第42話:オアシス
俺をいいように扱うセバスチャンだが、時に計算を間違える時がある。
そのほとんどが俺の魔力量に関する事だった。
毎回上方修正しているというのだが、それでも少なく見積もっている。
今回の地下用水路造りにしても、俺の使う魔力量を少なく見積もっていた。
魔力総生産量の三分の一を魔法袋化した魔力器官に蓄える。
三分の一を狩りや魅了魔術に使って、残る三分の一で地下用水路を造る。
セバスチャンの計算では、今地下を流れている水量は十分の一だったようだ。
早い話が、予定量の十倍もの水が大魔山から大砂漠の地下に引かれた。
予定通りに灌漑用水にだけ使っては水があり余ってしまう。
セバスチャンがそんな無駄な事、もったいない事をするはずがないのだ。
直ぐに大砂漠耕作化計画は上方修正された。
水が蒸発する事を恐れずに、一定間隔で地上に吹き出させたのだ。
早い話が、一定間隔にオアシスを設ける事にしたのだ。
オアシスを設けて、そこに魚を放流する事にしたのだが、これによってとんでもない事が可能になったのだ。
俺の親衛隊ともいえる孤児とその家族だけが住む、広大な耕作地と水場ができた。
普通に想像するような小さなオアシスではなく、大湖と言っていいオアシスだ。
やる気になれば真珠の養殖ができてしまうのだ。
養殖真珠を作り出す方法は、契約魔術を施せば秘匿できる。
他所から侵入して技を盗もうと思えば、従魔軍団の厳重な警戒網を突破する必要があるのだが、そんな事が可能な者は俺以外にはいない。
王族級の魔力を持つ者なら可能かもしれないが、そんな人間が単独で危険な敵地の奥深くまで来るわけがない。
わずかに問題があるとすれば、従魔たちの狩猟本能だ。
魔境内を駆け回り、魔獣や魔蟲を狩り、魔力の満ちた肉を喰らう事ができない。
だがその点も、俺が少し手を貸せば可能になってしまうのだ。
あり余る財力で家畜を買ってきて大砂漠に放ち、従魔たちに狩らせればいい。
魔力のある肉に関しては、有り余るくらい魔法袋の蓄えてある。
だが実際には、家畜を購入する必要などなかった。
「イーライ様、気持ち悪いのは分かっておりますが、そんな嫌そうな顔をしないでくださいますか、わたくしが悪い事を無理矢理やらしているように見えてしまいます」
「実際に嫌な事を無理矢理やらしているではないか」
「はて、わたくしがイーライ様とお約束したのは、無理矢理爬虫類に似た動物や魔獣、竜と戯れるような事はお願いしません、だったはずです。
今回は戯れてくださいと申し上げたのではなく、生きたまま大砂漠まで運んでくださいと申し上げただけでございます」
「生きたヘビ型やワニ型を転移魔術で運ぶなんて、気持ち悪いに決まっているだろ」
「申し訳ございません、イーライ様。
残念ながらわたくしにはそんな感覚がありませんので、理解できません。
私に分かっているのは、強大なヘビ型やワニ型の陸上種亜竜を従魔たちに狩らせれば、従魔たちを十二分に満足させてやれるという事だけでございます。
魔力を含んだ肉に関しても、多少なりとも亜竜種の血を舐める事ができれば、十分な魔力量を喰らう事ができるでしょう。
肉の量自体は、最低ランクの魔獣や魔蟲を与えれば十分なのではありませんか」
セバスチャンの言う事には一つの間違いもない。
強大な陸上種亜竜を魔獣が狩るのは、本来ならとても危険な事なのだが、俺が細心の注意を払いながら支援してやれば、何の問題もない。
即死でない限り、身体が半分になっても完治させてやることができる。
いや、即死していたとしても、蘇らせる事が可能だ。
ここでなら何をやっても誰にも咎められる事はないだろう。
「くっ、約束に反している訳ではないが、気持ち悪いと言っているだろう。
あの姿を見ているだけで、怖気立つんだよ」
「それはいけませんね、ではこうしたらどうでしょうか。
大きな袋を作って、そこに入れて見えなくするのです。
あるいは隠蔽の魔術を使って、見る事もできなければ、気配を感じる事もできないようにしてしまうのです。
それができれば、少しは気持ち悪くなるのではありませんか。
何より以前から知りたかった謎が解けるかもしれませんよ」
「セバスチャンが言いたいことは分かった。
あの謎が解けるのなら、少々の事は我慢しよう。
だが、大砂漠にこいつらの養殖場を作ったりしないからな」
「そんな事は全く考えておりません。
私が考えているのは、草食の陸上種亜竜をオアシスで飼う事でございます」
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