第56話 新たな旅立ち
俺は厨房で黙々と働いた。凛はニコニコとお客さんの対応をしている。
この3ヶ月程はプリンファンでカフェは混雑状態が続いている。
バイトの子を増やしてなんとか対応した。
夜10時の閉店後にやっと落ち着いて座る事ができる。
「ふ〜……………凛、大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ」凛はニッコリ頷いた。
「匠真、凛ちゃん、お疲れ様」父や母も疲れ気味に腰を下ろした。
「プリンちゃんファンは皆んな優しいわね」母さんが微笑んだ。
「そうだねえ、皆んないい人達だ」父さんも頷いている。
凛は嬉しそうに目尻を下げた。
「匠真、実は相談があるんだ」父さんはやや深刻な表情になっている。
「えっ、何?」
「前から父さんの夢だった事があって、それを実現したいんだよ」
「夢?…………」
「それは………この店『autumn』の名前が入ったワインを作りたいんだ」
「ワイン?」
「ああ、そうだ」
「何処かのワインを買ってautumnのラベルを貼りつけるとか?」
「いや、葡萄畑を作ってワイン醸造所を作る」
「え〜!!!」
「このカフェは匠真と凛ちゃんがいれば大丈夫だ、だから父さんは伊豆に葡萄畑を作りに行きたいんだ」
「伊豆に葡萄畑?意味わかんない」俺は困惑した。
「前から土地と家を探してたんだが丁度いい物件が見つかった、古い農家だが家と倉庫、そして広い畑が付いている。そこを買ってワイン作りをやりたいんだ」
「ちょっと待ってよ、まだ凛と暮らし始めたばっかりでいきなりそんな事を言われても…………」
「カフェは匠真と凛ちゃんで好きにやってくれ、二人なら安心だ」頷いている。
「母さん、なんとか言ってよ」俺は母さんを見た。
「そうね、私も凛ちゃんが匠真のそばにいてくれたら安心だわ、それにパパは言い出したら聞かないし」
「そんなあ………………」
「なんだ?匠真お店をやっていく自信がないのか?」不思議そうな顔をしている。
「そんな事はないけど、やっぱり準備ってあるだろう?」俺は眉を寄せた。
「凛ちゃん、匠真の事をお願いしてもいいかなあ」父さんは凛をニッコリ見ている。
凛は何度も瞬きして俺を見た。
「どうせお店はお前が引き継ぐんだ、だから自分の好きにやってみろよ。メニューだって好きに変えていいぞ」
「好きにって………………」俺は眉を寄せて頬杖をついた。
「勿論、明日から伊豆に行くって訳じゃない、しっかり準備してから行く、だから大丈夫だよ」
「う〜ん…………俺にも考えさせてよ」
「考えても良いけど、もう決めた事だから予定変更はないぞ」ニヤリとした。
5階にある凛の部屋へ帰ってきた。
「凛、どう思う?」
「私は匠真さんと一緒にいたら幸せだからお仕事頑張るよ」
「そう…………父さんの夢か………………」
「お風呂に入ろうよ」凛は微笑んだ。
「凛がいてくれたら大丈夫か…………」俺は凛を抱きしめた。
久々に休みが取れたので、天空カフェへ出かける。
天空カフェでは一瀬友希さんと知り合った。彼はイベントプロデューサーで凛がまだ無名の頃アドバイスしてくれたようだ、それがきっかけで凛は人気が出て来たらしい。新くんと同じ九州の出身らしく仲がいい。そして不良少女の希和ちゃんとも知り合った。炎上した時に希和ちゃんは凛を慰めてくれたようだ。
綾乃さんや千草さんも現状を理解して喜んでくれた。
「懐かしいなあ………ここから必死に東京まで自転車で走ったんだよねえ……」
「そうだね、あの時家族みんなで迎えに来てくれて嬉しかったよ」凛は嬉しそうに頷いた。
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