第31話 恍惚のプリン

翌日は天気も良くて絶好の撮影日和だ。

朝からリンは中田島砂丘を元気に走り回っている。

遠州灘の海岸沿いにある砂丘なので、海風が気持ちいい。

昨日は風が強かったようで、風紋も見ることができた。


リンはカメラの前で大きく手を広げる。

「見て!綺麗な風紋でしょう、同じ風紋は二度と見れないんだって、すごいねえ。

有名なアーティストがプロモーションビデオを撮影したらしいよ、とってもいい感じの動画が撮れそうだよね。

東京からも近いから、デイトスポットにも良いかもね」


リンんは楽しそうに砂丘を紹介した。


お昼はリンの希望で近くの有名なラーメン店で食べる。

午後からは北松屋で濡れても大丈夫な洗える人形を買った。

やはりリンと一緒に温泉に入れる人形が良いという結論に達したからだ。

リンはコンビニに寄ってお酒とつまみとおにぎりを買っている。どうやら今夜ライブ配信で企画を発表する気のようだ。

予告に買ったつまみとお酒を発表している、そうすると見ている人も同じつまみとお酒で参加できる。これもいつものお決まりらしい。


夜になってRVパークで配信の準備を始める。

リンは一緒にコンビニで買ったおにぎりを無言で食べている。かなり緊張しているようだ。

その後メイクしてプリンが出来上がった。

オレはキャンピングカーの外に椅子とテーブルを用意し、自分のパソコンで配信を見守ることにした。

リンはカメラをセットしている。テーブルの端には効果音を出すサンプラーやBGMを流すポッドキャストが配置された。

ツマミのタコわさ・玉子焼き・裂けるチーズ・スモークタンとお酒を用意すると予定の時間となり配信が始まる。オレは自分のパソコンでじっと見守った。


「みんな聴こえるー?」カメラに向かって最高の笑顔を披露した。


『カワイイぞー!!』         (TOKO)

『ぷりんさまー待ってたよー』     (さっしー)

『おひさー』             (まさるん)


早速多くのコメントが次々に書き込まれて行く。


「じゃあ乾杯するよ、まずは梅酒から飲むよ」リンは缶の梅酒を『プシュ』っと開ける。


「かんぱーい」リンはぐっと飲んで「ああ…うまい!」と満面の笑みをカメラに向けた。


『乾杯ですう!!!』         (ピコ太)


「さて、まずはどのツマミから食べようかなあ……タコわさと見せかけて卵焼きだあ!」


『なにい!そっちからか!』       (ぺんぺん)


「甘い…………美味しい」リンは嬉しそうに卵焼きを食べる。


『もっとアップで見たい』       (ムネキュン)

『おいちい』             (ピコぽん)

《おつまみ代・・・¥1107 ・・・・ YUKIKO》投げ銭も飛び交っている。


「雪子さんいつも応援してくれてありがとう、感謝ですう!! 」


「今度は…………タコわさ……あっツーンってきた!!!」リンは鼻をヒクヒクさせている。


『ヤバイ!カワイイ』         (マイコー)

『抱いてー!!』           (TOKO)


リンはハイボールの濃いめを開けた。かなり盛り上がっている。

リンをイジってくるコメントが増えてきた。

キラキラと輝くリアクションを返している。

しかしオレは、リンがいつものように大泣きできるか心配でハラハラと見守った。


《お酒代・・・・・¥2960・・     フクロウ》


「いつもありがとう、フクロウさん」リンはニコニコと手を振った。


フクロウさんと言うのは天空カフェの綾乃さんと新君からの投げ銭だと言うことは聞いていた。

二人も見守ってくれてるんだと思うと少しホッとする。


「はい、今日は特別な報告があります、実は…………彼氏ができましたー」『わー!!』リンはサンプラーから歓声の音をだした。


「はいこの人です」リンは買ってきた人形を出して抱きしめた、人形はHカップの束縛を受ける。


「びっくりしたあ???、実は彼と一緒に旅をすると言う企画です、だから要望があったらSNSに書いてくださいね」


『なにい!やっちまったなあ』     (玉ちゃん)

『本当に彼ができたと思った』     (TOKO)

『彼の名前は?』           (うめきち)

「彼の名前は…………タクちゃん」リンは嬉しそうに人形を抱きしめる。


オレはキャンピングカーの外でフリーズした。「えー!!どういうこと?」


「彼はお洗濯出来るからおセンタクのタクちゃんでーす、だから一緒に温泉に入れるんだよ、いいでしょう?」


「そう言う事」オレは胸を撫で下ろす。


「名前は希望があればリクエストしてね、リクエストに答えるから」リンは楽しそうだ。


そしてまたハイボールを『プシュ』っと開けた。

気づけばもう1時間以上経過している。

そろそろざわついて来た。


『一気一気!!』           (シロネコ)

『そろそろですか?』         (キナコ)   

『ティッシュいる?』         (まさぽん)


みんな大泣きするプリンを期待している。

リンは徐に袋を出した、そして袋の中から100均のパーティ手鈴を恥ずかしそうに出した。コメントは驚きで一杯になった。


『えっ、もしかして??』       (豆ちゃん)

『あの伝説のラップが見れる?』    (ナンシー)

『キター!!!」           (マンマ)


オレはなにが始まるのか分からないので緊張しながら見守るしかない。

リンは一気にハイボールを飲み干すと、テーブルを指先でトントンと鳴らしてリズムを取っている。


「プリンのラップ行くよー!!!みんな、準備はできてるかーい?」

「プリン、プリン、プリンのラップ・・・♪・・」

「おっぱいプリン・髪の毛プリン・あっちこっちプリンのリン・リン・リン♪」

「おっぱいプリン・髪の毛プリン・あっちこっちプリンのリン・リン・リン♪」

リンは手鈴をいきなり掴んだ。

「右向いてリンリン・左向いてリンリン・正面向いてリン・リン・リン♪」

「右向いてリンリン・左向いてリンリン・正面向いてリン・リン・リン♪」

リンは右を向いたり左を向いたりしながら手鈴を振って踊っている。


オレはただ呆気に取られて呆然と見守っている。

ラップと言うよりは数歌に近いと思う、ゲンコツ山のタヌキさん的な感じがした。

リンはしばらく繰り返して恍惚の表情を浮かべて配信を終えた。

オレは固まったまましばらく動けない。

リンはやがて車から降りてきた、そして思いっきり抱きついてきた。


「タクちゃん、泣かないパターンを頑張ったよ」


「そんなのがあったのか?」


「うん、死ぬほど恥ずかしいから滅多にやんないけど」


「そうなのか…………よく頑張ったな」オレはただリンを抱きしめる。


長い一日が終わった。

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