調味料と株式市場

第26話 公爵家の食卓

 14歳になる年になり魔法学園に通うため、実家の屋敷から王都にあるシェーレンベルク公爵家の屋敷に引っ越す事になった。

 理由はうちの実家の王都邸よりも広いから。

 それと、僕が王都邸に行ったことがなかったので、それならブリュンヒルデが知っている使用人たちがいる方がいいとなった。

 魔法学園に学生寮があるのだが、第三夫人までを連れていける広さがない。

 学生の本分は勉強なので当然か。


 引っ越しも終わり、ガゼボで夫婦四人でお茶を飲む。

 手入れの行き届いた庭はとても美しく、贅沢な時間を満喫できる。


「奥様って呼ばれるのが落ち着きません」


 エリーゼがため息をついた。

 一応学生のうちは婚約者という扱いだけど、使用人たちはマルガレータとエリーゼを若奥様と呼んでいた。

 ブリュンヒルデはお嬢様のままである。

 マルガレータも一度は奥様と呼ばれた経験があったが、公爵家の規模の屋敷ともなるとやはり落ち着かないらしい。


「そのうち慣れますわ」


 ブリュンヒルデは二人に微笑んだ。

 三人は仲が良いのでその点はよかった。

 いがみ合ってたりすると、胃が痛くて家に帰りたくなくなっていたと思う。


「僕は来週から学生かあ」


 来週入学式となっている。

 そこから二年間の学生生活だ。

 毎日家に帰ってくるから、寂しいとかは無いけど。


「第二王子のドミニク殿下も同学年ですわね」


 ブリュンヒルデから聞いてはいたが、第二王子と同学年なのだ。

 第一王子がアンネリーゼに骨抜きにされているので、シェーレンベルク公爵家としては第二王子を次の国王にと考えている。

 前評判は悪くはないようだ。


「マクシミリアン様、そろそろよろしいでしょうか?」


 メイドが僕を呼びに来た。

 実は、シェーレンベルク公爵家の調味料は僕が作り出している。

 黒コショウだけでなく、一味唐辛子や七味唐辛子にマヨネーズ、料理酒に味醂、化学調味料や味噌醤油など、今までになかったものを魔法で作ったら、料理人たちの創作意欲に火がついたのだ。

