第29話 勇伊ヒサノリ

 勇伊ゆういヒサノリは、証拠品が並べられた部屋にいた。

「セプテン?」

 証拠品の中の、カードに書かれた文字を読むヒサノリ。

 その瞬間、声が聞こえた。

 ビニール袋ごしに触っていても、問題ないようだ。頭の中に声がひびいてくる。

 ヒサノリに、バトルロイヤルの説明をしている。謎だらけの声とは、意思疎通ができない。一方的に話しかけられているだけ。

「願いか。わたくしの願いは」

「まずいですよ。証拠品を」

 係官かかりかんの言うことはもっとも。そのまま拝借しては、罪に問われることになる。それは、検事として非常にまずい。

 自分に言い聞かせるように言葉をつむぐ、ヒサノリ。

「ただのカードだ。指紋も出ていない」

 不思議ふしぎそうに見つめる係官かかりかんとは対照的に、ヒサノリの心ははずんでいた。

「そんなに気にいったんですか?」

「この鎧が、運命を変えてくれるかもしれない」

 カードにえがかれている、大剣を手にした鎧。それをしげしげと見つめて、ヒサノリが微笑ほほえむ。

 ヒサノリは、正式な手続きをしてカードを引き取った。

 カードを受け取った次の日。路上にて。

「あっ。アラタ。と、ミズチも」

 黒髪の男性と黒い服の男性のところにボブカットの女性がやってきて、三人で気まずい時間を過ごしている。

「コハルもかよ」

「そうか。友達の」

 ミズチは挨拶をしなかった。軽く頭を下げるコハル。明るい笑顔でたずねる。

「なになに? 二人とも、あたしに隠し事?」

 そう言われて、二人は何も言わなかった。まるで、隠し事をしているかのようだ。

「そういうわけじゃ」

「ああ。気にするな」

 三人を見かねて、ヒサノリが話しかけた。放っておくことはできない。自身の正義に照らし合わせて考えても、無視はありえなかった。

「ちょっといいかな。そういう態度は、いただけないと思うのだが」

 きっちりとしたスーツを着こなしているはず。自慢ではないが、高級品だ。

「いえ。ケンカじゃないので」

「ジャマだ。引っ込んでろ」

「おい。ミズチ。そういう言いかたは――」

「貴様らのような者がいるから、犯罪がなくならんのだ」

「なんだと」

 ミズチが食ってかかろうとしたところで、ヒサノリが話し出す。ここは穏便にいったほうがいい。

「わたくしは、勇伊ゆういヒサノリ。検事だ」

「けんじ?」

「弁護士と戦ったりする、あれだ」

「ああ」

 納得した様子のアラタ。それを見たヒサノリは、取るべき行動を選択した。胸のポケットに手をのばす。

「では。カンサ・セプテン!」

 カンサが召喚された。鎧がガシャリと音を立てる。

 セプテンの武器は大剣。かといって、ほかのカンサより本体が大きいわけではない。

 広がっていくイマジン空間。カンサ使いとカンサをのぞいて、紫色で染まった。

「マジかよ」

「やるぞ。アラタ」

 カンサを知らないコハルがいるため、おおっぴらには戦いたくない様子のアラタ。

 だが、そう言っていられない状況のため、戦うことを決めたようだ。ヒサノリのほうはというと、最初から戦う選択肢しかない。

「カンサ・ジャニュ!」

「カンサ・フェブ!」

「また言ってる。監査って、なに?」

「いいから、静かにしてくれ」

 すこし焦った様子で、アラタが頼んだ。

 大剣を剣で防ぎながら、ジャニュが近づく。

 そこを、一気にフェブが近づいて一太刀浴びせた。フェブの武器も剣。

「野蛮だな」

 即席そくせきとは思えない、いい連携をする。おそらく、この二人は組んでいるのだろう。と、ヒサノリは考えていた。

 ヒサノリの言葉を無視して、二人は攻撃を繰り出し続ける。

 1対2はまずい。それよりも、次の仕事に遅れるほうがもっとまずい。

「む。時間か。では、この辺で失礼する」

 カンサをしまい、ヒサノリは去っていく。

 アラタとミズチもカンサをしまい、イマジン空間が消えていった。

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