第33話 因縁

 エルマーの店の株価は上昇を続けていた。

 理由はマクシミリアンとオットマーが買っているから。

 そして、それを嗅ぎつけた貴族や市場参加者が加わり、上げ足を早めていた。


「株式の総数が少ないから、買うとすぐに値が上がってしまいますねえ」


 ヨーナスは株を集めるのに苦労していた。

 元々株券は100万株しか発行されておらず、時価総額も1億マルクしかない小型株だ。

 これが船団を保有する海運会社などであれば、もっと簡単に買い集めが出来るのだが、過小資本の会社などあっという間に値上がりするし、簡単には売り物が出てこない。


 既に買い集めの時期は終わろうとしていた。

 マクシミリアンの計画ではもうすぐ株価を吊り上げにはいる。

 既にオットマーも買い集めを始めており、売りが出ると強気で買ってきているのだ。

 そして、値上がりを期待した他の株主は中々売りを出してこない。

 仕手戦の肝は先ずは種株を如何に低い株価で仕込めるのかだ。

 売り抜ける時にも建値が低ければ、値崩れを気にせず一気に売り抜けることができる。

 しかし、仕入れ価格が高ければ、値崩れしないように最新の注意をはらいながらの売り抜けとなる。

 今回はマクシミリアンの計画では売り抜けは心配しなくても良いのだが、利益に関わってくる。

 元々時価総額が小さいので、塩相場のときのような資金が動く期待は小さい。

 マクシミリアンからの注文を受ける手数料ビジネス以外に、自分も自己資金で手張りするのだが、利益を伸ばしたいので安く仕込みたいのであった。


「ヒンデンブルク様の資金力から考えたら、100億マルクは望めないでしょうね」


 ヨーナスが調べたところでは、ヒンデンブルク家の資産はそんなに多くはない。

 元々歴代の近衛騎士団長を排出してきた名門で、その功績を認められて侯爵の爵位を賜った。

 領地は豊かとは言えず、ローエンシュタイン家やシェーレンベルク家と比べると資金力は劣っているのだ。



 ヨーナスが買い占めに苦労しているのと同時刻、オットマーも株の買い集めに苦労していた。

 もっとも、オットマーには近衛騎士としての仕事があり、マクシミリアン同様に市場に張り付いているわけにはいかない。

 なので、株の買い付けは他の者に任せている。

 それが、なんの因果かハーバーであった。


 ブリュンヒルデと組んで塩の買い占めを画策したハーバーは、マクシミリアンに敗れて破産した。

 しかし、王都で再起を図ろうとしていたのである。

 シェーレンベルク家に顔を出すわけにもいかず、他の貴族をパトロンにと考えていたところ、ヒンデンブルク家の目に止まったのだった。

 そして、エルマーの店の株を買いたいというオットマーの思惑から、ハーバーに仕事が与えられたのだった。


「復活の足がかりにさせてもらいますよ」


 ハーバーはそうひとりごちる。

 今はまだ商会を立ち上げておらず、オットマーから取引を任されて商会に注文を出している状態だ。

 商会側もヒンデンブルク家がバックについているので、安心してハーバーの注文を受けている。


「ハーバーさん、既に株価は2,000マルクを超えてますよ。まだ買うんですか?」


 商会の従業員がハーバーに確認をする。


「構わんよ。それがオットマー様の要望だからな。ただ、集まりが悪いよなあ。もっと売りが出ても良さそうなもんだが」


「うち以外にも買ってる連中が多いですからね。ちょっと無理に買いすぎたのか、注目を集めちゃいましたね。一週間で株価が倍になったのだから仕方ありませんが」


 小型株に買いが集まったので、一気に株価が上がってしまった。

 株価は上がってしまったが、経営権を握れる程の株券は集まっていない。

 まだまだ買わなければならないのだが、このままではいくら使うかわからない。

 オットマーは親に黙って株を買い集めているのはハーバーも知っていた。

 オットマーも貴族の長男であるので、それなりに金は持っていた。

 なので、ハーバーにも5億マルクの予算をつけてくれたのだ。

 しかし、既にエルマーの店の時価総額は20億マルクを超えてしまった。

 こうなると経営権を握るには5億マルクでは足りない。

 さらなる資金をとなると、家の資金を使うことになるだろう。

 今回の株の買い付けが、女性絡みであることはハーバーも知っていた。

 それも、カール王子の婚約者ときている。

 そんなものに金をつぎ込むのをヒンデンブルク侯爵が許可するとは思えない。

 ない金を捻り出すにはどうすればよいか、それがハーバーの腕の見せ所であった。

 そして、一度マクシミリアンに敗北して破産したとはいえ、ハーバーは百戦錬磨の老獪な相場師であり、その方法を知っていた。


「さて、さらなる買い増しには御主人様の許可が必要ですからね。いまの予算での買い増しをお願いしますよ。そのうち、貴方にはもっと大きな取引をお願いすることになりますからね」


「お待ちしておりますね」


 従業員に笑顔で送り出され、ハーバーはヒンデンブルク家の屋敷に向かう。

 オットマーが帰宅したら、次の手段に出るための許可をもうつもりだった。

 そして、それが叶えばハーバーは復活できると考えていた。


「運が回ってきましたかね?」


 ハーバーはニヤリと笑い、通りを歩いていく。

 もう一度表舞台に立つ事を想像しながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る