよ。ですから、ここではみんな和気藹々と、みんな仲良くやってますよ』

『そうかぁ…。そう言えば、ぼくもここに来てから、何十時間も歩き続けたけど、ぜんぜん空腹感を感じなかったもんなぁ…』

『そうでしょう。わたしなんかも、初めてここに来たばっかりの頃は、ライオンの親父さんを見てビビりましたよ。そうしたら、別段襲ってくる様子もないので、安心していたんですが、そのうち「ちょっとこっちに来い」という声がしたんで、わたしもやっぱりライオンとか、虎は怖いですからねぇ。恐る恐る近づいて行ったら、いまあなたがわたしに話してくれたようなことを、こと細かく説明してくれたんですよ。それ以来、あの親父さんとはずっと仲良く暮らしているんですよ。そうだ。これからあなたのことをみんなに紹介してあげましょう。さあ、行きましょう』

 伸介は山羊に誘われるまま、多くの動物たちの屯する草原の真っただ中へと入って行った。周りにはあらゆる種類の動物たちが、思い思いの姿勢でのんびりと過ごしていた。

『まずは、ライオンの親父さんを紹介しましょう。何と言ってもあの方は、ここでは一番の長老ですからねぇ。こっちにどうぞ』

 山羊に連れられて、ライオンの寝そべっている傍までやってきた。

『こんにちは、親父さん。お休みのところすみません。こんどこちらに来られた方をお連れしました』

 ライオンはむっくりと首を持ち上げて、伸介のほうに顔を向けた。

『おお、お前さんかい。こんど来たという人間は…』

『はい、伸介と言います。よろしくお願いします』

『伸介さんか、ここでは名前などはどうでもいいが、それはないよりはあったのに越したことはないがね。わしは「親父さん」で通っている。あんたもそう呼んでくれていいよ』

 そういうと、ライオンはアクビをひとつするとまた寝ようとした。

『あの…、せっかくお休みのところすみませんが、ひとつだけ聞いてもいいですか…』

『何だね…。遠慮はいらないから何でも聞きなさい。わしに分かることなら何だって教えてあげるよ』

『ぼくは、きょう初めて忘却の川を飛び越えて、こちらの世界にやってきました。さっきから見ているんですが、ここにはあなたたち動物の姿しか、見かけなかったんですけど、ここにはぼくのような、人間はいないのでしょうか…』

『それはいるさ。みんな同じ精神体だからね。人間たちは人間たちでもう少し西のほうに住んでいるよ。お前さん、人間に逢いたいのかね』

『そりゃあ、逢いたいですよ。迷界という、この世界でどんな暮らしているのか、この眼でぜひ見てみたいんです』

『そうかい。それじゃ、連れて行ってあげよう。モクさん、お前さん案内してあげてくれないかい』

『いいですとも、わたしがご案内いたしましょう。それでは行きましょうか。伸介さん』

『そうしてくれるかい。じゃあ、頼んだよ。さてと、わしはもうひと眠りするかな…』

 ライオンは前足に首を凭れかけて、気持ちよさそうにすやすやと、寝入ってしまった。

 モクさんと呼ばれた山羊は、伸介を伴って西へと向かって歩き出した。

『人間が住んでいるところまでは、どれくらいかかるんだい。まだまだかかるのかい。モクさん』

『おや、伸介さんは、もうわたしの名前を憶えてくれたんですねぇ。何だか知らないけど、とっても嬉しいですねぇ』

『いやぁ、きみには右も左も判らないぼくが、すっかりお世話になったんだから当然だよ』

『ところで、伸介さんは人間の住んでいる場所に行きたいと言いましたけど、何かわけでもあるんですか…』

『うん、ここは死んだ人が精神体となって存在しているところなんだろう。まあ、ぼくも死んじゃったんだけどさ。だったら、もしかすると前に死んだお祖母ちゃんに逢えるんじゃないかと思ったからなんだよ。モクさんはどう思う……』

『うーん、難しい問題ですねぇ。人間の街にはあまり行ったことがないんでねぇ。わたしにもよくはわかりませんが、調べてみれば見つかるかも知れませんよ』

『でも、調べるったって、どうやって調べればいいのか判らないよ』

『じゃあ、人間の町に着いたら誰かに聞いてみたら、何かわかるかも知れませんよ』

 話しながら伸介と山羊が歩いて行くと、遠くのほうに小さな町の佇まいが見えてきた。

『ほら、見えてきましたよ。伸介さん。あそこが人間が住んでいる町ですよ。お祖母さんと逢えるといいですねぇ。さあ、行ってみましょう』

 山羊も伸介も足を速めていた。やがて町に入ると、和風あり洋風ありとさまざまな建物が立ち並んでいた。その町の通りには、小さな町ながらも国境を越えた、人種の人たちが往来していた。


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