 調味料を出しては前世の記憶を辿り、料理人たちに料理を説明している。

 ただ、自分は料理が得意ではなかったので、うまく伝えられないことも多い。


「それじゃあ厨房に行ってくるね」


「今夜の料理も期待しておりますわ」


 ブリュンヒルデたちに見送られ、メイドと一緒に厨房に向かう。

 実家の屋敷にも料理人は何人もいたが、シェーレンベルク公爵家の王都邸はそれよりも人数が多い。

 公爵家ともなればパーティーで呼ぶ人数も多いし、王族の方もお見えになる事があるので、高級ホテルの厨房のように優秀な料理人が多数雇われている。


 厨房に到着すると、料理長のブルーノが待ち構えていた。

 ブルーノは白のコックコートが横に伸びたシワができていて、特にお腹のあたりが苦しそうだ。

 完全に中年太りなんだが、料理人は少し太っていたほうが美味しい料理を作るような気がするので、ブルーノにはこの体型でいてもらいたい。


「お待ちしておりました、マクシミリアン様」


「今日は何を出そうか?」


「マヨネーズとそれから溜醤油を」


 ブルーノから要求されたのはマヨネーズと醤油だ。

 醤油は一般的濃口醤油ではなく、溜醤油を要求された。

 醤油はJAS規格で五種類に分類されており、僕の魔法はそれらを作り出すことができる。

 刺し身料理は一般的ではないので、肉料理に使うために溜醤油がいいらしい。

 その辺は僕にはわからないが、ブルーノたちは全ての醤油を使った結果そこに行き着いた。


 ブルーノが用意した小瓶に醤油を作り出して入れる。

 マヨネーズも空気に触れると酸化してしまうので、こちらも密封できる容器に入れた。


「他にはいいの?」


「本日は辛いものはやめておきます。が、あれは中毒性があって中々評判が良いのですよ。次のパーティーでも色々と試してみたいものです」


 豆板醤は大人気であった。

 辛さが癖になると評判で、一部の貴族たちはブルーノのところに自分の抱えている料理人を送り込んできて、作り方を教えてもらおうとしたくらいである。

 今の所僕の魔法でしか作り出せないので、義父が豆板醤を贈る相手を厳選している。

 おかげで、豆板醤を持っているのがステータスのようになってしまった。


「辛いのが苦手な人もいるからねえ」


「仕方ありませんよ。中々万人が好むものなんて出来ませんからね」


 辛いものは特に子供は苦手だ。

 料理の組み立てでも、いつもいる我々の好みはわかっているが、来客の好みともなるとそれも大人数となると確認するのは難しい。

 ブルーノもいつもそれに頭を悩ませているとか。


「発酵食品の臭いが嫌だっていう人も居るだろうしねえ」


「ええ」


 醤油や味噌の臭いが嫌いな人も居るだろうからなあ。

 ブルーノは僕から受け取った調味料を部下に渡して、自分も厨房で料理をしようとしたところで、白砂糖もなくなっていたことを思い出す。


「そうだ、マクシミリアン様、白砂糖もお願いします」


「はいはい」


 砂糖の消費量も僕が来たことで上がっていた。

 不純物の少ない白砂糖は貴重なものだったが、魔法で作り出せるのでガンガン消費されている。

 客人たちは公爵家の財力に驚くのだが、なんのことはない、僕の魔法である。


「今やシェーレンベルク公爵家の厨房は、フィエルテ王国で一番の料理の聖地となりましたな」


 ブルーノは砂糖を受け取りながらそんなことを言う。


「僕としては毎日美味しいご飯が食べられて嬉しいよ」


「私達料理人も常に新しいものに挑戦したいという欲求があり、マクシミリアン様の魔法がそれを現実のものにしてくださいましたからな」


「今晩も期待しているからね」


「おまかせを!」


 その後醤油の焦げる香ばしい匂いを少し味わってから厨房をあとにした。


 その日の晩ごはんは公爵家の人たちは居なかったので、僕と婚約者の三人だけでとった。

 公爵と夫人は出掛けており、ブリュンヒルデの兄弟は領地にいる。

 公爵と夫人も調味料に慣れてしまい、他所の食事では物足りないようなのだが、誘われれば行かないわけにもいかず、恨めしそうにこちらを見ながら外出していった。


 残った僕達は晩ごはんを食べる。

 食事中に会話をするような事は無作法とされているので、全ての食事が終わったあとにブルーノがやってきて、全員の感想を確認することになっている。


「やっぱり照り焼きの方がいいわ」


 ブリュンヒルデは照り焼き派だ。

 照り焼きソースを魔法で作ることもできるが、醤油と味醂とお酒に砂糖から作ったソースがお気に入りだ。

 そこはブルーノの能力が凄いということだろう。


「肉は塩コショウ派なんだけど」


 意見を言うも、ブリュンヒルデがキッと睨んでくる。


「マクシミリアンはブルーノが作る絶妙なバランスの照り焼きソースの味が理解できないと?」


「照り焼きも捨てがたいけどっていう話だよ。魚だったら照り焼きかな」


 ぶりの照り焼きとか久しぶりに食べたいな。


「お野菜はマヨネーズがあるから美味しくいただけました」


 マルガレータとエリーゼはサラダについての感想を述べて、肉料理の味付けには口を出してこない。

 多分正解だな。

 ブルーノも僕らがお互いに引かないので困っている。

 普段はこれに公爵と夫人が加わるので更に収集がつかない。

 それだけ味の好みは人それぞれというわけだ。

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