第31話 おいしそうなウサギ 2

「ひゃっ!」


 スゥッ、とうなじをなぞると、レティセラが飛びあがって驚く。その声が嬌声のようで、官能を刺激し、ゾクリ、と全身に鳥肌が浮きあがった。


「な、何かついてましたか?」


 振り返った彼女は、真っ赤な顔で首をおさえ、目を泳がせている。


「いや……髪……結んだんだなと……思って」


 なんだ、この可愛い生き物は。


 ポタタ……

 水を零してしまったらしい。テーブルから落ちる水滴が絨毯じゅうたんを黒くけがしている。


「え、えぇ。作業の時に邪魔になりますから。すみません、すぐ拭きますね」


 首まで赤くして、ソワソワしている姿が、いつかのウサギ姿と重なる。それと同時に、とんでもないご馳走のようにも見えてきた。


「そんなのはいいから……こっちを手伝ってくれ」


 ソファに勢いよく腰をおろし、俺は微笑んだ。


「な、何をすればいいんですか?」

「窮屈だ。はやく脱がせてくれ」


 ・・・・・・


「あ、あの、念のためにもう一度お聞きしてもよろしいですか?」

「あぁ? 聞こえなかったのか? 『早く脱がせてくれ』と……言ったんだ」


 レティセラは、笑顔を作ることも、赤くなることも忘れて止まってしまっている。今頃必死に頭の中を整理しているんだろう。

 何をしても可愛く見えてしまうのだが。



「で、ですが!」


 その無だった表情が、一瞬にして沸騰しそうなほど真っ赤に燃えあがる。だが、さすがに警戒して簡単に寄ってはこなさそうだ。

 俺が仕方なしに立ちあがると、レティセラは一歩うしろに退がった。


「なぜ逃げる?」

「に、逃げてませんっ」


「アルバートの代わりなんだから、これくらいしてもらわないと、」


 ぷるぷると震えて、訴えるような潤んだ瞳には、間違いなく自分が映っている。耳まで赤くして、見れば見るほど美味しそうである。


「わ、私、拭くものを持って参ります!」


 そのまま観念したのかと思えば、レティセラは脱兎の如く扉に向かって走り出した。






 バン!!


「きゃっ!」


 少し開いたドアを乱暴に閉め、彼女をそこに押し付ける。そして、腕でおりを作って今度こそ閉じ込めた。


 逃がさない。


「早く……ボタンをはずしてくれ」

「……はい」


 ピンク色をした唇が、柔らかそうに動くのを見て、俺は目を細める。


 あぁ、なんて美味しそうなんだ……

 食べたら甘いのだろうか。俺の頭の中は、もうそれだけでいっぱになっていた。


 自分にこんな野性的な一面があるとは思わなかった。これじゃあ、健全な男というより、ほとんど変態だ。


 プチ……プチ……プチ……


 震えた指先が素肌かすめ、くすぐったくて、気持ちがいい。それは段々と下の方に降りていき、何かを期待して1箇所に血液が集まる。


 欲しい。


「はぁ……っ」


 不思議と鼓動は落ち着いていて、するっと肩を撫でられると快感に溜息が漏れた。それを勘違いしたのか、レティセラは泣きそうな顔で見あげていた。


 ……ちょっと煽り過ぎだろ。


 欲しい。


「申し訳ありません、不快でしたでしょうか?」

「大丈夫だ、もっと」


 だめだ欲しくて……たまらない。


 俺は吸い寄せられるように、体が自然と動いていた。


「あ、あの!」

「本当にわからない奴だな。お前は」

「っ!」


 髪をほどき、彼女の背中に手を回して体を引き寄せる。これでもう、逃れられない。

 のしかかるように、顔を近づけると、桃色の蕾が誘うように少しだけ開いて、そのままそれを食い始めた。


 腕の中の小さな身体がビクついて力が入り、クンッ、とシャツが引っ張られる。


「…………ぅん」


 くぐもった声が漏れると性感に木霊こだまして、もっと食べさせろ、と命令が返ってきた。


 もっとだ。

 彼女の頭を押さえつけて、やや強引に、ヌルッと入り込むと、深まるごとに、ぬちゃぬちゃ、とした粘り気のある音が響く。


「……ん、んん」


 誰がこれを想像しただろうか。

 合間で漏れでる声が、たまらなくいやらしいことを。それを、狙ってしているわけではないのだから、恐ろしいものだ。


 ジジッ……

 ロウソクがひかえめな相槌をして、炎が揺らぐ。


 ……もう止められそうもない。

 そんな事は、『夢中』というものにかき消され、レンヴラントにはもう考える隙もなかった。

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