第32話 実家のカフェでは

「やっぱりこの豆がいいなあ」コーヒー豆の香りを確かめていると匠真の友達の奏太君が入ってくる。


「お疲れ様ですマスター」


「やあ奏太くん、どうしたんだい?」


「実は耳寄りな話があるんです」


そう言うと彼は持ってきたノートパソコンを開いて動画を見せた。


「なんの動画なんだい?」


「この子は人気ユーチューバーでプリンちゃんて言うんですけど、キャンピングカーで全国を旅して動画をアップしてるんですよ、可愛いでしょう?」


「ほう、そうなんだ……可愛いし、立派な胸だねえ」


奏太君はニコニコしている。


「で……この子がどうかしたのかい」


「実は匠真がこの子と付き合い始めたらしいんですよ」


「ええー、大変だ、ママに知らせなきゃ、ママ!!!ママ!!!」


「なあに、騒がしいわねえ」真由美が厨房から怪訝な顔で出てくる。


「この子と匠真が………」私は慌てて動画を指さす。


「何なの?落ち着いてちょうだい」


「奏太君の話だと匠真がこの子と付き合い出したらしいんだよ」


「あらそうなの」真由美は動画を覗き込んだ。


「随分可愛い子ね、でも……匠真は胸の大きい子は好みじゃなかったと思ったけど……」


「そういえばまだキスしかしてないって言ってましたよ」


「あらそう、じゃあそれなりに真剣なのね」真由美はもう一度動画を覗き込んだ。


「どこか寂しそうな雰囲気がする子ね、名前はわかる?」


「確か…寒河江凛ちゃんって言ってました」


「そう………北の方に多い苗字ね」真由美は少し考えている。


「なあ奏太くん、どうして知り合ったんだろう」


「匠真の止めてた自転車に彼女のキャンピングカーが接触したらしいですよ、心配するから両親には内緒って言われてますけど」


「そうなんだ……」


「ママ、可愛い子じゃないか」


「そうね、どんな子か話してみたいけど……」


「これからお互いをもっと知るための旅に出るって言ってましたよ」


「そうかい、匠真の奴大丈夫かなあ」


「大丈夫よきっと、息子を信じなさい、馬鹿なことをする子じゃないから」


「だから心配なんだよ、たまにはバカも必要さ」


「マスター、何の心配ですか」奏太君は笑っている。


「どんな子なんだろうねえ……」


「今夜彼女の生配信があるんです、もうすぐ始まりますよ」


「そうなんだ、じゃあ見てみようかね」


「彼女はアイドルみたいなものなんで、彼氏が出来ると見てくれる人が減るんじゃないかと思って、人形の彼と旅をすると言う設定を提案したんですよ」


「そうなの、人気があるのって大変なのね……」


「見てくれる人の数がそのまま収入に直結してるんですよ……」


「匠真は大丈夫かねえ、そんな子だと……」


「あっ、始まりましたよ」


3人は配信を見守っている。

しばらくすると、リンが人形を紹介した。コメントに『名前は?』の質問に答えた。


『名前はタクちゃん』


「「「えー!!!」」」


3人とも驚いて顔を見合わせた。


『お洗濯出来るからおセンタクのタクちゃん』


「うをーびっくりした」奏太君は額の汗を吹いている。


「アハハハハ……この子良い子ね、きっと嘘をつきたくなかったんだわ」


「なるほど、それでか……」


それからしばらく見ていたが、最後のプリンのラップを見て笑った。


「いい子じゃない、正直だし一生懸命生きてるわ、私気に入っちゃった」


真由美は笑いながら厨房へ消えていった。


「奏太君ありがとう知らせてくれて」


「いえ、でも話した事は奏太に言わないでくださいよ、約束なんで」


奏太君は手を振って帰っていった。


『匠真がんばれ!』私は心の中で叫んだ。

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