第4話 初レベルアップ

「喉が渇いたな。食料と水はあるんだっけ」

 白い世界にいた神様から与えられているはずのもの、圭人がストレージから水と食料を出してみる。それに倣って他の三人も。


 出てこいと念じるだけで、手の中に収まるように現れた。

 ストレージの中の物はリストにしてポップアップに表示させることもできて、そこからタッチで出現させることも可能なようだ。


 水は、コルクで蓋をされた皮で出来た水筒に入っていた。

 これは何度でも繰り返し使うものらしい。人前で使っても違和感が出ないように、この世界で使われている物なのだろう。

 食べ物は携帯食料。スティックタイプの固めた歯応えのあるもので味は甘いきな粉が近いだろうか、少しぱさつくので水で流し込む。

 一日分の栄養素がこれ一本で取れてしまう効率的なものだが、食べ盛りの高校生としてはもっと腹に溜まるものが欲しい。


「あれ、このお水減らないみたい」

 こくこくと水を飲んでいたありすが、水筒の膨らみが減らないことに気がついた。


「持ち物にも鑑定をかけたほうがいいわね」


 光里に言われ、ありすが鑑定をかけてみると、ポップアップ画面にはこう書かれていた。


 神水の水筒・なんの変哲もない水筒に見えるが、中身は神界の水。破壊・破棄・譲渡不可。錬金術に使える。飲料可。

 

 携帯食料・一般的な冒険者用の携帯食料。食べるとなくなる。一本で一日分の栄養素がとれるが腹持ちはしない。

 

「どこかで食料を手に入れないといけませんね」

 鑑定結果を聞いて夕彦が呟く。


 水の心配がなくなったのは素晴らしいが、食料は尽きてしまうだろう。どうやらストレージには三十日分はあるようだが毎日これというのも遠慮したい。


「お料理は私と光里ちゃんができるから、材料があれば大丈夫だね」

「ええ。その材料が問題だけど」


 そう言いながら光里が見渡した先にあるのは木と草。食べられそうな果実の類は、残念ながら見つけることができなかった。女子二人は目を合わせ、緩く首を振る。


「食べ物はおいおい考えよう。そうだ、スキルの確認もしたいな。剣作成ってなんだろう? こうか? 『剣作成!』 っと、おおおお?」


 圭人が地面に向かい、スキルを使うと思いながら手をかざす。

 周囲の土や草木が手元に集まり、まるでRPGゲームにでも出てきそうなロングソードとなって彼の手に握られていた。


「圭人のスキルは確認できたね。で、それは人に渡せるのかな?」


 圭人はその手に握っている、鈍く光る長剣を夕彦に渡してみた。なんの変哲もない普通のロングソード。そんなものを現実で見たことのない彼らにとっては傷つけるための武器を初めて握った瞬間だった。

 使っていた竹刀とは違う、ずっしりとした重さに圭人の肌が少しだけ粟立った。


「これ、刃も潰れてない。実戦で使える剣だな」

「そうですね、他の人でも使える剣。圭人、いざとなったらこれを売って金に変えましょう。確認ついでに何本まで作れるか試してください」

「げ! 冗談だろ」


 圭人への夕彦による無茶振りはいつものことなので、一応の抵抗をした後にそれが本気だと観念して大人しく先程したように剣を作っていく。


「私のスキルは怪我がないとダメなのかな。ちょっと圭人、擦り傷とかない?」


 一番怪我をしそうな圭人に声を掛ける光里。

 回復はかける対象がなければ発動しないだろう。


「ねーよ!」

 足元に剣を積み上げている圭人が答える。


「あ、光里ちゃん、私ここ怪我してるの」

 ありすの右手の人差し指にキャラクターものの絆創膏が貼ってある。


「お弁当作ってたら切っちゃって、妹に貼られたのよ」


 妹を思い出し、愛おしそうに絆創膏を撫でる。

 もう二度と会えないだろう地球に生きる家族に想いを馳せる姿は、四人共通の感情。

 だがこうなってしまっては、前向きに生きるだけだ。

 ありすは外見は儚げに見えて、ポジティブで逞しい少女だった。


「絆創膏外すわね、あ〜、すっぱり切れてる。じゃあ、やってみるわ」


 光里はありすの手を取り、この傷が治るようにと念じる。

 包丁で切った赤い筋がスッと消え、綺麗な指に戻った時、光里は自分の中に何かが入ってきたことを感じた。


「わぁ、治ってる。ありがとう光里ちゃん、あれ、どうしたの?」

 治った指を見て喜んでいたありすだが、黙ってしまった光里に声を掛ける。


「今、スキルを使った時に何かを感じたの。それでステータスを確認したら、レベルが2になってた」

 

 

 

    

 

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