『琥珀』に着く頃には、雨は弱々しくなっていた。スラックスの裾がわずかに濡れている。店の前には傘立てがあり、灰色の渋い傘が一つだけ掛けてあった。

 その隣の小さな黒板には、薄いビニールが被せられていてなにが書いてあるのかよく見えない。雨に濡れない為に被せたのだろう。しかし、足の部分だけは覆いきれておらず、雨を吸って色が濃くなっていた。

 店内は相変わらず閑散としていて狭く、おじさんの店員は分厚い本を読んでいる。

 俺はすぐに眼球を見に行った。品揃えは変わっていない。しかし、前に来た時には目に入らなかったものが見えてくる。

 同じ眼球でも、ガラスでできたそれは、少しの歪さを持っていて、見るたびに印象が変わる。それと、光の加減。前に見に来た時は外が晴れていて、その光がガラスの瞳にキラキラと反射していたが、今は曇天の空を吸い込んでいて、とても悲しい表情をしている。 

 雨の日に見る眼球はどれも悲しく、欲しいと思えるものは一つも無かった。

「また来ます」

 冷やかしだと思われるのは嫌で、挨拶をしてから外に出た。傘をさすと、中から店員のおじさんが出てきた。

 おじいさんが黒板からビニールを外し、濡れないように店内に戻そうとしてる。今日はもう店じまいなのかもしれない。

 ビニールを外した黒板には、雨の日のための言葉が書かれていた。

『晴れた日にまたおいで』

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