第40話 田中ハナコ

 田中たなかハナコは、うれいていた。

 アラタの仕事場。カフェ。ロイヤルパルス。

「いらっしゃいませ」

 ショートヘアのハナコは、不愛想ぶあいそうだった。

 突然の雨にうたれ、すこしだけ濡れている。

 席に座り、注文はすぐに行われた。

「コーヒーを」

 短い言葉で、コーヒーを頼むハナコ。

 ほかの客はいない。

 カフェのマスターは、特に何も言わなかった。何を考えているのか、ハナコは気にもしていない。

 すでに、天気は回復していた。晴れ間がのぞく。

「変な天気ですね」

「私なんかに構っていて、いいんですか?」

 妙なことではない。ある程度の知能があれば、意味が分かるはず。そして、アラタの答えはハナコの期待したものではなかった。

「それって、どういう――」

「私の名前は、田中たなかハナコ。顔見せよ。近いうちに、また、ね」

 別の日。

 そこは、元カフェ。建物は跡形もなく粉砕している。紫色のマスターと客は、のんきに談笑していた。イマジン空間なので、戦いが終われば元に戻る。

 イマジン空間には、マモノが現れていた。オオカミのような見た目の。

「ラストアーツ!」

 ハナコのカンサが、クレッセントリボンでオオカミのようなマモノを撃破した。

 大爆発が起こる。わずかに残っていたカフェの残骸ざんがいも吹き飛んだ。

 カフェの店員が、ぽかんと口を開けて言う。

「あ、君は」

「また会ったわね」

 短い髪を揺らして、ハナコが告げた。

「カンサ使いだったのか」

「やりなさい。ノーベン!」

 襲いかかるハナコのカンサ。鎧が動いて金属音が鳴る。とはいえ、カンサを召喚していないと戦いにはならない。

「やめろ」

 といって止まるカンサバトルではない。早くやめさせないと、マモノが現れてしまう。仕方なさそうに、アラタはカードを手に取った。大きくポーズをとる。

「カンサ・ジャニュ!」

「なにやってんだ、アラタのやつ」

 カフェのマスターが、いぶかしげにつぶやいた。

 リボンを武器にするノーベン相手に、ジャニュは苦戦を余儀よぎなくされていた。

「手こずっているようだな」

 ミズチが現れた。厄介なことになった。と、ハナコは警戒している。

「ミズチ!」

「こい。カンサ・フェブ!」

 1対2だ。劣勢になったかと思いきや、さらなる乱入がある。

「面白くなりそうですね」

「ぼくらも混ぜてよ」

 ヒサノリとコウスケが現れた。

「カンサ・セプテン!」

「カンサ・オクト!」

「店の外で、なにやってんだか」

 カフェのマスターは、やはり状況が分かっていない。渋い顔になっていた。

 ガシャガシャと音を立てるどもえの状況は、すぐに大きく動くことになる。

 乱戦のなか、ハナコがヒサノリとコウスケ側に回ったのだ。

 一人で戦うのはわりわない。すべて計算からの行動だ。

 ミズチがピンチになった。

「いまのままじゃダメだ。もっと、力が欲しい!」

 アラタが強く願い、左手が光った。

 光がおさまったとき、そこにはカードがあった。

 ロウケのカードが現れたのだ。

「そ、それは」

 ヒサノリが驚くなか、アラタが叫ぶ。

「いくぞ! カンサロウケ・ジャニュ!」

「姿が変わる? そんなことが?」

 コウスケも戸惑っていた。対して、ハナコはうきうきしていた。思ったままを口にする。

「へぇ。面白いじゃない」

 ジャニュが斬りこむ。セプテンが受けた。そこを、オクトが狙う。だが、すでにジャニュの姿はない。カシャンという軽めの音を響かせて、セプテンの背後に回っていた。

「速い」

 カンサロウケとなったジャニュは、鎧が薄くなっている。圧倒的な強さを見せた。

 ジャニュが、フェブを助ける。

 ジャニュと連携するフェブ。

 カンサロウケとなったジャニュは強大な力を誇り、三人相手でもひけをとらない。

「やるわね」

「なんだと」

 ノーベンとセプテンに対し、フェブが足止めする。

「いまだ! アラタ!」

 叫ぶミズチ。

 悩んだ様子を見せたあと、特殊な大技を繰り出すアラタ。

「ラストアーツ!」

 オクトに横一文字斬り・改がヒットした。

「ぼくはただ、幸せに……」

 溝際みぞぎわコウスケが脱落した。

 ここは退くしかない。打ち合わせをしなくても、二人の息は合っていた。

 ヒサノリとハナコが撤退した。

 さらに別の日。

 ぐちゃぐちゃになる喫茶店。

 とはいえ、これはイマジン空間。現実の喫茶店は無事だ。空間が消えれば元に戻る。

「なんだと。手強てごわい」

 押されるヒサノリ。

「どうした? もう終わりかぁ?」

「こいつ」

 喫茶店が原形をとどめていないため、外からでもカンサが丸見えだ。

 そこへ、ハナコが現れた。

 いましかチャンスはない。ここで落としておかないと、あとで何が起きるか分からない。ハナコは狙っていた。

「カンサ・ノーベン!」

 意表を突くリボンの攻撃で、エイプに大ダメージを与えたノーベン。

「テメェ!」

 ガキンと、大剣がこぶしをはじいた。

 エイプの攻撃を防いだのは、セプテン。

「君は」

「いまは、ソウオンを!」

 ハナコが指示し、ヒサノリがしぶしぶ従う。即席の連携を仕掛けた。

 二体の攻撃で、エイプは劣勢になる。

「おぼえておきやがれ!」

 ソウオンは去っていった。

 ここでとどめを刺しておきたかった。いずれ、あいつは災いになる。ハナコには、それが分かっていた。

 カンサをしまい、イマジン空間が消えていく。紫色になっていた辺りも、もちろん元に戻る。

 そして、バラバラになっていた喫茶店も元に戻った。店長はそれを知るよしもない。

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