そのまま歩いていると、少し陽の光が強くなった。雨が止んだわけではないが、雲が薄れたのだろう。暖かさが体を包む。天気雨に変わったのだ。俺は天気雨の異様な風景が昔から好きだった。

「ねぇ、結構歩いたよね。いつ上につくの?」

 紫乃さんが音を上げた。運動靴が泥だらけになっている。近づかなくても分かるくらい足首が赤くなっていた。

「なに、まだ歩き始めたばっかりじゃんかよ」

 先頭に立つ高耶は後方の俺たちを気にしながら、そんなことを言っている。

 少しだけ進んだところで道が広くなる場所があり、そこで高耶が動きを止めた。

「よし、休もうか」

 高耶は背負っているリュックを開け、中からレジャーシートを取り出した。一人が座れるくらいの大きさのものだった。

「ほら、紫乃。座れよ」

「え、いいよ」

 紫乃さんは断っている。しかし、俺も紫乃さんが座るように声をかけた。

「足も赤くなってるし、座った方が良いんじゃない?」

 そうして、すこし逡巡してから、紫乃さんは遠慮しながらも、渋々シートに近づいた。座ろうとするが、しゃがみ辛いようでなかなか腰を下せないでいる。

「なあ、咲太。手、貸せば?」

「高耶も一緒に手伝ってくれよ」

「そうだな。そりゃそうだよ」

 また高耶が妙なテンションになっていた。そんなのには構わずに俺は紫乃さんの横に立つ。自分の傘を畳んで脇に置き、紫乃さんの傘を受け取った。

 高耶は俺と逆の方に立っている。

 片手で傘をさし、開いている方の手で紫乃さんの手を掴む。高耶の方も同じようにして、ゆっくりと紫乃さんは腰を下ろす。手は冷たくサラサラとしていた。

 ドシ、とお尻が地面につく。

「ありがと」

 紫乃さんはそのまま座り込んで、自分の足を伸ばしながら揉んでいる。高耶が紫乃さんを支えていた方の手を閉じたり開いたりしていた。俺は少ししてから紫乃さんに傘を返した。

 周りを見ると、木々の隙間から空や町が見えていた。まだ天気雨で、その中にある街は未知の感じがした。

 街を照らす太陽は、まだ真上にない。

「ほら、飲み物」

 高耶がリュックからペットボトルを取り出した。俺と紫乃さんのは少しだけ中身が泡立っている。

 あまり喉は乾いていない気がしたが、飲み始めると全て飲みきってしまう。高耶は一口飲んでまたリュックにペットボトルを戻した。紫乃さんも一口だけ飲んでいた。

「普段履かない靴だから、少し靴擦れが起きちゃったな」

 座り込む紫乃さんがペットボトルから口を離して言う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る