月夜に花々は
僕らはあの後いろんなことをやった。
たこ焼きを食べたり、綿あめを食べたり、金魚すくいをやったり、射的をやったり。様々なことをやって、それらをやるごとにありすはどんどんと表情を変えてくれた。
お世辞にも上手くはないし、普通の人では見逃してしまう少しの表情の変化。
だけど、今までの『楽しんでいるような雰囲気』や『悲しそうな雰囲気』ではなく、しっかりと顔で、表情で『楽しんでいる』『悲しんでいる』と伝えられるようになったのだ。
僕は何故彼女があんまり笑ったり悲しんだりしないのかわからない。
生まれつきなのかもしれないし、なにか事件があってそれを機にそうなったのかもしれない。
僕はそれを知らないし、聞くつもりはない。
だって、多分感情を表に出せないことは、ありすにとっても辛いことだと思うから。
「花火もうすぐだよ。」
僕は河川敷の草に腰を下ろしてつぶやいた。
「…………。」
ありすからの反応はない。
けど、ありすの方を見れば、彼女はしっかりとその瞳で僕のことを捉えている。
「Fireworks are soon.」
文法的に正しいのかはわからない。
僕のいま知る限りの知識で、伝えた。
「…………」
数秒の沈黙の後、
「楽しい、だね。」
ありすさんがそう言った。
「That's right」
僕はそう返した。
日本語を話す僕が片言の英語で話して、英語を話す彼女が片言の日本語で話す。
僕らはそうやって、不器用ながらに意思疎通を図っていた。
「花火、きれい、よね。いっぱい、あがる?」
ありすが草に置かれた僕の手をちょんと触って言う。
「Exactly. We can see a lot of fireworks.」
僕も必死に英文を組み立てて返した。
「それ、いい。私、楽しみ。」
微かな笑みを浮かべるありす。
僕らの小指は絡み合っている。
「私、話すの、下手。」
ありすがまだ真っ黒な空を見上げる。
僕は彼女の中指に自分の小指を重ねた。
「Me too.」
下を流れる川は、浅くザーという音を響かせている。
「そうだね、私達下手。でも、私、あなた一緒、とても、良かった。」
空から僕へと視線を落とした彼女が、僕の目を恥ずかしくなるほどにまっすぐに見つめて言う。
「I like the time with you.」
僕も逃さぬように…………逃げないように、彼女の端正な顔を見つめ返した。
ありすと僕の手が半分ほど重なっている。
「そうね、嬉しい。お月様、まんまる。」
再び顔を上げた彼女が、独り言のように呟いた。
「It's full moon. Beautiful」
今日はちょうど満月の日らしい。
正円の月が、その淡い光で僕らを照らしていた。
ありすの指が僕の中指まで届いている。
「
「
僕らはほぼ同時におんなじことを呟いた。
その瞬間、眩い光が降り注いだ。
花火が…………始まった。
僕らは花火が次々と上がっていく中、一言も言葉をかわさなかった。
僕も彼女もそれほどまでに、この火の花々に見惚れていた。
……………………いや僕は、花火に見惚れた彼女、に見惚れていた。
「It's over」
最後の花が枯れた余韻すら冷めきった頃。
周りには誰もいない中で、僕は呟いた。
「そう、ね。」
普段と変わらぬ無表情に、雫を添えてありすは僕を見つめる。
その真っ直ぐな視線のせいか、それとも花火のせいか、
「It's more beautiful…………than I expected.」
僕はそんな少しひねくれた感想を口走っていた。
「…………。」
「…………。」
僕らの間に沈黙が流れる。
その沈黙は射すようでいて、それでいて優しかった。
「…………いつか、また会えたら…」
ありすが囀った言葉の続きが、僕には手にとるように分かった。
だからこそ、僕は涙をこらえながら呟いた。
「At that time………·」
どちらが先でもなく、お互いを再度見つめ直した僕らは、
「「
きっと、どちらとも泣いていて……………………
……………………それでいて笑っていた、のだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます