第34話 粛清する転生者03
「それでシン様はこちらにはいらっしゃらないと?」
私の報告に姫殿下は不満そうに頬を膨らませた。
「相手が相手ですので自分が行くべきだと」
「それはわかりますけれど」
このところシン様が顔を出しに来ないので随分とご不満のご様子だ。
終わったら機嫌取りをしていただくようにシン様に進言しておきますか。
「姫殿下、間も無く作戦開始の時間になります」
「そう、ではこちらも始めるとしましょうか」
「オラオラオラッ!」
振り下ろされる魔獣の爪を交わし、すれ違い様に首を刎ねる。
すぐに別の魔獣が突進してくるが慌てずに回避して周りを確認する。
そばに味方の騎士はおらず魔獣に囲まれているようだ。
「ち、使えない連中だ」
自分が前に出過ぎているだけなのだが、この勇者はそんな当たり前のことがわからない。
いや、考えが浮かばないのだ。
自分についてこれない騎士たちが悪いというのが彼の考えだった。
それゆえに、この孤立した状況が意図されたものと気づくことはなかった。
「群れの中心は・・・あっちか」
襲ってくる魔物を捌きながら勇者は群の中心に向かって進み始める。
「・・・ッ!」
死角から感じた違和感に首を回すと音もなく槍が飛んでくるのが見えた。
反射的に首を傾けたことでなんとかかわす。
「へぇ、あれを交わすんだ。ただのクズじゃないわけだ」
「テメェ、なにものだ?」
「知らなくもいいことです。あなたはここで死ぬのですから」
「あんたはやりすぎたんだよ」
気がつくと、俺を囲うようにもう三人の女が立っていた。
「俺を勇者だと知った上で挑むとか。勝てると思っているのか?」
魔獣たちが様子を窺っているが、隙がないのか女どもに襲いかからない。
こいつら、相当強いな。
「無駄な抵抗はせずに死んでいただくことをお勧めします。その方がこちらも楽ですので」
「は、上等だ。そっちこそ後悔するなよ」
「くそ、なんでこんなことに」
俺は茂みに隠れながら毒づく。
襲ってきた女どもは想像以上に強かった。
こちらの攻撃を魔獣を使って上手く交わしながら、こちらの隙を突いては攻撃を入れてくる。
そこを狙おうとしても踏み込んだ攻撃をしてこないため、逆に反撃を受けてしまう。
このままではジリ貧だと目眩しで隙を作り、そばにあった林に逃げ込んで様子を見ることにする。
「黒幕は排斥派か?いや、公爵が黒幕ということもありそうだな」
褒美に娘との婚約を要求したことで目をつけられたか?
最近中立派の公爵が排斥派に接近しているというのは耳に入っていたが、こんなにも急に動くものなのか?
「どうする?隠れられるところはここくらいだからすぐに奴らが来る…」
このまま逃げるか?
いや、ここで逃亡すればなにもかも失うことになる。
これまで好き勝手しても見逃されて来たのは戦果があったからだ
失敗すれば糾弾されるのは目に見えている。
こうなったら騎士団と合流するか。奴らもさすがに騎士たちの前で襲うことは難しいはずだ。
「しかたねぇ、騎士団と合流するか」
「残念だけど、それは認められない」
「誰だ!」
不意に聞こえてきた声に振りかえりながら咄嗟に剣を振るう。
剣が硬いなにかを弾く感触がする。
「お前、何者だ?」
「ただの通りすがりかな」
「ただの通りすがりがいきなり殺しにくるのか?」
「運悪く魔物討伐をしている現場に鉢合わせたんでね。魔物と勘違いしたんだよ」
「は、騎士団との合流を邪魔するって言っておいて魔物と間違えたはねぇだろ」
「人とは思えない所業をして来たんだ、魔物とさして変わらないだろう。ただヒトの言葉を話せるかどうかの違いさ」
「…言ってくれるじゃねぇか」
コイツ、強い。
どう動いても迎撃される未来しか見えない。
「へぇ、追い詰められて焦っているだろうに踏みこんで来ないなんて、思った以上に慎重だね。でもいいのかな?君を襲ってきた子達もそろそろ追いついてくるんじゃない?」
「テメェもグルかよ…黒幕は公爵か?」
「どうでもいいでしょ、ここで勇者は死ぬんだから」
「やれるもんならやってみやがれ」
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