14
ゆっくりと噛んでいる。それを見つめる俺と父と母。弟が飲み込み、またコップの水を飲んだ。
「父さん、これ、美味しいの? あんまりじゃない?」
つまり不味かったのだろう。実は、俺は一人の時にハンバーグにわさび醤油を試したことがあった。とてもじゃないが、美味しくなかった。父の味覚と俺の味覚がおんなじわけがないのは当然だよな、と気がついたのが少しだけ面白かった記憶がある。それ以上はなにを思ったわけでもなかったが。
父はそのどうしようも無い質問を聞き目を閉じている。わずかに笑っているように見えた。
「確かに、美味しくないよ」
「じゃあなんでいつもそれなの?」
「これは、なんと言うか、わさびの刺激がいいんだろうな。この歳になると、食べ物を味だけで選ばなくなるんだ」
「父さん、それ意味わかんないよ。食べ物は味じゃん」
父はまあなと言ってまた、ハンバーグにわさび醤油をつけている。
「そういえば、二人とも学校はどうだ?」
学校が始まってから父と晩御飯を一緒に食べるのは、今日が初めてだったかもしれない。
「まあ、まだ始まったばっかだから、普通って感じかな。もともと仲良いやつも結構いるし」
弟が先に返事をし、残りのハンバーグを食べ始めていた。
「俺も普通かな。まあ問題なさそうだよ」
俺も弟に続いて言う。頭の中には高耶とか夢咲さんの顔が浮かんでいたが、そのことを話そうとは思わなかった。久々の父との食事で、あまり難しい話をしたいとは思わない。
「そうか。ということは、すこし退屈かもしれないな」
弟は隣で、確かにそうだと頷いていた。
真ん中の大きな皿に、ハンバーグが一つ残っている。弟がそれを見て口を開いた。
「母さん。ハンバーグ、美味しいんだけどさ、なんで五個作ったの? その、最後の一つは誰が食べていいの?」
「もしかして、それずっと気にしてた? いつもなら美味しいとかすぐに言うから」
母はそういって、ハンバーグを弟の皿に入れた。
「次は、素直に食べたいって言いなよ」
弟はすぐにハンバーグを口に入れた。
「うまい!」
それから、いつも通りに食事が終わった。父は机を離れ、リビングの一角に置かれた小さな机に移動していた。趣味のプラモデル作りを始めている。母はドラマを見ていた。弟はいつの間にかいなくなっている。
俺も部屋に戻ろうとすると父が顔を上げた。
「咲太、ハンバーグは美味しかったか?」
「え、美味しかったよ」
「そうか。よかった。、咲太の口から美味しいと聞いてなかったからな」
そう言って父はまたプラモデルに視線を落とした。戦車の砲台の部分を一度いじり、それから説明書と見比べている。会話は終わっているようだ。
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