第29話:お散歩よりも狩り
「ガウ、ガウ、ガウ、ガウ、ガウ」
「ウォン、ウォン、ウォン、ウォン、ウォン」
「ワン、ワン、ワン、ワン、ワン」
「ギャフ、ギャフ、ギャフ、ギャフ、ギャフ」
思い出したくもない、再現料理で涙を流してから十日が過ぎていた。
あれを忘れるために、俺はすべきことに没頭した。
しなければいけない事は色々あるのだが、やってて楽しい事は限られる。
俺が楽しく思えるのは、従魔たちと一緒にやる事だ。
その中でも特に楽しいのは、狩りだ、魔狼たちと狩りをすることほど楽しい事はないので、ついつい大魔境に狩りに来る回数が増えてしまう。
俺の指示を受けて、ベラが従魔たちを解き放つ。
魔狼、魔犬、狼、犬、狗が整然と隊列を組んで魔物を追う。
俺たちが待ち受ける場所に向かって、魔物を追い込んでくれる。
リーダーを務める炎魔狼をリーダーに統制の取れた動きをする。
毎日五度の狩りを行っているので、もう慣れた動きだ。
事前に探知魔術で危険な魔獣がいない事は調べてあるから、安心していられる。
「デクスター、城の従魔たちはどうしている」
俺は大公家家臣の中で最高の魔狼に懐かれたデクスターに確認してみた。
俺は自分の事と孤児たちの事だけを考えていた。
家臣の事は父上と母上、お二人を補佐するセバスチャンに任せた。
ただ、魅了魔術で絆を結んだ魔獣たちが苛立っている事だけは伝えた。
可愛い従魔たちが邪険に扱われるのを見過ごせなかったから。
「従魔はとても元気ですから、散歩だけでは満足してくれませんでした。
セバスチャン様の発案で、城にいる従魔たちも、時間を組んで交代で城に近い魔境で狩りをさせる事になりました。
そのお陰で従魔たちの苛立ちはなくなったと思われます」
「そうか、それなら安心だな」
そう言う事だったのか、俺がうかつ過ぎたのだな。
ずっと大魔境で自由に生きてきたのだ、人間と同じ運動量では足らなかったのだ。
俺は自分の経験から、安全なねぐらさえあればいいと思っていた。
天敵に襲われる事のない、安心して眠れる場所があればいいと思っていた。
だがそれだけでは、従魔たちを幸せにできないのだな。
衣食住だけでは幸せになれないという事を、絶対に忘れてはいけないな。
「今お城では、狩った魔獣をどうすかの話が始まっております。
プライベートな時間に狩りをするにしても、従魔はイーライ様から貸し与えられた、大公家の財産でございます。
それに、多くの場合は勤務中に交代で狩りに行っております。
狩った素材をどういう割合で大公家と家臣で分けるのか、とても大切な事だとセバスチャン様は申されておられます」
引き続きダグラス家の執事を務めてくれているセバスチャンだが、ダグラス家は国からの独立を宣言して、公爵家から大公家に成った。
セバスチャンは公爵家の執事ではなく大公家の執事になったのだ。
父上は長年の忠勤に報いるために、セバスチャンを宮中伯に任じた。
セバスチャンは固辞したが、母上も俺も父上を支持したから、最後は折れた。
だから公爵家に仕える者は、セバスチャンの事を殿から様に呼び変えている。
「そういう事はセバスチャンが全部上手くやってくれるだろう。
それよりも気になるのは、城に側にある魔境だ。
魔境の魔物が全滅したりしないだろうな」
大公家の居城の直ぐ側には、少し小さい魔境がある。
その理由は、大公家の居城が魔境の監視するために築城されたからだ。
曾祖父が領地を賜った頃は、その少し小さな魔境しか公爵領内にはなかった。
だが曾祖父と祖父が一生懸命辺境の地を開拓した事で、今では大魔境を含めた複数の魔境を領内に抱えるようになっている。
我が家は王家が開拓した領地を拝領しただけの家ではないのだ。
「はい、私もそう思います。
勤務中の獲物は全て公爵家に納める、プライベートでの獲物もその九割を公爵家に納める、セバスチャン様はそう言う条件にするお気持ちのようでございます」
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