第30話 未達の力

 雪のちらつく公園前。

「お主が、アラタの言っておった勇伊ゆういヒサノリか」

「そう言うあなたは?」

「わらわは、梛川なぎかわササメ」

「ほう。梛川なぎかわグループの」

 お互いにカードを見せ、流れるように戦いが始まる。

まいる。カンサ・ジュラ!」

「ゆくぞ。カンサ・セプテン!」

 開くイマジン空間。周りが紫色で彩られていく。よっつのかたまりをのぞいて。

 ヒサノリと戦うササメ。

「わらわの裏をかこうなど、百年早いわ」

「減らず口を」

 大剣よりも、槍のほうが長い。わずかに。リーチの話だ。それでも、セプテンは善戦していた。

 戦いは熾烈しれつを極める。

 おおきな金属音がひびき、あたりの建物が壊れていく。

 お互いに、ラストアーツを構えた。

 一点突きとゴルドスラッシュが、ほぼ同時に炸裂する。

「ううっ」

「んっ」

 どちらもダメージが大きい。とはいえ、倒れるほどではない。

「命拾いしたようだな」

「どちらが、かな」

 ササメは、いまのままでは勝てない。そう思っているかのような、決意に満ちた表情をしていた。

 消えるイマジン空間。

 壊れていたはずの建物も元に戻った。

 二人は、別々の方向へと歩いていった。


 風が冷たい。

 駅前の広場は、厚手の服を着た人でごった返している。

 ミドルヘアをかきあげ、ササメがアラタに近づく。

「なんだ? また戦いか?」

 構えるアラタ。

「違うわ。兜山かぶとやまアラタ!」

「あ、はい」

「お前のことが、もっとり知りたいだけだ」

 ササメは、意味深なことを言った。

 アラタが誤解したようだ。

「だ、騙されないからな」

 そのことに、ササメは気づいていない。次の言葉をさらりと言った。

「どうすれば強くなれると思うか?」

「ど、どうって、そうだなぁ……」

「ん?」

 あまり豊満ほうまんではない身体からだ、ではなく、顔を近づけるササメ。

「だーっ。わからん!」

「おい! しっかりせい」

「そう言われてもな」

 歯切れの悪いアラタを見て、ササメが直球勝負に出る。

「ロウケの力、手にしたのではないのか」

「そうなんだよなぁ。って、あれ、見てたのかよ」

 右手に持つカードを見せる、ササメ。

「戦え!」

「こうなりゃヤケだ。カンサロウケ・ジャニュ!」

 しかし、左手にカードは現れない。

 それどころか、カンサもその姿を見せなかった。もちろん、イマジン空間も開かない。

「む」

「うーん。やっぱりダメか」

がたいの」

 戦わずに、ササメは去っていった。そのうしろ姿を、アラタが呆然ぼうぜんと見つめていた。

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