あんなに探したのに
それから佐伯さんは連れ回せる程の体力が無くなっていた。俺はひとりで休みの日 陽菜とよく行った美術館へ足を運んだ。
何度も見た絵、特に絵に興味なんて無いがひとつひとつ見て歩く度に陽菜の品評を思い出す。
手を後ろに組んで、愛らしい目をぱちくりしながら絵を見ては俺の方を振り向き、また少し俺の前をゆっくりと得意げに踵から足をついて歩く陽菜。
『芸術は作者が亡くなってからが勝負なのかな〜。いいな 作品が死んだあとも誰かに影響できるって素敵』
なんてことを、言っていたっけ。
ふと、前方の曲がり角から消えた女性が見えた。俺の先を歩いて角を右へ進んだ人。
俺は音を立てずに追いかけた。
遠目から見たその横顔は
陽菜だ
長い髪
あどけない目
じっと絵を真っすぐに見つめ手を後ろに組んでいる
陽菜 元気なんだね 陽菜
やっと見つけた陽菜
なのに俺の足はそれ以上前へは進まなかった。
佐伯さん、俺は陽菜にあなたと出会ってほしい
俺との再会より先に。
今俺が陽菜を連れ去れば、その後に病院で佐伯さんに会ったとしても、陽菜の記憶に陽菜に恋した佐伯さんは残らない。
佐伯さん、俺はあなたに陽菜に恋してほしい
全く俺らしくない。
なんなんだ、俺は何がしたいんだ。
気づけば陽菜は先へ進み俺の視界から居なくなった
俺は後ろを向いて美術館を出た。
あんなに探したのに。
ただ陽菜を見つけるだけが目標だったのに。
佐伯さんが入院したら、俺はそこにいつ顔を出すつもりだ。
結局何もできない愚か者だ.......。
俺は佐伯さんを見送った後の陽菜を迎えに行こう。いや、でももしかしたらその時は永遠に訪れない?
2018年に行ってしまうのか。
あぁ何やってるんだ俺は。
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